【💛💙】POG butler only for me!【※ちゃんとした小説じゃないです。書きたいとこだけ!!!!】
父親の急死。それは余りに唐突に伝えられた。棺に乗せられ、これから業火で焼かれるのであろう、父であったものを見送る。
涙を流す間もなく、葬儀は極限の少人数で恙無く行われた。未だ現実を受け入れられぬルカを置いて、世界は一分一秒変わらぬ速度で動いていく。
そうして呆然と立ち尽くすルカの肩を、ぽん、と叩く誰かがいた。振り返れば、スーツを身に纏う数多の大人が目の前に傅き、頭を垂れてルカの方を向いている。
その日、"ただの高校生"であったカネシロ ルカは死んだ。
……と言った感じで始まる、幼くしてボスとなった🦁×表はクラスメイト裏では完全無欠バトラーな🖋のお話。
「ボス! 今日は新しいバトラーが来るって言ったじゃないですか!!」
「またかよ!? 今月何人目!? 前のセンセイもイイ奴だったのに!」
「だから!! !!イイ奴じゃダメなんですって!!!!!!」
そして🦁がボスとなってから一年。
あまりに幼く優しい🦁のことを案じてファミリー達がその道のプロとか家庭教師的なのを雇って🦁をどうにかマフィアらしく育て上げようと頑張るも、誰もが🦁のぽぐぽぐパワーに呑まれてギブアップ。
いっそのこと普通にバトラーでも雇えば主人としての意識が出てマフィアのボスっぽくなるだろうかと、父親のバトラーにするべく傍に置いていたフットマンの🖋を🦁に宛てがう。
「🦁様、お目覚めの時間です」
朝、そんな言葉で目が覚めた🦁は、聞き覚えのない声にがば!と起き上がる。「Oh! 新しいセンセイって君のこと!?」とわくわくしながらベッドを降りた瞬間、まさにジャストの位置にルームシューズが用意されていてって固まる。
「お、おおおお!POG!手品!?」
「いいえ」
「じゃあ魔法だ! SO POG! 名前はなんて──」
って顔を上げたところで、固まる🦁。
そこにいたのは、よく見知ったクラスメイトの🖋だった。でも、髪がピシッとセットされてて、燕尾服を着ている。眼鏡もしていないし、なんだか無表情で無機質な顔。学校での🖋はいつも朗らかに笑う天使みたいな奴なのに。
「え、アイク……?」
「初めまして、ルカ様。本日からルカ様専属のバトラーとして着任致しました、アイク・イーヴランドと申します」
そこから始まる2つの顔を持つ🦁と🖋の奇妙な共同生活。
バトラーとしての🖋は一言で表すなら優秀、もしくは完璧。背筋は上から吊るされているのではと思えるほど常にピンとしていて、全ての動作に無駄がなく美しい。余計な感情も表に出さず、ただ主君のためにありとあらゆる雑務をこなす様子に、ファミリーからも一目置かれる。
しかし学校に行くといつも通りふわふわ優しい🖋がいて、
「あ、ルカぁ。おはよう……あはは、まだ少し眠いんだあ。ふぁ……」
とか言ってひらひらと手を振ってくる。
は行のオノマトペがこれほどまでに似合う人間がいるだろうか、いや居ない。
でも家に帰ると居るのは完全無欠なバトラー🖋。もしかして同姓同名なだけの別人……?とまで考え始めたあたりで
「ね、ねえアイク、もしかしてアイクって二重人格なのか……!?」
とか聞いてみる。まずは学校モードの🖋。
「え? 急にどうしたのルカ?」
「い、いや、ちょっと、そう!昨日テレビで見たんだ、それで気になって」
「あはは、どんな番組を見たのか知らないけど、そんなわけないでしょ」
「でもさ、学校のアイクと家にいる時のアイク、違うじゃんか?」
「なんのこと? もう、変なこと言ってないで、次移動教室だよ」
はぐらかされた。流石に🦁でもそれくらいは理解出来た。しかし、ならば。
「なあ、アイク」
「ルカ様、私の事はバトラーとお呼びください」
「……なあ、バトラー」
「はい」
「バトラーって、二重人格だったりする?」
こちらにも聞いてみよう。学校と違って、二人きりでしかも家の中だ。余程のことがなければ逃げられないだろう。
「本当にルカ様はクリエイティブな方でいらっしゃいますね」
「こ、今回ははぐらかされないぞ! バトラー、俺達クラスメイトだよな? 学校ではあんなに仲良しじゃんか!」
