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    キモオタ

    五悠のみ
    くるっぷ在住
    https://crepu.net/user/LRkotei

    支部みたいな使い方してます、ログまとめ倉庫

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    キモオタ

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    俳優ゴと一般人イくんの五悠

    #五悠
    fiveYo
    ##現パロ

    本質表すばかりなりそもそも、僕の握手会に男が来るって時点で珍しいもんだと思った。僕の容姿は多分男女問わずに刺さるけど、やっぱ握手会なんていう直接的な場にはどうしても男性は参加しづらいようで。というかそもそも競争率が鬼高だからってのもある。今日のために気合を入れて自分の形を整えてきたファン達を見て、定型文の所々を変えながら握手を交わす笑顔マシーンと化していたところに、その子は現れた。

    「こんちは! …うわーすげぇ、本物かっけー!」

    勢いのまま握手オネシャス!と突き出された手は、自分より小さいとは言えまごう事なくゴツゴツとした男の手だった。手元にあった視線を上に戻すと、派手な頭にヤンチャそうな大きいツリ目の男の子。え~、珍しい。僕のファン層にいなさそう。印象に残りやすい見た目の彼に一瞬固まったが、すぐ笑顔に戻って差し出された手を取った。
    「ありがとう、男の子からかっこいいって言われるの嬉しいよ」
    「そうなん…すか? 五条さん男から見てもマジでかっけえっすよ! いつも応援してる! つかでけー、手もでけー!」
    興奮のあまり、でも周りに迷惑をかけない程度の声ではしゃぐ彼の感想を聞いて、思わず噴き出しかけて変な声が出てしまった。
    「んぐ、フフッ、君の中でデカいってかっこいいんだ?」
    「えっ、かっこよくないすか? や、でもデカいからカッコいいって言ってるわけじゃないんすけど」
    「わかってるわかってる、面白いなと思っただけ」
    素直だ。
    僕は久々にこんな直球な人間性に触れた気がして感動していた。あとほんとに面白いなと思っていた。こんな戦隊ロボット見た小学生みたいな反応されたの初めてなんだもん。普段の握手会対応とあまりに違う口数に、横で見ていたスタッフが目をまん丸にさせてることすら面白い。
    他のファンはスタッフから時間だと言われるまで目一杯、何ならちょっとそれを越そうとしてくるくらいなんだけど、彼は自分からそろそろ時間だと引き下がったのも珍しかった。潔すぎるだろ。何なら僕の方がちょっと物足りないくらいだ。
    「ありがとうございました! へへ、めちゃくちゃ嬉しかったっす! これからも応援してます!」
    細められた目が日向にいる猫のようだなとか思っている間に、彼は退出しようとしていたので、僕は焦って「また来てね」なんて初めて声をかけてしまった。去り際に目を見開いた彼は、にっと笑うと小さくピースしてから出ていった。エ~、何?僕がファンサ貰っちゃった。きゅん。



    「ねえ伊地知くーん」
    帰りの車の中、僕が持ちうる限りの優しい声で話しかけてやったってのに、マネージャーは白い顔を青くして目を剝きやがった。テメーこの野郎。
    「僕さー、戦隊物とかライダー物、出てみたいんだけど」
    「…エッ? そ、それはその、つまり、ニチアサ…系、ですか?」
    「それ以外何があるんだよ。パロディAVでも出ろっての?」
    「言ってませんひとこともそんなことは!」
    勢いの良い倒置法で喚く伊地知、うるさい。組んだ足先を揺らしながら、僕はじわじわ圧を強める。
    「とりあえず、そういうオーディション何か見つけてきてよ」
    「と、とりあえずで見つかる物じゃないですよ…ああいうのはイメージ重視ですし」
    「お前僕のイメージが悪いつってんの?」
    「わ、わ、悪いわけではなく! 五条さんのイメージと方向性が違うという意味で」
    まあ、僕と言えばどちらかと言えば月9や映画のイメージが強いだろう。仕事を選んだつもりは特にないが、ビジュアルや演技に噛み合うのがそっちだった。けど、アクションは映画でやってきたし。熱血漢はキャラじゃないかもだけど、今時主人公でもクールだったりマッドだったり、色んなキャラクターがいるわけだし。やって出来ないことはないだろ、何といっても僕だし。
    僕が急にこんなことを言ったのは勿論、あの猫くんがきっかけだ。きっかけというか、そのまま原因だ。あんなにキラキラした顔で僕をヒーローのように見つめていた彼に、それならロボットでも出るような作品に出演するのを見せてみたくなっただけ。マジでそれだけ。もう一度話すどころか会える保証すら特にないのに、おかしいよね。でも彼は、また来てねに笑顔で応えたんだから、きっと来てくれる、はず。普段なら社交辞令で伝える言葉なのに、それを真に受けている自分がよく分からなかった。
    「良いから探しといてよ、よろしく」
    有無を言わせぬ命令形にハイ、と小さく答えた伊地知の背中が重しを載せられたようにげんなりと下がった。何、なんか憑りつかれてんの?こわ~、お祓い行けば?



