俺は久しぶりに風邪を引いた。
滅多に風邪何て引かないのにはじめて風邪で学校を休んだ。
「ばーじさん!お見舞いっす!差し入れ買ってきましたよ?」
「ちふゆ…お前…」
「俺は金無くって高けぇフルーツとか買えないっすけど…風邪に良さそうなの選びました!」
「んな事聞いてねーよ…」
「へ…?」
聞いてんのは何でお前の顔が傷だらけだって事だよ…。
「ん?あーこれっすか?何か帰り道、ほかの族に場地さんの悪口言われて喧嘩したら1対20ぐらいになっちまって…」
「ごめん…ケホッ…」
「いやいや!場地さんは気にしないで下さい!ザコばっかりで本当大丈夫っすよ?」
「千冬ぅ…上がってけよ。怪我手当てしてやる…」
「えっ…でも…」
「俺は大丈夫だから…てか、お前がそんな怪我してんのに見過ごせねーよ…」
「本当すみません…」
千冬を家に上げると俺はふらつく足取りで救急箱を探す。
「場地さん熱はどおっすか?」
「んー…」
「明日は学校行けますか…?」
「んー…あった」
風邪を千冬に移すわけにはいかないからマスクを付け救急箱を持って千冬の元に戻る。
「千冬ぅ?こっち向いて…」
「はい…」
結構派手にやられたな…
ザコが…ぜってぇ許さねぇ…。
「染みねーか?」
「へーきっす…」
「うっ…ケホッケホ…」
不意に出てしまった咳に千冬から顔を背ける。
千冬は更に心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だって…そんな顔すんなや…」
「だけど…場地さんの手すげぇ熱いっす…」
「あーそれ気のせい…ほら?ここ、消毒するぞ?」
「はい…」
千冬の傷に絆創膏を貼るたびに俺の中で許せない衝動が生まれる。
上等だ…ぜってぇボコボコしてやる。
例え自分が死んでも千冬の仇打つ。
「場地さん…?」
「ん?ほら…出来たぞ」
千冬は小さくお礼を言うと何か言いたそうにしたがすぐ笑顔になってお礼に何か作ってくれるそうだ。
「場地さんは寝てて下さい!」
「分かった…ありがとな…ケホッ…」
今日母ちゃんはいねぇしかなり助かった。
結局千冬は夜中まで居てくれたが明日も学校だし移ったら大変だと思い帰らせた。
「38.0°…全然下がらないわね」
「ケホッ…コホ…んん…」
朝方母ちゃんに体温を測られ今日も学校を休む事が決定した。
俺には好都合だと思った。
千冬の仇を打てる絶好のチャンスだから…。
千冬
場地さんが俺と出会ってからはじめて風邪を引いて学校を休んだ。
場地さんがいない学校は詰まらなくてフケてしまおうかと何度も思ったが、俺が学校を抜け出して場地さんの所に行っても場地さんは喜ばないし寧ろ怒られそうだから我慢した。
学校の終了の合図と共に教室を飛び出す、担任が何か叫んでいたが終わった物は終わったのだ。
早く場地さんに元気になって欲しいから果物が良いかゼリーが良いか悩むなぁ何て考えいると
「あれぇ…?この前の松野じゃん?」
「今日は場地さん居ないんですかぁ?」
話し掛けて来たのは前に俺に奇襲を掛け場地さんにボコボコにされた暴走族男打羅、本当にコイツらは空気を読まず忙しい時に話しかけて来る。
無視して立ち去ろうとした時無視してんじゃねーよと髪を掴まれた。
頭にズキッと痛みが走る。
「場地さんいねーとよぇーからって逃げんなよぉなぁ!?」
「あ!もしかして場地さんお風邪でも引いちゃったぁ?」
「…うるせーな…」
俺の事はいくら言っても構わない、けど場地さんの事を言われるのだけは許せない。
気付けばまた20人位に囲まれていて本当に面倒くせぇ…。
あの時みたいに助けてくれる場地さんは居ないからひたすら一人で戦う。
早く場地さんに会いたいとその一心でただ立ち向かった。
「くそっ…いってぇ…」
何とか20人のしたけど気付けば空は真っ暗になっていた。
スーパーに寄り少ない小遣いで場地さんが食べれそうな果物を手に取る。
家に行けばパジャマに冷えピタの場地さんが出迎えてくれた。
場地さんに傷を手当てして貰えるのは嬉しいけど手が熱すぎて早く寝て欲しかったのに…。
「旨いっすか?」
「うん、旨い。今日母ちゃんいねぇし朝帰って来るから飯助かったワ」
「俺、今日泊まって行こうかな…」
「いや、移るし…明日学校だろ?今日ちゃんと帰れよ」
場地さんの圧に負けてその日はちゃんと帰ることにした。
