七歳差の幼なじみと婚約しちゃいました (完結編、初夜)その1未完成版 出会いは俺が十一歳、ミレーヌが四歳の時だった。隣同士の家で出会い頭にごっつんこファーストキスまでそこで済ましてしまった俺たちがいきなり婚約者同士になったのは二十一歳と十四歳だった。
そして今。俺、熱気バサラ二十五歳、ミレーヌ・ジーナス十八歳でかけおち婚をする。ミレーヌはジーナス姓からミレーヌ・F・熱気になった。離婚するには双方の同意と養子縁組までしたからレイの承諾が必要となる。
そこまでしなきゃならない程、俺たちはこれ以上離れていたくなかった。今まで言われた通りにしてきたと思う。だけど、ミレーヌだけは譲れなかった。そこだけは誰であろうと変えられない。無くしてきたものは沢山ある。諦めてきたこともある。でももう、諦めるなんてしたくない。夢もミレーヌも全部手に入れたいんだ。アイツが傍に居ない人生なんて考えられない。
ミレーヌはまだ高校卒業したばっかりだ。大学も通うつもりだったところはこの状態じゃしばらくは通えないだろうが、少しずつまわりに理解して貰って最終的にはミレーヌの親御さんたちとも分かり合いたい。やっぱり祝福されたいじゃねぇか。ミレーヌには幸せを感じて貰いたい。すぐには無理でも俺たちの本気を何度だって示してやるんだ。
昨日はお見合い現場から荷物まとめて役場に書類提出してそのまま、さほど遠くないこの地に着いた。バンド活動もあるし。
俺たちふたりの生活がここから、この即決で借りた小さなアパートから始まろうとしていた……。
「全然小さくなんかないじゃない、グババ用のお部屋もあるし。家具付きだし大丈夫なの? バサラ」
「何が。金の心配なんかすんじゃねーの」
「あたしも働く」
「おまえは大学行ってなさい」
コツンとおでこを殴ると、ミレーヌはむぅとしながら文句を言う。
「あたしだって役に立ちたいもん。バサラの奥さんなんだから」
──奥さん……──。
ヤバ……倒れそうだ。いや、今すぐ押し倒したい。分かってるのか? 昨日はなんだかんだで列車の中で寄り添って寝たからなにもないけど、今日からふたりっきり(と1匹?)だってことに。夜を一緒に過ごすことに……。
「じゃあ、おまえには生活でいる物とか部屋の中はお願いするぜ」
「え! あたしの好きにしていいの?」
(その前に俺がおまえを好きにしたい)
って何考えてんだ、俺。落ち着け。いくら今日が初夜でもいきなりはまずい。こんな慌ただしく逃げてる時なんだから尚更。
──初夜……──。
目の前にある壁に頭を打ち付けてトリップから抜け出す。ミレーヌはグババと部屋の中を色々見て回って楽しそうだ。俺がこんな状態なのによこしまな考えをしてるなんてバレる訳にはいかない。今日は大人しくしよう。もっと生活が落ち着いてから……。
ミレーヌとの生活を考えてたら緩んで緩みっぱなしになってしまう。ここは無だ。無になって、表情を引き締めろ。よし、頑張れ俺。
一方、ミレーヌはもう一部屋のグババ専用部屋にて
「バサラったら凄い厳しめな顔してたわ」
「キィ!」
「……こんな時にあたしったらダメね、浮かれちゃって」
(はしたない子だと思われないようにしなきゃ、バサラはそんな気ないみたいだしあたしだけ恥ずかしい)
ミレーヌも同じ気持ちだったことに後から気づくことになるなんて今の俺には余裕がまるでなくて気づかなかったのが後で猛烈に後悔する。
とりあえず今すぐ必要なものと食材を買い込む。ミレーヌはコップやらタオルやらを選んでいてもう、それだけでむず痒い。一緒に暮らすんだって思うとやっぱり気持ちが抑えきれなくなってきている。早く帰って抱きしめたい。ミレーヌを感じたい。もう無の表情でいるのも限界らしい。
「バサラ? 大丈夫? 疲れちゃったよね」
「いや。……早く帰ろーぜ」
突然、顔を覗き込まれて俺は慌てて顔を取り繕う。心配までさせちまったら世話ねぇじゃねえか。ミレーヌには悲しい顔なんてもうさせたくないのに。
「そう……」
明らかに声のトーンが低くなってる。ヤバ、俺としたことが突き放した言い方をしたかもしれない。
ガッとミレーヌの手を握って足早にアパートに帰る。その間は無言だったけど、とにかく早く帰りたい。最終的には荷物もミレーヌも担いで部屋の中に入った。
