真っ黒なカーテンを締め切った暗い部屋の中。
分厚い布団にくるまって眠る凛月は、まだ、小学生にすらなっていない頃の夢を見ていた。
♦
コン、コン、コン、
「りつ、?」
「お、にいちゃん?」
「りつ、苦しい?平気?」
「う、ん」
「わ、顔真っ赤だね。氷持ってきたからこれで冷やしたら気持ちいいよ」
「ほんとだ、きもちいいね」
おでこに氷嚢を乗せて左手を握ってくれる兄の手が嬉しくて、力の入らない手で握り返した。
「なんでりつはいつもこんなに苦しいの?なんでりつはみんなと一緒に遊べないの?」
「大丈夫。絶対良くなるから。おれがいるから。りつを1人にはしないよ。」
「ほんとに?」
「うん。」
♦
…嘘つき。1人にしないって言ったじゃん。なんで、留学なんか行っちゃったの。辛いよ、寂しいよ、はやく、帰ってきてよ。
「1人は、嫌だよ……っ、」
♦
半年後、兄がやっと留学から帰ってくる日も、俺は体調を崩して部屋で1人ぼんやりとしていた。
「凛月?大丈夫か?」
「入ってこないでよ」
「凛月、?なんでそんな事言うんだよ」
「1人にしないって言ったくせに!俺がいるって言ったくせに!お兄ちゃんの嘘つき!」
なんでお兄ちゃんが悲しそうな顔するの。傷つけられたのは俺なのに。
「りつ、ごめん」
「お兄ちゃんなんて大嫌い!!俺の部屋からでていって!」
「りつ、」
「うるさい!でてってよ!」
「ごめんな、」
そう言って兄が部屋を出た瞬間、我慢していた涙が溢れてくる。
なんでお兄ちゃんが傷ついたような顔するの。裏切られたのは俺なのに。ずっとずっと、苦しくて寂しくて悲しかったのに。
留学になんか、行ってほしくなかったのに。
真っ暗な部屋の真ん中で、みっともなく泣きじゃくって嗚咽の間に咳が混ざり始めた頃に、自分の喉から聞こえる喘鳴に気づいた。
あ、やばいかも。
「げほっげほ、ひゅ、ごほ、」
吸入、どこだっけ、
「ごほっ、げほげほっ、ひゅ、」
くる、し、
「凛月!」
「お、にいちゃ、?」
「吸入どこ!?」
「ひゅ、たぶんっ、げほげほ、そこの、棚っ、ごほ」
「あった、凛月、いけそうか?3、2、1で行くぞ。3、2、1、」
久しぶりに吸入をしてくれたはずなのにゆっくり合わせてくれてその事実にまた、苦しくなる。
「凛月、落ち着いたか?」
「ん、」
「良かった。」
「許してないから」
「許されようなんて思ってねえよ。ごめんな。」
あぁ、なんだかすごく眠たい。
重たくなる瞼に逆らえず、そのまま意識を手放した。
「そばにいてやれなくてごめんな」