    ワッと歓声が上がり、一緒に拍手の嵐。
    大盛況だねえ、と出演者ながら他人事のように眺めてニコニコと笑顔を作る。
    今日はいわゆるキャストトークショーを兼ねたイベントだ。そう、僕が出たライダーシリーズの。
    マネージャーは僕が言った通り、キッチリとオーディションを取り付けてきた。ニチアサ、ライダー、一言一句間違いなく。僕は難なく合格し、役を演じきった。

    ライダー、の、悪役を。

    何でだよ!と勢いのままに伊地知を締めにかかったが、台本と配役を見ればさすがの僕でも文句は言えなかった。なんでって、びっくりするほどハマり役だったからだ、僕のキャラ。
    物語中盤くらいからフラリと現れては意味深なことを言って、掴みどころは無いくせにやたらと強く、そんでもって実は黒幕。もはや逆指名にも近い形で僕はこの役に受かってしまった。いやありがたいことなんだけど。他のキャストもそれぞれしっかりイメージと合った俳優たちが配置されており、今更異を唱えるのは無謀だった。監督だって長年この業界にいる大物だし、何といっても僕の演技をめちゃくちゃ気に入ってくれている。さすがにそれを無下にするほど人間腐ってはいない、と思う。思ったのと違う、違うけれど、そこそこベテランの僕。投げ出すなんて絶対に役者としてのプライドが許さず、気づけばライダーシリーズ初、主人公組を超えるグッズ売り上げを叩き出すほどの人気キャラとなってしまった。クソ、やっぱり何でも出来てしまう。才能って罪だな…。
    しかし新しいジャンルに挑戦したことでファン層も広がりましたよ、とホクホク顔をしていた伊地知はムカついたので、むちゃくちゃパシリに使ってやった。

    「五条悟さんと言えば月9や映画俳優としてのご活躍が多かったように思いますが、今回この作品に出演されたのはどういったきっかけで?」
    表面上そうは見えないよう、適度に相槌を打ちながら上の空だった僕に、司会を務める若手俳優がこう振ってきた。芸歴短めの頃ってそういうのやらされがちだ。大変だよね、頑張れ。
    「そうだねえ…」
    すっと指先を顎にあてて考える仕草、作中で僕の役がよくやるポーズに客席から黄色い声がすっ飛んでくる。思った通りの反応ありがとう、客を沸かせるイロハが染みついている僕の体もありがとう。
    しかし、はて。僕が出演を決めた理由。
    「……喜んでくれるかなあと、思ったから?」
    思わず個人を指すような言葉をつけそうになった、危ねえ。疑問符はついたが、笑顔でゴリ押した。司会くんはもはや金切声になった客席に負けない声で「なるほど、ファンの皆さんに新たな一面を見せることで喜ばせようと」なんて良いように解釈してくれた。頷きもせず、首も降らず、曖昧に微笑んでおく。うーん良いアドリブ力、やっぱニチアサの主人公って今後売れそうなやつ多いんだよな。