けれど場地さんは玄関までちゃんとお見送りに来てくれた。
「ばじ…しゃん…」
「おぅ…何だよ?甘えたか?」
「んー…」
「今日は俺の為に体張ってくれてありがとうな…千冬」
無性に離れたく無くてギュッとお腹の辺りに抱きつく。
さっき感じた嫌な予感が心を掠めたんだ。
こんな嫌な予感思い過ごしであって欲しい…。
次日も場地さんから学校を休むと連絡が来た。
俺はつまんねー授業を一人で受けて、美味くない購買のパンを齧る。
そんな時だった。
ポケットの携帯が震え着信画面を見た。
着信主は場地さんで俺は嬉しくなって電話に出た。
「場地さん!具合どおっすか?」
「…千冬君なの!?」
「へ…?あっ…はい!」
着信の主は場地さんでは無く場地さんのお母さんだった。
あまりの慌て様に間抜けな返事をしてしまう。
「今、買い物から帰って来たら圭介がいないの!千冬君一緒じゃ無い!?」
「えっ…だって場地さんは…」
「そう、朝も高熱だったの…全くあの子は!携帯も持たずに…」
「俺!探して来ます!!」
俺の嫌な予感が当たってしまった。
あの場地さんの一瞬の表情はやっぱりおかしかったんだ。
また、止められなかった…。
手当たり次第走り回って場地さんを探す。
見つからないうちに次第に空模様が怪しくなりポツリポツリと雫が顔を掠めあっという間に土砂降りになった。
「場地さーん!!」
考えろ…場地さんがどこに行ったか…。
確か場地さんが昨日考えた顔した時は俺が絡まれてた話をしてた。
「そうだ…男打羅だ…」
寒さで震える手で携帯を開け場地さんのお母さんに電話を掛ける。
「もしもし?千冬君…今見たら圭介、特攻服着て行ったみたいなの…」
やっぱり…男打羅のアジトに違いない…。
「場地さんの居場所分かりました。お母さんありがとうございます!」
どうか、無事であります様にと祈って男打羅のアジトに走った。
男打羅のアジトはこの近くの廃駐車場…。
錆びた鎖を飛び越えて場地さんを探す。
「場地さんー!!」
しばらく場地さんを探していると男打羅の幹部が地面に数人倒れていた。
「おぃ!てめぇ!場地さんいなかったかよ」
そいつらを叩き起こして場地さんの事を聞いた。
「バジ…あぁ…あいつならボスの所に…」
話しの途中でそいつを投げ、場地さんを探す。
しばらく探していると場地さんはグッタリしながら地面に座っていた。
「場地さん!どうして…」
「ちふ…ゲホッゲホ…ゴホッ…」
痰が絡む様な酷い咳、額に触れると火傷しそうなくらい熱い。
「おま…びしょびしょ…じゃ…ねーかよ…」
「俺ことなんて良いですから、病院行きましょ?」
「いい…ゲホッ…」
「なんですか?」
「ちふゆ…かぜ…はぁ…引くから…これ…」
場地さんは自分の上着を脱いで俺に着せようとする。
特攻服一枚じゃ寒かったから上着来たんだよな…。
しんどいのは場地さんなのに…。
「本当あなたって人は…」
「ちふ…ゆ…帰りてぇ…」
「帰りましょう?俺が頑張っておんぶしますから…」
場地さんを背負い、上手い具合に雨が上がっていて家路を急ぐ。
「はぁ…はぁ…」
「場地さん…?大丈夫ですか?」
「ん…ごめん…おめぇ…よな…」
「俺はそこまで貧弱じゃ無いんで大丈夫ですよ?」
「ちふゆぅ…ゲホッ…」
「はい?場地さん」
「ちょっと…しんど…ゴホッゲホ…!」
場地さんをおんぶしてると喉に痰が絡んでゴロゴロと音がしているのが分かる。
呼吸も浅くて苦しそうだ。
「場地さん…もうすぐ着きますか…ら…?」
「………」
「嘘っ…場地さん!!」
背中に感じる違和感…場地さんは寝ている訳じゃなく気を失っていた。
そこまでは場地さんの風邪は悪化してしまっていたのだ。
場地
ゆっくりと目を開けここがどこなのかを考える。
そうだ確か男打羅のアジトに行ってボスをノシて…。
そうだ…千冬に背負われて意識を飛ばしたんだっけ。
「場地さん!?」
千冬…?なのか…?視界が潤んで顔が良く見えねーよ。
てか、お前と話したいのに口元のこれ邪魔だわ。
「場地さん?それ、外しちゃダメですよ…?」
何でだよ…全然声が出せない。
呼吸が苦しい、胸が痛い。
体が熱い…頭が割れる程痛い。
「ケホッケホ…ゲホゴホ!」
「咳が苦しいですね…」
なぁ…千冬そんな、悲しい顔すんなよ。
俺はさ大丈夫だから…。
喧嘩だって1発も食らわないで勝てたんだぜ?
