ソーダ味の夜空あのあと、類に手を引かれ風呂から出たものの、キスのドキドキとは別にやはり少しのぼせていたようで、2人揃って少しフラフラになっているのをお互い苦笑しながら、脱衣所で着替え、司は少し濡れた髪を軽く乾かす。
一方類は「さっき司くんの様子をみて、もっとよくなる機能を思いついたからね。プラネタリウムを片すついでに軽くメモしてくるから先にいかせてもらうよ。…あ、すぐ戻ってくるから安心してくれたまえ」と司の心を少しだけ見透かしたようにウィンクをすると、風呂場に浮かんでいた小さな星空の電源を落とし、水気をとるため先にペタペタと足跡を残しながら部屋に1度戻って行った。
司はドライヤーの電源を落とし、ルーティンの天馬司特性の髪と顔の保湿ケアをしてから洗面台から離れると廊下に残された類の足跡をみてハァとため息をつく。
「ちゃんと水気を取れと何度も言っているのだが…あとで説教だからな。ったく…」
とタオルで足跡を軽く拭きながらも、先程の新しい演出を思いついて嬉しそうに笑っている類の顔を見てしまうと強く言えなくなってしまう。
まぁ、今度またあのプラネタリウムを見る時はまた違う体験ができるのかもしれないな。
そう思うと先程の小さなイライラなどたわいも無いなと思う司だった。
あらかたの水気は拭き取り、まだ少し火照る体を冷まそうとリビングに戻ってくると、机の上には先程見たばかりののホラー映画のBlu-ray。思わず「ひっ!」と口に出てしまうところをなんとか飲み込み、そっと目を逸らした。たしかにもう一度見れば体を急激に冷ますことはできるだろうが、この体験はできれば2度は体験したくは無い。
なんとか他にないかとと周りを見渡せば風にそよぐカーテンが目に入った。
そうだ、とベランダへと続く窓を開け、徐にベランダへと進むとこの時期らしい、涼しい風が体を包む。ベランダに手をかけ涼んでいると、ふと先程の小さな星空で教えてもらったペガスス座を思い出し、目の前に拡がっている大きな星空を見上げてみた。
だが、どうしてか先程のプラネタリウムよりも星は小さく瞬くだけで、はっきりと見えることは出来ない。
むぅ、これでは天翔るペガサスの姿が見つからないではないか。
頭を抱えた司の元に、カラカラとベランダを開ける音が聞こえてきた。
「おや、ここに居たんだね。待たせてしまったかな。お詫びとしてはなんだけど、はい。火照った体にちょうどいいと思って持ってきたよ」
「…む…待ちくたびれたぞ…っておぉ!アイスではないか!恩に着るぞ類!」
自室から戻ってきた類が冷蔵庫から取り出したであろう水色のアイスを司に差し出し、司は思わず子供のように喜んで受け取る。
アイスをペロと1口舐めると、口元に爽やかなソーダの風味がふんわりと広がり、吹き抜ける夜風と相まって、夜だがどこか清々しさを感じた。
「ところでペガスス座は見つかったかい?」
「いや、オレではうまく見つけることが出来なくてな…何故かここでは星がよく見えん」
「うーん、そうだね。ここは都心に近いし、街の灯りのせいでペガスス座や他の星座の光が見えにくくなっているようだね。ここで天体を観測するには少しむいていないかもしれないね」
「むぅ、やはりそうか…」
一言残念そうに司は呟くと、冷たさに慣れてきたのか先程まで舐めていたアイスをシャクリとかぶりついた。そんな司の横顔をみていた類はアイスを最後の一口でペロリと完食すると、それならばと今思いついたプランを提案する。
「そうだね。…そしたら今度一緒に山に行ってみないかい?」
「山、か!?山に何かあるのか?」
「フフフ、山はね、都心より灯りが少ないし、空気も澄んでいるからね。さらにいえば高い建物もないから、ここよりも星が見やすいのさ。だからペガスス座もきっとすぐ見つかるはずだよ」
「おおお!!さすがは類!!そこであれば実際に満点の星空を天翔るペガスス座をみることができるかもしれんのだな!」
夜空から目を離し、手元のアイスが溶けて手を伝うように滑り落ちているのを忘れてしまうほど興奮した様子で類を星屑を散らしたようにキラキラとした目で見つめている司に思わずフフと口角が上がってしまうのは許してほしい。その煌めく星屑をまだ見ていたと思い、話を続ける。
「あぁ。では今度一緒に行こうか。時期もあえばおうし座流星群やしし座流星群にたくさんの星に願いをかけることもできるよ。頭上に広がる大パノラマで繰り広げられる、銀河が舞台のショーはとても美しいだろうねぇ」
「おおおお!!!!それは一層興味深いではないか!!まぁ、未来のスターとして星に願いをかけずとも自分の願いは自分で叶えるべきだが、天体が織り成すショーとしては今後の演出や宇宙が舞台の脚本参考にもなるしな!よし、一緒に行くぞ類!約束だからな!!」
とニコニコと類に楽しみだな、と満天の笑顔で笑いかける司は一等星のように輝いている。
だが、手元に垂れてきたアイスに気づき「どわーーーっ!!あ、アイスが溶けてしまっているではないか!い、急げ!」と必死にペロペロと手元やアイスの棒を舐めている司に思わず吹き出してしまう。
「あぁ、やっぱりキミは銀河一僕の目を惹いて離さない、輝くスターだよ」
思わずそんな言葉が口から零れてしまう。
「おい、脈絡がないぞ!?」って司が顔を赤く照れながらも怒り出している姿はなんとも愛おしい。
「ふふ、ごめんよ。…でもそんな君が銀河一大好きなのさ」
とアイスが司の少し垂れた口元にキスをすれば、冷えたはずの体がどこかまた火照ったような気がした。