    イベントは滞りなく進んだ。けど、僕は終わりが近づくにつれて気が気じゃなくなってきた。正直、僕にとって今日一番の現場はここじゃない。
    この後のサイン会だ。
    さっきも言ったように、僕のキャラの人気は尋常じゃない。ので、それにかこつけたサイン会が今夜ある。開催が昼間じゃないあたり、やっぱり僕のファン層は変わらず20代以上なんだろう。子ども向け作品だぞ、一応。いや、子ども人気が欲しいわけでもないけど。
    サイン会も握手会と同じように、少しだけ話す時間を設けている。僕はそこに、この作品に出た意味の全てを賭けていると言っても良かった。忘れようにも忘れられない、あの猫くんに会えるかどうか、これである。
    倍率は恐らくめちゃくちゃ高い。何ならこの前の握手会より高いだろう。作品が終わった今、このキャラクターに関連するサイン会はこれが最後となるからだ。純粋なニチアサ好きだっているだろうし、僕自身のコアなファンなんかは何を差し置いても参加したがるだろう。でも、そんなの乗り越えて来てくれ。頼む。本人が望んでんだからもう呼んでよくない?名前も何にも知らないけどさ。僕はもう彼と会えるまでのサインは練習だと思って臨むことにした。不誠実?バレなければ誠実と変わんないんだよ、何事もね。


    もはや素振りと化したサイン。いつまで経っても終わりの見えない長蛇の列。ここが地獄か?印象に残ってほしいとかで死ぬほど香水振りかけてくるやつとかいるけどマジでそういうのやめてほしい、普通に酔うんだよ。具合悪いわ。
    様々な罵倒を上手に包んで飲み込んで笑いかける。中身のある会話をしてえ。いや嘘、会話したくないあんまり。早く終わってほしい。
    僕今顔青くなってんじゃねーかな、とぼんやりしてきた脳を持て余していた時、少しだけ大きな話し声が聞こえてきた。
    「あの、すんません、サイン会並ぶのってもう無理すか?電車遅延しちゃったんで遅れちゃって…」
    人間長らく接していない生き物のことは声から忘れていくなんて言うけど、その声音は僕の濁った脳に勢いよく酸素を送り込むようだった。覚えてる、覚えてるよその声!
    アイコンタクトでその辺に控えていた伊地知を呼び寄せる。あいつはどうも僕が後で来たやつは断れと言うように思っていたらしく、ちょっと悲しそうな顔をしていた。なので、真逆のことを指示したら爆速の瞬きをした。ちょっと面白いじゃんそれ。
    「今来た子、並ばせてあげて。最後尾」
    「…いっ、良いんですか?」
    何回も言わすな、早く行け。を笑顔に込めて送り出す。僕の声と笑顔に間近で見惚れていたファンに、形だけの待たせてごめんねをあげれば、全然気にしてません!と真っ赤な顔で元気良いお返事。伊地知もこれくらい従順だったら良いのにねえ。
    ああー、超やる気出てきた。ここから何人いようと、最後に間違いなくあの子が待っている。最高じゃん。
    新しい顔取っつけられた愛と勇気のヒーローみたいに、僕はさっきまでとは気分一新、機嫌良くその他の皆さんとの交流を続けた。