場地さんカッケェって笑ってくれないのか…?
「もう…無理しないで…場地さん。」
「だい…じょうぶ…だから…」
「大丈夫な訳ないですよ…!俺、場地さん死んじまうかと思ったんですよ!!」
「ちふゆ…」
「本当に怖かったんだから…」
ギュッと俺を抱き締めると千冬は泣いていた。
俺は千冬を泣かす事しかできないのか?
あぁ…また、体が重くしんどくなってきた。
「場地さん…しんどい時に怒ってごめんなさい」
謝るなよ… 。
千冬に謝らせてる自分の情けなさがただ辛い。
「場地さん、何か食いたい物ありますか?」
「…食いたくねぇ…」
「場地さん、少しでも食わねーと良くなんねーっすよ?」
「るせーな…」
「え…?」
「うるせぇってんだろ…もうかえれよ…」
自分が情けなくて泣きそうになる。
本当は千冬に触れたくて抱き締めたいのに…。
「俺だって…場地さんが心配で心配で堪らなかったのに!そんな言い方ってないっすよ!」
「ごめん…ゲホッゴホ…」
「俺こそ…すみません、頭冷やして帰りますね」
行かないでと呼び止めたい。
だけど俺にはそれが出来なくて背中を見送ることしかできなかった。
病室に1人になれば体が更に怠く重たくなる。
しばらくして体のしんどさに勝てなかった俺はいつの間にか眠っていた。
起きたら真っ暗な病室で千冬がいないことに不安を覚えた。
空気が上手く体に入らなくて息苦しい…。
ただ、千冬に会いたい…。
あんなこと言うつもりは微塵も無かった。
手探りで携帯を探し震える手で携帯開いたが時間は深夜、千冬には迷惑を掛けられないとそっと携帯を閉じた。
「ごめんな…ゲホッゲホ…ちふゆ…」
体が熱い…意識が遠のいて行く、ただ謝って一夜を明かした。
千冬
場地さんと言い合いになってしまった。
体調の悪い場地さんと言い合いしてしまった自分が情け無い…。
落ち込みながら病院の廊下を歩いていると不意に声をかけられた。
「千冬くん…?」
声を掛けて来たのは場地さんのお母さんだった。
「千冬くんさっきはありがとうね?」
「あっ…いえ…」
「もしかして圭介また余計なこと言ったの?」
「いえ…悪いのは俺ですから…」
「ごめんなさいね…だけどあの子、千冬くんのこと大好きだと思うのいつも千冬くんの話しして、大好きだから素が出ちゃうのね」
「ありがとうございます」
「圭介と仲良くしてあげてね」
「もちろんです!俺も場地さん大好きですから」
場地さんのお母さんにお辞儀をして別れを告げた。
家に帰っても後悔が頭から離れなくて場地さんにすぐ謝りたいと携帯を手に取った。
しかし、場地さんは出るはずがなく俺は後悔を抱いたまま、この日を終えた。
次の日学校が休みだった為場地さんの病室に早く謝りたくて面会時間ピッタリに着くように走った。
場地さんは少しでも元気になっているだろか?そんな期待をしていたがそんな期待は見るも無惨に打ち砕かれた。
病室にいる場地さんの顔色は昨日より悪く熱も下がっていないと看護士さんが言っていた。
「場地さん…?」
呼び掛けると薄く目を開けた場地さんはゲホゲホと酷く咳き込んでしまい胸が痛むのか手は胸を摩っていた。
昨日よりも辛そうな咳に俺も泣きそうになる。
「場地さん…昨日はごめんなさい、具合悪いのにあんな言い方しちゃって…」
後悔が溢れて来てただ涙が溢れる。
「ごめん…なさい…グズッ…」
謝りながら泣いていると頭にぽんと手が置かれそのままゆっくり撫でられた。
「場地さん…」
しばらく頭を撫でられているとそのまま体をグッと引き寄せられ場地さんに抱き締めら熱い体で怖くなった。
「ちふゆ…ごめんな…」
「謝るのは俺の方です…」
しばらく場地さんを抱き締めていると段々眠たくなって来た。
俺はそのまま眠ってしまい次起きた時には場地さんの酸素マスクから鼻カニューラに変わっていた。
「ちふゆ…はよ…」
「場地さん!熱は!?咳は!?」
「朝より…ゲホ…良くなった…」
良かったと安堵から涙が溢れ場地さんはまた、優しく指で俺の涙を拭った。
「ほんとに…グズッ…もう無理しないでくださいよ」
