ゆっくり瞼を開いて、最初に目に入ったのは真っ白い天井だった。
どこ、ここ。おれ、ねてたんだっけ?
目線を少し右にずらすと、液が半分ほど減っている点滴のパックが目に入る。
ポタ、ポタ、ゆっくり1粒ずつ落ちていく水滴をぼんやり眺めてハッとした。確か、今日のライブの最終確認をしてたはず、ここは病院?俺は倒れたの?待って今の時間は、
勢いよく起き上がると頭がずきりと痛んで目眩がした。
「いっ…た、」
痛む頭を抑え、時計を探して部屋中を見渡す。
「凛月!?起きたのかえ!?急に起き上がってはダメじゃよ!」
必死に目線をさ迷わせて見つけた時計の針が指していたのは、19時。ライブが始まって既に1時間が経っている。
「おれ、行かなきゃ」
「ダメじゃよ凛月。」
ベッドから降りようとした途端、肩を強い力で押されてベッドへ倒れ込んだ。
「邪魔しないで兄者」
「今から行っても間に合わんじゃろう?おぬし、過労と睡眠不足と栄養不足で倒れたんじゃよ?少なくとも今日は安静にしていてもらうぞい」
「出るなって言いたいの?こんな状態じゃお前は無理だって?」
「違う。心配なんじゃよ。月永くんたちにも頼まれたしのう、絶対に来させるなって。みんな心配しておった。お願いじゃから、倒れるまで、限界まで我慢しないでおくれ。我輩じゃなくてもいい、誰か、凛月が頼れる人に頼っておくれ。頼むから。心配なんじゃよ、お前が、凛月が大切だから。」
キッと睨みつけて言い返すと厳しかった顔が、途端に泣きそうな顔になって長い腕に抱きすくめられた
確かに、最近は忙しくて睡眠時間が足りていなかったし少しでも睡眠を取ろうとまともな食事を取っていなかった気がする。別に無理をしていたわけじゃない。と言ったら嘘になるけど、もう少しの辛抱だった。今日のライブが終われば短いが休暇がもらえる予定だったから、それまで頑張ろうと思った。思っていた。けど、俺は倒れてしまった、らしい。
自分の管理不足で倒れてたくさんの人に迷惑をかけて、楽しみにしていたライブにも出られなかった。
悔しくて、情けなくて、零れてしまいそうな涙を隠したくて布団を目元まで上げた。
「我輩、ちょっと飲み物買ってくるからちゃんと安静にしておくんじゃぞ」
椅子から立ち上がり、部屋から出ていこうとする兄の服を思わずきゅ、と掴んでしまった。
「凛月?」
「あ、や、えっ、と」
「ん?」
「…、こにいて、」
「なんて?」
「〜っ!ここに居てって、そばにいてって言ったの!」
恥ずかしくて俯いたままの頭にぽん、と優しい手が触れた。
「分かった。点滴が終われば今日は帰れるらしいから、もう少しだけおやすみ。」
優しく触れる暖かい手が心地よくて、暖かい手にすり寄って目を閉じた。