陽春、桜花ときみと 柔らかく差す日差し、そよりと頬を撫でていく風が心地良くて、意識が夢うつつを彷徨う。ゆらゆらと水面を揺蕩うような、揺籠の中にでもいるような気分になりながら、うっとりと目を閉じたまま微睡みに身を委ねていた。このまま本格的に眠ってしまおうかとも思ったけれど、せっかくの今日という日を潰してしまうのは勿体無くて、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
ぱちぱちと数度瞬きを繰り返して、船を漕いでいた首を手で押さえながら立ち上がる。広縁に設置され、今し方まで自分が座っていた椅子が軽くぎい、と音を立てて軋んだ。
「類、起きたのか」
掃き出し窓の外、中庭から声をかけられて顔を向けると、満開の桜の木を眺めていたらしい司がこちらを見ていた。貸し出された旅館所有の浴衣を纏って、いつもより静謐さを感じられる声も心地よいな、となんとはなしにその姿を眺めてみる。
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