書ける「そういや、“ちょうそう”ってどう書くんだ?」
『どう書く』とは『漢字で』という意味だと一拍置いて気づき、脹相は一文字目から説明する。
「にくづきに、長い、だ」
「にくづき……肉……肉へん……?」
ピンときていない虎杖の様子を見て、漢字単体での説明をやめ、一般的だと思われる熟語で伝えることにする。
「膨脹の脹」
「待ってそれもわからん。書けん。ぼうちょう……張……? あれ? 弓へん……?」
膨脹の張の字には、表記に差し支えないとして教育漢字の『張』の字が当てられることが多いため、虎杖の言っていることは間違ってはいなかった。
──書いた方が早いな。
脹相は靴のつま先で土を抉るイメージをしたが、見下ろした地面は固いコンクリートでできていた。東京のど真ん中では、周囲にも土の地面は見当たらなかった。
それならば、と脹相は無言で虎杖の手を取った。
虎杖は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに彼の意図を察すると、されるがままになった。
そして、虎杖の手のひらに指を滑らせ自身の名前を書く。
「あ〜。『相』は相談の相で、これが『脹』で、にくづきって月か。初めて見たかもこの漢字」
納得すると、今度は虎杖も同じように脹相の手を取った。
「俺の名前は、『虎杖』は知ってそうだな。虎に杖。なんか、草の名前と同じ。んで、『悠仁』はこうな。俺もたまに『二』に間違えられる」
虎杖の説明を聞きながら指の軌跡をじっと見つめる脹相。
教えられずとも虎杖の名前は宿儺の器としての情報で知っていたが、それは黙っていた。
「良い名前だ」
脹相は弟とのコミュニケーションを純粋に喜んでいる。
『“相”の字が入っていればお揃いだったのに』反射的にそんなことも思ったが、口には出さなかった。
──悠仁の名前は、悠仁を想う人間がつけてくれた大切な名前だ。
──俺も大切にしたい。