Ready for action「これでよし……ああ、いいね、よく似合ってる」
「えへへ、ありがとう、ケント」
チェイスの首元、星マーク付きの青いタグが、晴天のもときらりと光る。
パウタグと名付けたこれは、チームメンバーの証でもあり、僕のパウパッドといつでもどこでも繋がるための大切なツールだ。今日に合わせて調整した完成版に、「カッコいいな」と笑ったチェイスはとても満足そうだった。
(初めて試作品をわたした時は「すごいすごい!」って飛び跳ねて大はしゃぎしてたっけ)
下ろしたての制服を着ている今日のチェイスは、堂々と胸を張り誇らしげだ。少し大人になったその様が感慨深く、また、内心の高揚を隠しきれないむずりとした表情は微笑ましい。
「ねえ、そう言えばさ、なんでけいさつのマークって星なんだろうな?」
首を傾げるようにこちらを見上げたチェイスが幼い表情を見せる。
「この星はね、警察の権威と高潔さと忠誠をあらわしてるって言われてる」
「へぇ〜、そうなんだ」
「後はね、タグ自体の形にも意味があるんだよ」
「タグの形?」
「盾の形をしてるでしょ? これは、防御と保護を意味してるんだ。この形に星マークのついたバッジを警察官がつけてるの、チェイスも見たことない?」
「うん、見たかも。くんれんじょのけいさつかんやけいさつ犬のつけてたバッジもこんな形だった」
真新しいタグに前足を触れさせながら、ふんふんと感心したようにチェイスが頷く。それをじっと見つめていると、僕に気づいた幼い顔が「なに?」ときょとりとした。
「高潔なる正義の星よ、市民を守る盾であれ」
チェイスが、目を丸くする。
「——なんてね。とにかく、これで晴れて君は警察犬だ。おめでとう、チェイス」
ふっと口元を緩めた僕に、しかし、チェイスは表情を引き締めた。
「助けが必要な誰かに、僕らの力を貸す時がとうとう来たね」
チェイスがぶるりと体を震わせた。ピンと背を伸ばし、ザッと音を立てて足をそろえ直す。
そして、彼は僕に向かって宣言した。
「Ready for action, Ryder, sir」
今度は逆に目を丸くしてしまった僕に、チェイスがニッと笑った。
「ちゅうせいをあらわしてるんだろ? リーダー」
まだ小さくて幼いチェイス。
けれど、彼は日々確かに成長している。そのなんとも粋で頼もしい様に、胸を熱くした。
真新しいタグ。濃紺の制帽と制服。輝く毛並み、瞳と表情。クリスタルを砕き降らせたようにすら感じる陽の光。その全てがきらきらと眩しい。
もう一度、チェイスのタグへと目を向けて、僕はゆっくりと目を細めた。
盾の形と、星マーク。
それは、権威と高潔、忠誠。
それは、防御と保護。
そして、もう一つ、そこに僕が込めた想い。
(君は輝ける星しるべ)
どんなに小さくても、いつでもそこに光っては在り続け、行先を示し導く。
「We're on a roll」
上々だね、と微笑む。隣に移動してきたチェイスが、僕に向かって笑い返した。少しずれてしまったその制帽を、僕は優しく整える。
二人で同時に見上げた先にあるのは、とうとう完成した僕らの基地パウステーション。
(はじまるんだな)
きっと、いつだって、迷っても、僕らはその道行を見失うことはないだろう。
傍のチェイスに手を触れながら、そう思った。
《終》