「……」
少し間を置いて、冷たいため息が🖋の口から漏れる。完全無欠、冷徹なバトラーの仮面が初めて剥がれた瞬間だった。
「ルカ」
「っ、あ、アイク……?」
様付けじゃない! やっと普通に話してくれるのかな、と🖋の表情を見ようとした瞬間。
ぐい、とまだ着替える前だった制服のネクタイを引かれ、🖋の顔が至近距離に接近する。間近で見るには余りに美しいかんばせに、🦁は思わず息を飲んだ。
「君がこの制服を着ている間だけは "ただの高校生" でいられるように、僕もこれに身を包んでいる間は "マフィア専属のバトラー" なんだよ」
「僕はアイクであってアイクじゃない。"ただの高校生" だったアイク・イーヴランドは、今死んでる」
「そして君も、これを脱げばただの高校生じゃない。何万というファミリーを束ねる "マフィアのボス" だ」
「何が言いたいか、お利口さんなルカならわかるよね」
「君と僕とは、ただの良い友達でいよう? ね、ルカ」
地を這うような低い声で捲し立てた後、最後の一言だけ、ふわふわ優しい"ただの高校生"の顔でにへら、と微笑む🖋。眼鏡もしていなければ身に纏うのは燕尾服で、髪型も違う。けれど確かにそれは"ただの高校生"の🖋だった。
お互いに、二つの世界で生きている。片方が片方に侵入すれば、それは即ちどちらかの世界の崩壊を意味するのだと、🖋は知っていた。
その警告に気圧された🦁は静かに頷く。
すると、先程のやり取りが嘘だったかのように、🖋は器用な手つきで瞬く間にするりとネクタイを抜き取った。
「ネクタイも、いずれ自分で結べるようになって頂きますからね、ルカ様」
気付いた時には、🖋はただのバトラーに戻っていた。
それから🖋と、マフィアのボスとしての自分を意識し始める🦁。
ある日、ファミリーの中に情報を横流しする裏切り者がいるという疑惑が出るが、幼いが故に🦁はその裏切り者への処罰を躊躇い、結果その甘さにつけ込まれて下校中の🖋を拐われる。
友人を拐って揺さぶる。そんな子供だましみたいな方法でも、甘ちゃんでガキな🦁はきっと動くと、舐め腐った挑発だった。
🦁はあの日🖋が言った言葉をぐるぐると巡らせて、頭を抱える。マフィアのボスってなんだ。俺の目指す、理想のボスってなんだ。
🖋が攫われたのは紛うことなき自分のせいだ。あの裏切り者への処分を躊躇った。
煮え滾るどす黒い感情が腹の中にとぐろを巻く。かつて覚えたことの無いほどの自分への怒りと、裏切り者への殺意。
そうだ、そもそも何故、自分はあの裏切り者の処分を躊躇ったんだろう? アレはファミリーを傷付け、今🖋までも傷付けようとしたというのに、アレを殺してはいけない理由はなんだ?
そこで、🦁の頭の中、何かのスイッチが切り替わった。かちりと音がして、頭の中がクリアになる。
──そうだ、ファミリーを傷付ける者は許さない。ただそれだけでよかった。
来るものは拒まないが去る者は消して許さない。ただそれだけでよかったんだ。
その日、"ただの高校生" カネシロ ルカは、二度目の死を迎えた。
気付けば辺りには死体の山と、静かな空間だけがあった。いや、厳密には遠くから銃声や叫び声が聞こえていたけれど、この真四角く切り取られた小さな空間は、どこまでも静寂である気がした。
「……アイク」
「やあ、ルカ」
その中央で、ふわふわと優しい君は変わらずにへら、と笑っていた。
余りに朗らかで、余りに異質だった。白い肌が赤く染まっている。それは体温で滲むように色付いた赤ではなく、べったりとこびり付くような赤だった。
傍らには暗器や薬莢が転がっており、🖋が元気そうなのを見るに、その汚れは恐らく返り血だろう。
「この部屋にいた分は始末しておいたよ。というか、鍵が掛かってて出られなかったんだけど」
その🖋は、ちょうど境目に立っていた。
ベージュのニットが血で汚れている。乱れている日なんてなかったネクタイは、乱雑に首に掛けられニットと同じく赤黒く汚れていた。
マフィアのボス専属のバトラーである🖋と、ただの高校生である🖋。二つの顔を持つ彼自身、今自分がどこに立っているのか、曖昧であやふやなようだった。