ドサドサとやや乱暴に荷物は下ろしてしまったかもしれない。でもミレーヌはそっと下ろした。その勢いで抱きしめる。強く力を入れてしまってるのも分かってるが止められない。
「バサラ……」
ミレーヌから腕が俺の背中にまわってきた。抱き締め返してくれてる。もう張っていた糸がプツンと切れたように俺はミレーヌの唇を奪うと舌を絡ませ、濃厚なキスを贈った。
なんでキスしてなかったんだろうと思うほどしてなかったなと思いながらひたすらに絡ませていってる。ミレーヌも俺についてくのがやっとのようだ。少し涙目の赤く染まった頬が可愛い。どれだけしても愛おしさが増すばかりだ。こんなんじゃ俺はどうなってしまうのか。ミレーヌのことを考えると俺は平常心を保ってられない。そんなことを言ってる場合じゃないのも分かってるのに。
「バサラ……あの、夕飯」
離れた隙にミレーヌが俺に言う。俺、何してた?このままいくと無理やりミレーヌを抱いちまうとこだった。それはまずいだろ。理性を失った行為ほど良くないものはないはずだ。ミレーヌは初めてだろうし(俺もだけど)がっついたら泣かれるだけじゃなくて嫌われるとこだった。
「悪い……ちょっと強引すぎた」
「ううん。あの、えっと……あ、後で、ね」
──後で?!──
後で、ってなんだ? 後で、この後? 夕飯の後? それとも二、三日後か?!
……ダメだ、頭がグルグルして思考がまとまらない。こんなことしか考えてない俺はもうダメだ。冷静に。冷静になれ、自分。
「……そうだな」
なんとかミレーヌの身体を離すことに成功した。今日はもう大人しくしよう。精神的にもどっと疲れた。フラフラとソファに座り込んだ俺はとにかく冷静になることに集中しててミレーヌの表情や後での意味をここで察することが出来なかった。
今日はそんな手の込んだものは作らないでおこうということで簡単に済ませられるものを買って並べた。ミレーヌの好きなものと俺の好きなもの。何も作ってないのに食卓に並べてる姿だけで込み上げてくるこのなんとも言えない感じ。温かいな。結婚、したんだな……俺たち。
あっダメだ。また……。
「明日からは頑張るね」
あぶないあぶない。今日はトリップが多い。ミレーヌにも心配はもうかけたくない。普通に接しよう。せっかくのふたりでの食事だもんな。
「俺もやるぜ? 料理は得意だからな」
「そっか、レイと2人暮らしだったもんね。あたしも練習しなきゃ」
「食えりゃいいよ」
「もー!下手じゃないわよっ」
ミレーヌも笑顔で俺も笑顔で本当にこの空間を大事にしたいって思った。ミレーヌの両親には必ず認めさせる。その為に俺たちの誠意を伝える。歌で人を幸せにしたい。その思いは昔から変わらない。絶対に伝わるって信じてやっていくつもりだ。ミレーヌの夢も俺たちがこれからやっていこうという姿を見せていこうと再度、心の中で誓った。
夜も更けた。ミレーヌがお風呂に入って上がってきた。湯上りをみてまた飛びそうになったけど、ここが正念場だろう。これを過ぎれば今日は穏便に過ぎることが出来る。しかし一緒のベットだ。もちろん夫婦になったんだから当たり前だ。キスして抱きしめて寝るってのはどうだろうか?初日はこんなもんで大丈夫だろうか。少なくともミレーヌは疲れてるはずだ。ゆっくりさせてあげたい。
「バサラ、あの」
「ん?」
「えっと……」
なんだ? ミレーヌのやつ、やけにモジモジしてるな。ただでさえ湯上りで色っぽいのに、そんな仕草されたら……、
って。
バカヤロウ! 俺!
なにがミレーヌは疲れてる、だよ。なにがミレーヌの負担がだよ!
ミレーヌは、ミレーヌだって。
「ミレーヌ」
「っはい!」
ぴょこんとミレーヌの髪が跳ねた。
「待ってろ」
ミレーヌの顔がすぐに赤くなる。
「ベットで大人しくまってろよ」
俺の言った意味が通じたのかミレーヌはそのままこくりと頷いた。ミレーヌも俺と同じ気持ちだってこと。色々あったって言ったって俺たちは結婚したんだ。夫婦なんだよ。求め合ってなにが悪い。
もうだれにも文句は言わせない。まだダメなんて言われたって最初から止められる訳なかったんだよ。アイツの歳がとか両親がとかなんてそんなの関係ねえよ。
愛してるんだ、ミレーヌを。
アイツの全てを今、今日、俺のものにする。