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    makisatox

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    過去作品【Magenta-Magenta】※ジクジタ

    ##ジクジタ

    夜会の警備をすると言ったら、ジークフリートさんからブローチをもらった。
     真っ赤な、滴る血のような色のブローチ――石の中には、彫られたものなのか天然のものなのか、花弁が刻まれている。
    「も、もらえません!」
    「俺が持っていても使う機会もないし、助けると思ってもらってくれないか」
     夜会の主役は、もちろん私なんかじゃない。ドレスコードがあるから最低限の装いはするけれど、こんな大層なブローチをいただいてしまう義理はないし、なにより私には似合わない。
    (ていうか、このブローチ……なんで、ジークフリートさんが持ってるんだろう)
     ブローチって、男の人もするものなのかな。
     ランスロットさんやヴェインさんは、正装の時に勲章を身につけている。パーシヴァルさんはウェールズ家の徽章をつけていた気がするが、ブローチは見たことがない。
    「それに……これ、ジークフリートさんの私物ですよね」
    「若いときに、宝石商に押しつけられてな。フェードラッヘの私室を片してきた際に見つけて、石の方は一度研磨し直した。金具の部分はシェロカルテ殿に当たって似たものを用意したんだが――」
    「フェードラッヘ、の」
     そこは、長い間封じられてきた一室だったと聞いた。
     ヨゼフ王の死後、国を出奔した彼の私室は、白竜騎士団の団長となったランスロットさんの手によって封鎖されたのだ。
     それはランスロットさん本人から聞いていたし、私物もそのまま部屋に押し込んできたという話を耳にしたことがある。
    「誰かへの、贈り物だったんですか?」
     そう尋ねる自分の声が、少しだけ遠かった。
     この真っ赤なブローチを彼から受け取る、誰かがいたんだろうか。
     そんなことを考えてしまう自分が浅ましいとは思うけれど、絞られるような胸の痛みはなかなか消えてくれない。
    「いや、贈る相手はいなかったな。それは元々、ヨゼフ陛下が懇意にしていた宝石商から、受勲の祝いにと押しつけられたものなんだ。生憎俺には宝飾品をつける趣味はなかったが、陛下の顔も立てねばならない」
     敬愛する王様のことを語るとき、ジークフリートさんの表情は少しだけ寂しそうになる。
     だけど――ほんの少し、いけないとは思いながらも、どこかで安堵している自分がいた。彼に、そんなプレゼントをしたいと思える人がいたわけじゃないんだ、って。
    「それに、埃を被って放っておかれるよりは、ジータに身につけてもらった方が石だって喜ぶだろう」
    「でも、私……戦闘とかしますし、落として壊しちゃうかも」
    「装飾自体はそこまで壊れやすくもないだろうが――そうだな、それが心配なら、こうすればいい」
     新しく誂えてもらったドレス、黒と金を基調とした、いつもより大人っぽいそれにブローチをつけようと、ジークフリートさんが身を屈める。
     そうすると、彼の香りが鼻先をくすぐっていった。いたたまれなくなって目を伏せると、逆に視線を上げてきたジークフリートさんは薄く微笑む。
    「よし、これでいいだろう」
    「ひえぇ……ほ、本当につけちゃった」
    「なに、エスコートくらいはするさ。俺が帯剣しているのは物珍しくもないだろうし、お飾りのレイピアでも戦うことはできる」
     そう言うと、彼は長い指をクッと曲げた。
     それだけで、関節がポキポキと音を立てる。
    「有象無象が相手ならば、素手でも負ける気はしないからな」
    「さ、さすがです、ジークフリートさん……」
     わぁ、と軽く手を叩くと、彼は長い髪を背中に流して笑っていた。
     普段とは違う礼装姿だから、髪型もしっかりとまとめているのだ。普段は隠されがちな表情がよく見えると、また胸が苦しくなってくる。
    「会場の警護も大切だが、こういう場は楽しんでおくといい」
    「楽しめるんですか……? ジークフリートさんは、楽しめたことあります?」
    「いや……俺は、あまり」
     微笑みでごまかして、言葉少なめに口をつぐんだその姿を見て、なんとなく事情を察した。
     フェードラッヘは、ともすればウェールズ以上の貴族社会だ。
    「まぁ、一概にすべてが悪いとも言い切れないんだ。例えば商業ギルドの人間と懇意にしておくと、なにかと楽をできる」
    「それってシェロカルテさんみたいな?」
    「そうだな……彼女ほど万能ではないにしろ、だ。そういう人脈を作っておくと、後々それが活きてくる」
     まさか、ジークフリートさんから人脈の大切さを説かれるとは思わなかった。
     そんなことを胸元を飾るブローチにそっと触れた私は、次の瞬間ハッとして自分の指先に視線を向けた。
    「あつ、い……? ううん、温かい……?」
     それは、鉱石にしては高すぎる温度を持っていた。
     まるで静かに炎を宿しているかのような温もりを持つそれは、室内の灯りでわずかに脈打っているようも見える。
    「これって、一体……」
    「ドラッヘンヘルツ。それが、その石の名前だ」
     とくとくと、触れた場所がにわかに温かくなる。
     竜の心臓を意味するその宝石を、どうして彼が私にくれたのかなんて、そんな。
    「ジータにこそ、持っていてもらいたかったんだ」
     とん、と、自らの左胸を叩いたジークフリートさんは、その手を私の前に差し出した。
     目眩が、する。
    「気に入ってくれると、嬉しいんだが」
     張り裂けそうになる心臓と、胸元のブローチが同時に跳ねる。
     ――ずるい、この人はずるい人だ。
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