口調も、表情も纏う空気も学校で見る🖋だけれど、動作と瞳の奥だけはバトラーの🖋で、「あれ、まだ息があるなあ」なんて言いながら、無機質に、機械的に倒れ伏す男達の命を刈り取っていく。
「……アイク」
「……君はこんな僕でもアイクと呼んでくれるんだね。やっぱり優しいなあ」
「いや、決めた。これからは、バトラーのこともアイクって呼ぶ」
「……え?」
「ファミリーだからな」
🖋は何か反抗しようとした様子を見せるが、🦁は有無を言わさずその血塗れの身体を抱きしめる。
「無事で良かった」
たった一言。ただそれだけが言いたかった。言うべきことは、きっと他にもあったはずだけれど。🦁にとっては、もうどうでもいい事だった。
「……急にボスらしい顔になったね」
「そうか? なんか変わったかな」
「少し前まで銃の引き金一つ躊躇って、人一人死ぬだけで自分まで死にそうな顔してたのに。もう、この人達が可哀想とは思わないの?」
「? 別に。なんでファミリーを害する奴なんか哀れむんだよ」
「え、実際君裏切り者の処理を躊躇ってたじゃないか」
「あー、それな。なんでだろ、俺でもわかんないや。よくよく考えたらアイクを傷付けるかもしれない奴なんて、最初に殺しておけば良かった」
「……あはは! あーなるほど、そっか。ルカは確かに、そういう人かも」
「え!? なんだよ、なんで笑うんだよ🖋!?」
全てを見透かしているようでいて、その実🖋は不思議だった。何が🦁をここまで変えたっていうんだろうと。
けれど、そうか。
素直で無垢。それってつまりは元々染まりやすい性質だってことだ。今までの君は漂白剤のように全てを白くして来たけれど、君自身が一度染まってしまえばもう元には戻れない。
そしてそのインクの一滴目を垂らしてしまったのは、つまり。
「ははははは! あー、笑った。ごめんね、責任取るよ」
「だから何がだよ!?」
「ンー、この面白さは独占したいからルカにも教えない」
「UNPOG!!」
遠くから怒声と悲鳴、銃声と轟音。ゴロゴロと死体の転がる部屋に、生ある肉体は二人だけ。雑音から孤立したその部屋で、二人は返り血に塗れたまま高らかに笑った。
「ところでアイク。このあと制服を脱いでバトラーに戻ったら、やっぱりこうして笑ってはくれないの?」
「勿論。それはそれ、これはこれだから」
「……そっか。ハグもダメ?」
「だめ」
「家にいる間はずっと? はっ、そしたら高校卒業した後は一生バトラーモードじゃん!!」
寂しそうに項垂れる🦁。犬の耳としっぽの幻覚が見えたような気がして、🖋はくすりと笑う。
「言ったでしょ。"燕尾服を着ている間" は、僕はバトラーなんだって。僕が寝る時まで燕尾服を着ているとでも?」
「!!」
「まあ少なくとも🦁の前では脱がないけどね」
だってそれがバトラーっていう仕事だから。と、少し意地悪を言ってみる。
またUNPOG!とでも返って来るかな、と思っていれば、🦁は以前🖋にされたようにネクタイを掴み、顔を寄せた。
「いいよ。二人っきりの時に、俺が脱がせばいいってことでしょ?」
悪戯っぽく、しかし確かな色気を纏って🦁は言う。予想外の反応に脳がしばし硬直して、🖋ははくはくと口だけを動かした。
じりじりと🦁はネクタイを引き、顔近づけてくる。何も言えず、突き飛ばすことも出来ずに、残された距離はあと数センチ。
「ボス! 制圧完了しま……っ」
「馬鹿お前!空気読め!!!!」
「すすすすすすいません!! 失礼しました!!!!」
やがてその空気に耐えられず🖋が目を瞑ったところで、静寂は切り裂かれ、若い男の大声とともにドアが開かれた。
ハッとして🦁を渾身の力で突き飛ばすと、次こそ🦁は「UNPOG!!」と叫んだ。
「ッルカ様、次のご指示を」
「え、ちょアイク!? まだ制服着てるじゃん! ねえ! ねえってばー!」
この事件以降、主人に付き従うバトラー以上に、主人の方がバトラーにべったりだとしてファミリーの間で話題になったりならなかったり。
彼らの関係性が「主人とバトラー」から別の名前に変わるのは、もう少し先のお話。
つづく……かもしれない。