「ごめんな…」
ぎゅーっと場地さんを抱き締めると涙は全然止まらなくてただ縋るように泣いた。
場地さんはそんな俺の背中をただ優しくポンポンと撫でていた。
結局場地さんの風邪は拗らせに拗らせしまった為しばらく入院することになり下がり切らない熱と止まらない咳に苦しんでしまった。
「場地さん!!具合はどおっすか!?」
「千冬おま…病院で騒ぐなよ…」
「えへへ…すんません」
ベッドで体を起こして外を見ていた場地さんは俺を見て優しく笑った。
「外を見てたんすか?」
「あぁ…久しぶりに晴れたなって」
「最近ずっと雨でしたからね」
「そうだよな…」
どこか切ない横顔は俺の心を締め付ける。
「場地さん!外行きましょう?紫陽花がすごく綺麗でしたよ!」
「だって…迷惑だろ?今だって、体力ねーからまともに歩けねーし…」
腕から繋がった点滴を見詰めた場地さんは節目がちにそう呟いた。
「今更迷惑なんてないですよ?場地さんの調子で行きましょう?ね!」
小さく頷いた場地さんを車椅子に乗せ俺が押す。
点滴を引っ掛けない様にゆっくりと…。
「やっぱり雨上がりは空気が澄んでて綺麗ですね?」
「……」
「…場地さん?やっぱり具合悪くなっちゃいました…?」
「千冬…色々ごめんな?」
まだ、呼吸が苦しそうなのに俺のことばっかりな場地さんを思わず抱き締めた。
「俺の仇打ってくれて俺はすごく嬉しかったっすよ?」
「ただ…千冬を守りたかった…それなのにっ…」
言葉を言い掛けてげほげほと苦しそうに咳き込んでしまった場地さんの背中をゆっくり摩る。
「無理しないで…」
「ごめ…大丈夫…」
しばらくしてやっと呼吸が落ち着いてきて場地さんはゆっくり言葉を続けた。
「紫陽花、千冬みてぇだなって思って窓から見てた。」
「ふふ…また元気になったら見にきましょうね?」
場地さんに寄り添う様に車椅子に体を寄せた。
そんな俺の頭をそっと場地さんは撫でてた。
「綺麗だな…本当に…」
「綺麗ですね」
「お前が…好き…」
「へっ…?」
思わず素っ頓狂な声が出て場地さんを見詰めた。
「千冬が好きだ…2度も言わせんな」
少し照れたのか場地さんはそっぽを向いてしまった。
「ねぇ…?場地さん、こっち向いて…?」
「……」
「お前がどれだけ場地さんのことが大好きか知ってますか?」
「……どのくらい?」
「あなたがいないと生きていけないくらい大好きで大切な存在で…ん!」
ムニッと頬を掌で挟まれて言葉を遮られる。
「俺の台詞奪うなよ…」
「えへへ…嬉しくてつい」
「治ったらたくさんキスしてぇな…」
「俺は今でも良いですよ?」
「馬鹿…移るだろ…」
そう言われてキスはお預けされた代わりに頭をたくさん撫でられた。
そして数日が経ち場地さんはやっと退院の日迎えることができた。
「場地さん!迎えに来ましたよー?」
ガサゴソと鞄に何かを詰めていた場地さん。
「場地さん?それ薬っすか?」
「あぁ…まだ夜中とか咳が止まらなくなるからたくさん出た」
「じゃあ俺、場地さんが完全に治るまで場地さんの家泊まっても良いっすか?夜咳が止まらないと辛いだろうし…」
「良いのかよ…?」
「もちろん!!」
今日は丁度お袋さんが仕事でいないと言うことでお泊まりを了承することができた。
「お邪魔しますー」
「あぁ…好きに座って」
「場地さん、疲れました?俺、お茶淹れますよ?」
「千冬…こっち来て?」
「ん?」
そっと場地さんに近づくとギュッと力強く俺は抱き締められた。
「場地さん?」
「もう少しこのまま…俺から離れるな」
「ふふ…今日の場地さんは甘えたさんですね?」
「るせぇな…良いんだよ、今はお前を感じてぇ」
入院してから今までの時間を取り戻す様に場地さんはしばらく俺を抱き締めた。
なんて幸せな時間なのだろう。
場地さんは辛い思いをしてしまったけど時間はそれを覆すかの様に温かくゆっくり流れる。
「千冬、ずっと俺の側にいろよ…」
「ふふ…言われなくてもずっといますよ?」
大好きと場地さんは俺の唇にそっとキスをした。