「も~なんで来んだよ~」
「弟と同じ顔して同じこと言わないでくれますか」
せっかく髪も服もバッチリ決めてきたのに。という黒尾が俺の弟の授業参観、しかも担任が急病のせいで実習中の俺が代わりに教壇に立つっていう奇跡の日に現れたのは、先日俺が自分の机に出しっぱなしにしてた父兄用のプリントを、たまたま彼に見られてしまったからだ。
「しかも、周りのお母さん方に孝介の兄とか言ってたよな?やめてくれない?」
胡散臭い風貌のくせに立ち居振る舞いに隙がなくて背も高いから、授業中生徒たちも父兄たちも彼の方をちらちらと窺っているのが気になって、授業どころではなかった。
自分の弟も何やかんや言いつつ黒尾に憧れてるフシがある。
「俺に兄の座を取られて嫉妬してんの?」
「……」
実際、彼の方が弟の扱いが上手いし、俺がやってたって見向きもしなかったバレーだって、黒尾にちょっと教えてもらっただけで「中学になったらバレーやろっかな」などと言い出す始末。
「…してる」
「うそ…」
こっちがマジで落ち込んで唇を尖らせながら黒板の文字を懸命に消してるっていうのに、黒尾は「ごめん」と言いつつ「寂しかったんだ?」とか後ろから聞いてくる。
違う、そういう意味で言ったんじゃない!
張り倒そうとして振り仰いだ彼の顔は何時になく真剣で、正面から抱き竦められると“好き”の気持ちで意識が飛びそうになる。慌てて、
「ここ…!教室!」
と、火照った顔を見られないように、彼のおでこに黒板消しを押し付けた。