レッスン室に響く音楽と靴の擦れる音。
俺は、案外この音と空気が好きだったりする。
今日のレッスンは終わったあとに全員で遊びに行く予定だから短時間で集中しよう。と全員物凄い集中力でレッスンが進んでいく。
慣れたステップを踏み、司と並ぶポジションへと移動する。と、隣から聞こえてきたのは、不自然に上がった呼吸。
いつもならこれくらいじゃそんなに息は上がらないはず、と不思議に思い隣の司を盗み見ると顔と首元が真っ赤に火照っている。
「かさくん、体調悪いんなら振り緩めでいいよ」
この曲を終えてから休ませようとこっそり声をかけると、声を出して答える余裕もないのか小さく首を横に振った。
そのまま曲は進み、再び司と並ぶ。
ターンを決めたところでふらりと横の影が前のめりに揺らめく。
「かさくん!」
間一髪、抱きとめる。アイドルの命である顔は打たずに済んだようだ。
「う…、せな、せんぱい?」
「あっつ…、かさくんいつから具合悪かったの?」
レッスンをしていたとはいえ想像よりも熱をもっている司の体に内心驚きつつ、務めて優しく問いかけると、司は気まずそうに目を逸らした
「えっと、昨日から、でしょうか」
「はあ!?なんで言わなかったの!?」
「う、だって、久しぶりに先輩方と会えてレッスンできるだけではなく一緒に遊びに行けることになって、すごく、楽しみにしていたんです」
「……ごめんなさい。つかさは、また迷惑をかけてしまいました」
藤色の瞳に、今にも溢れそうなほど涙を溜めて俯いてしまった司の汗を拭う。
「違うよ、スーちゃん。迷惑なんかじゃない、心配してるんだよ。最近目の下に酷い隈つくってお仕事してるでしょ?ろくに眠れてないんじゃないの?スーちゃんはよく頑張ってるよ。」
「そうよォ。司ちゃんに息抜きさせてあげたいと思って遊びに行こうって言ったんだけど、倒れるまでお熱でてることに気が付かなくてごめんね。お姉ちゃん失格だわ」
「安心しろスオー、今回は1ヶ月くらいこっちにいるからまた別の日に遊びに行けばいいよ。お前はよく頑張ってる。だからよくなるまではゆっくり休め。」
「先輩方…」
驚いたように見開かれた瞳から1粒、また1粒と涙が零れていく。
「こら、かさくん。目を擦ったら後で腫れるよ。ゆっくり身体休めて元気になったらまたみんなで遊びに行けばいいでしょ?」
真っ赤な顔で泣き続ける司の目元を拭ってあげたり、汗で湿った肌を拭ってあげたり、頭を撫でたり。
暫くすると、小さな寝息を立てて眠ってしまった司。
どうかこの子が熱に魘されることなく、早く元気になりますように。