『食べたら美味しかった』 上ばっかり向いてて首が疲れた。と言って、その人はおれの隣にやってくる。お宅の主将とか翔陽がいるじゃん。と言うと、大地は忙しいし日向といても落ち着けない、とかいう理由。座っていればおれじゃなくても見上げないで済む相手はいるのに。
最初の頃は隣に来られると落ち着かなくて、こっちがそわそわしていればそのうち去っていった。別にしつこく話しかけられる訳でもないし、無言でゲームしていてもただおれの隣に座って休んでいるだけのようで、そのうち「また来た」くらいの感覚になり、近所のすずめみたいだな、と思っていた。
肩に顎を乗せられても気にならなくなって来た頃。スマホのゲームでおれが鳥のキャラクターに餌を上げていたところ、「美味そうに食うなぁ」と言うので「人間もよくこんな苦いもの食べるよね」と何気に呟くと、「俺苦いの好き」と言ってきた。
「辛いのが好きじゃなかった?」
誰かから聞いた情報。苦いのとか辛いのとか、おれはどっちも苦手だ。外食は殆どしない。食べるの面倒くさい。体が欲するから仕方なしに食べるけど、家で作られた料理だけで充分。その中に苦いものや辛いものはあったかな?
「味はどうでも、体が欲しいと思ってれば美味いと感じるもんだろ」
「ふーん」
今欲しいのは、少しだけ甘くて酸っぱいもの。自分の頬のすぐ傍からする甘い匂いは、菅くんが口に含んでいるキャンディー?
少しだけ顔を傾けて、その匂いのする方へ口唇を寄せて、ちゅっと吸い付くと、美味しい味の唾液が口の中いっぱいに広がった。