へし切長谷部より手紙が届いていますの没案 主はお考えになったことがありますか。
俺と婚礼の儀を結び、数年、数十年後、いつか俺という存在が、貴女の中で新鮮味を失い、色褪せた存在になってしまうかもしれないことを。
ねえ主。その時を思うと、俺はたまらないのです。胸が締め付けられて、足元から崩れ落ちるようなそんな気持ちになるのです。
主はお優しいからきっとそんなことはないとおっしゃるでしょう。ですが俺には分かるのです。
修行に出たことで、俺は一つ大事なことから目を逸らしていたことに、気が付いたのです。人はいずれ物に飽き、気まぐれに物を捨てるものだと。それをあの男は、信長は俺に教えてくれました。どんな名刀であっても、愛刀であっても、いえ、大事なものだからこそ手放さねばならぬ日が来る。
今、貴女にとって俺という存在はまだ飽きが来ていないのでしょう。
ですが、どれほど使い勝手がよく、切れ味が良い刀であっても、他の物に目移りするときがくる。
俺と婚礼の儀を結び、数年、数十年後、いつか俺という存在が、貴女の中で新鮮味を失い、色褪せた存在になってしまうかもしれないことを。
貴女は死んでもなお俺と一緒にいたいと言ってくださった。
俺はそれが、とても、とてもとても嬉しかった。貴女は死後のことすら俺に任せてくださった。俺に全幅の信頼を寄せてくださること、それが俺にとって誉れ高く喜ばしいことか、貴女にはきっとわからないでしょう。ですが、それでよいのです。きっとこの感情は俺だけが持つことを許されたものです。
ですが人とはいつか物に飽き、そして死にます。いずれ繋いだ手を離さねばならぬ日が来るのです。
だから主、本丸に戻ったら、貴女に改めてご結婚を申し込みます。どうか俺の我儘を許してください。