蘆屋道満×男夢主「是は是は楽師殿」
「貴方は……法師殿」
本日の勤めも終わり、帰路へ着こうとして居た矢先。雅楽寮を出て美福門へと進んで居た処で、呼び止められた。声の方を向くと、何とも――見慣れぬ人物が佇んで居た。
「おや、拙僧を御存じとは。名高き楽師殿に知って頂けて居るとは、光栄に御座いますなァ」
「貴方の方こそ、高名な陰陽師では御座いませんか」
顔と名前程度は知っている。が、藤原顕光様方の陰陽師殿が、何故内裏の斯様な片隅に居て、私に声を掛けるのだろうか。
「拙僧の事は蘆屋道満と、何卒呼び捨てに」
訝しむ私に気付いて居るのか否か、微笑み続けて居り、巨躯も相まって、官人貴人とは異なる存在感を放っていた。
「では蘆屋殿、と」
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