    そうして足音も激減した夜の会場、そろりと最後に覗き込んできたのはあの猫くんだった。前の元気の良さとは打って変わって、かなり申し訳なさそうな顔だ。
    「こんばんはー…」
    でもちゃんと挨拶はするんだね、もー、やっぱ面白いな。
    「うん、こんばんは」
    「あの、すんません、遅れてきたのに並ばしてもらっちゃって」
    「良いよ、だって折角来てくれたんだもん」
    心からの気にしないでを笑顔に込めれば、猫くんの表情は綻んだ。笑顔可愛いなー。サイン用のパンフレットを僕に差し出す彼は、前と同じく興奮気味に話しかけてきた。
    「俺、五条さんがニチアサ出るとは思わんくてびっくりした!…ました!」
    「ンッ、フフ、いいよ、敬語じゃなくて」
    付け足されたお粗末な敬語に思わず笑い声をこもらせた。猫くんは、あ、そお?なんて照れたように笑って続ける。照れてる顔も、順応力が高いところも良い。
    「俺びっくりしてさ、でも、マジでちょー嬉しくて! 日曜めっちゃ早起きするようになっちゃった!」
    「エ~、何それ可愛い。赤ちゃんじゃん」
    つい口をついて謎の誉め言葉が出てきた。だって可愛くない?僕を見るのが楽しみで日曜早起きしちゃうなんて、赤ちゃんばりの素直さじゃない?
    猫くんは僕の言葉にきょとんとした。
    「さすがに首は据わっとるよ、俺」
    「っぅわはは、そこじゃねえ~!」
    普通に大笑いしてしまった。着眼点そこかよ。僕を見る伊地知が富士山の噴火でも見ているような顔をしているが、そんなもんより猫くんに時間を割きたい。
    僕はサインを書きながら、本日一番のわくわくイベントに差し掛かった。
    「ね、名前なあに? 書くから教えて」
    「あ、俺、イタドリユージ!」
    「どう書くの?」
    ちなみに、これまでの参加者の名前なんか書いてない。そんなんしてたらバカみたいに時間かかるだろ。伊地知、黙ってろよ、いいな。
    「んーとね、これ」
    そう言って彼が見せてくれたのはスマホの設定画面。オッケー、そのままにしといてと返して一文字ずつ渾身の丁寧さで書いていく。
    虎、杖、悠、仁。何、やっぱ猫だったじゃん。マジ?僕のインスピレーションやばいな。そんでもって可愛いな、名前まで。
    はいどうぞとパンフレットを返すと、猫くん改め虎杖くんは感動したように…というか多分マジで感動して、それを眺めた。色素の薄い目がキラキラしてる。
    「はあー……ありがとう、五条さん。すげーうれしー…。俺、今日電車遅延した時終わったって思ったけど、諦めずに来て良かった」
    頬を赤らめて見つめてくる虎杖くんに、僕の方こそありがとうと言いたくなった。でも、ここで言っても僕の思ってるありがとうの意味に少しも届かない表面上だけの感謝になりそうでちょっと歯痒くなった。ここで、そろそろどころかかなり時間が押していることを伝えたそうにしている伊地知を見て、僕は閃いた。
    「…あれ、伊地知ィ、僕のスマホ知らない?」
    唐突な僕からの問いかけに、伊地知はヘッ?と素っ頓狂な声を上げた。今日お前いちいち面白いな。不思議そうに首を傾げる虎杖くんに、僕はとびっきりの笑顔を向ける。
    「…実はね、今日最後の人は特別に僕とツーショットが撮れるんだよ」
    内緒なんだけど、と頭から最後まで今思いついた適当なことを言うと、虎杖くんはさっきの伊地知みたいにヘエ!?と声を上げた。おい、なんかお揃いみたいでムカつくな。伊地知あとでビンタな。
    「で、でも俺たまたま遅れただけだし、そんなん申し訳ねえよ!」
    「いーのいーの、遅れたのだって運の内だよ」
    でもね、と僕は甘やかな丸め込みボイスで続ける。
    「スマホ、どっか置いちゃったみたいでさあ。…あ、そうだ虎杖くん、今から言う番号にかけてみてくれる?」
    「う、え、ええ?」
    「言うよー」
    0から始まる番号を彼にしか聞こえないくらいの音量で言えば、意味わかんないですって顔のまんま番号を入力していく。いやー、こういうイベント慣れてなさそうだと踏んだけどその通りだった。良かった良かった、素直な子って最高だなー。
    入力し終わったらしく、かけてみてと頼んだ3秒後くらいに少し離れたところから、初期設定を変えていない僕のスマホの着信音が響いた。
    「あっちにあったんだ。伊地知、取ってきてー」
    早くしろよの副音声を虎杖くんには聞こえないよう伝えれば、伊地知は紙のような顔色で迅速に取ってきた。超胃が痛くなってんだろうな、ドンマイ。今機嫌良いから、あとで胃薬買ってあげる。ビンタもするけど。
    「よし、それじゃ撮ろっか」
    「…お、おう!」
    虎杖くんは多分考えることが苦手なのだろう、さっさとこの意味が分からない状況についての思考を放り出したらしかった。うんうん、人生ノリでやり過ごすことも大事だよ。人生の先輩からのアドバイスってやつ。

    そうして僕はこのニチアサ出演一番のご褒美、彼の名前、ツーショット写真、電話番号を手に入れたとさ。いつ電話しよっかなあ、楽しみだね。
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