朝食時につけっぱなしのテレビから「本日は流星群が見られます」と明るいキャスターの声が聞こえてきた。
その時はふうん、と聞き流したがタイミングが良いのだか悪いのだか、夜中に代行証の音で叩き起こされた一護は眠い目をこすり擦り虚を退治し終えた帰り道、そういえばと思い出して夜空を見上げる。
雲も月も無い絶好の観測日和だった。
星の瞬く音が聞こえそうなほどに澄んだ冬の空気の中だと夜空が良く見える。
そう時間も経たないうちに星が一つすう、と糸を残して落ちていく。
「あ」
思わず声が上がる。
瞬いた時には既に流れ星は消えていた。
けれどそのまたすぐ後にもう一つ星が流れる。
「流石流星群だな」
何時もであれば流れ星は運が良ければ見えないというのに本日は空を眺めている少しの間だけで次々に見つけられる。
すぐ家に帰るのももったいないと一護は近くの公園に移動してベンチに座った。
防寒着の無い死覇装の状態では寒かったがそこまで長居する心算は無かったので手をこすり合わせて寒さを紛らわす。
幾つ流れ星を見たのか分からない位時間が経った時、
「この寒い中、何をしている」
「ふあ!?」
一人だった空間に突如声が掛けられた。
一護は今死神の身体である為、現世では見る事が出来る者は限られる。
だが一護はその声の主を知っていた。
「びゃ、白哉!?」
同じ死神————と言っても一護と違い代行ではなく正式な死神、しかも十三人しか居ない隊長の一人である朽木白哉。
白哉が何でこんな深夜に現世に居るんだ、と一護は目をぱちくりさせていたが白哉はその問いには答えてはくれなかった。
「それで」
「ん?」
何が『それで』なのか一護は一瞬分からず首を傾げたが最初に白哉が来た時の「寒い中何をしているのか」を差すことに気付く。
「ああ、今日が流星群の日だって言ってたから見てたんだよ。ほら」
タイミングよく星がすうっと流れる。
しかし一護が指さした場所を白哉が見上げた時には既に星は落ちきっていて、瞬く星しか見えない。
「……嘘じゃねーぞ」
「別に疑ってはおらぬ」
見上げた儘の白哉の紫掛かった目に星のきらめきが移った様に見えて思わず見惚れた。
白哉を好いている身としては目に毒で、不自然にならない様に気を付けながら目を反らす。
だがいつの間にか空から一護へと視線を戻していた白哉に何か引っかかるものを感じさせてしまったらしい。
「如何した」
「えっ、あっ……えーっ、そうだ、白哉は流れ星に願い事掛けると叶う、っていう話知ってるか?」
思い付きであったが白哉の気は反らせたらしい。
もう一度一護が指さした方を白哉が向いていた。
「聞いた事はある」
「って事はやった事はねえのか」
白哉らしいと小さく笑う。
白哉の子供の頃は知らないがそれでも星に願い事をする男など想像も付かなかった。
空を見上げれば丁度星がひとつ流れる。
「……」
———どうか、白哉が俺の気持ちに気が付きません様に。
直ぐに消えていく流れ星が現れていた内に願えていたかどうかは分からない。
けれどここまで幾つも流れているのだから、一つくらいに当たっていても良いだろうと適当に考える。
ふと視線に気が付き、一護が白哉の方へと顔を向ければじっと静かに見詰められていてどきりと心臓を跳ねさせた。
願いが願いだった所為でどうしても気まずくなってしまう。
「何を願った」
「……願い事は口にすると叶わなくなるんだぜ」
そう言えば、白哉の目が微かに細まる。
恋次辺りであれば何だ怪しいな、と突いてくるが白哉であれば無理に問いただしては来ない事を知っているので一護にとってはありがたい事だった。
そうか、と白哉が吐息を吐きながら頷いた。
白く吐き出された息が夜の静寂に溶けて消えていく。
「ならば聞く訳にはいかぬな」
「そうだよ」
白哉にとって自分のこんな気持ちなんて知っても気持ち良い事ではない。
ずきずきと痛む心臓を抑える様に一護は死覇装の袷を握りため息を一つ吐いた。