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    ショゆじとめぐです 如何にもこうにもならなくなったので供養します 急に終わります

    めぐゆじ伏黒、オマエは自分のこと暗いとか言うけどさ……え、言ってなかったっけ?ゴメンって、怒んなよ、な?…うん、でさ、俺はずっとオマエのこといい奴だなって思ってる、今も。うん…うん?あはは、死ぬわけじゃねえよ、いや死ぬか。でも戻ってくるよ、多分。なんか廻るっていうだろ、知らねえけど……六道輪廻?ふうん。伏黒が言うからそうなんだろうな。……そろそろだ、ありがとな。つぎはおれじゃないおれで会いたいよ…なんつうか、ただ顔が見たい。オマエの。






    恵さま、お召し物にございます。
    恵は襖の奥、そんな声を聞いた。メジロの鳴き声が聞こえる。ゆびさきで弄んでいた広重の名所江戸百景を閉じて声をかけると、うやうやしく開いた襖の奥から、地べたに額をこすり付けた女中が現れる。恵さま、おはようございます、本日は善い天気にございますので、お庭に出られてはいかがでしょうか。サクラとサンシュユがきれいに咲いておいでです……そう深く首を垂れる。はぁ、そうですか、と恵が気のない返事を返しても、女中は身動きひとつせず、どうか…と言うだけだ。恵はため息をついて、女中のま隣、同じように頭を下げた子どもに声をかけた。
    「いたどり」
    「はい、だんなさま」
    恵が年季の入った畳を指の腹でとんとん、と叩くと、手をついていた子どもはようやく頭を上げ、恵のそばに足を下ろした。およびですかだんなさま、そう呼ぶ声は砂糖を煮詰めて溶かした飴のようにまろく、軽やかであった。恵は寄ってきた子どもの髪を撫で上げて、「あとはこの子に任せます。下がりなさい」と言った。
    畏まりました、今もなお首を垂れ続けている女中の声が、屈辱で震え絞られていた。襖が完全に閉まる瞬間、女はじろりと子どもを睨みつけたが、恵はそれを気にも留めず、子どもを包むように抱き上げ膝の上に乗せた。その動作は、愛する人でも愛でるかようにやさしい。そんなわけで、恵は女中たちから児童趣味の性倒錯と陰口を叩かれている。恵からすればつくづく心外な話であったが、辺鄙な地で自分ひとりの生活ために日頃従事してもらっている分、それなりの娯楽を提供するのも雇い主の役目なのである。田舎の豪邸に一人で住む金持ちは変態趣味を持っている、という偏見もいささか納得できるところがある。
    「着替え、手伝ってくれるか」
    「は、はい」
    「はい、はやめてくれ」
    俺がオマエにどうしろと言ったか、覚えてるな?
    日光のさし加減ではうつくしい桃色に見える毛先を指で弄んでいた恵がねだるように言うと、子どもはしばらく辺りを見まわして、しずかな声で、「うん」と言った。出会った頃は泥に汚れ、痩せこけていた頬も、ずいぶんと子どもらしさを取り戻している。恵はそれが嬉しくてたまらなかった。
    「いたどり、帯とってくれ」
    「ん」
    恵は子どもから帯を受け取ると、礼を言って懐に忍ばせた飴玉を渡した。色素の薄い瞳がこちらを見上げたので、頷いてやる。菓子の一つ食うのにも、こうしていちいち許可をやらないといけないのだから大変だ。飴玉を口に入れるさまを眺めて、頭を撫でてやる。うまいか、そう尋ねると、うん、と返ってくる。素直な声だった。飴玉を与えてさえおけば静かな子だ。
    この子どもは恵が拾って、いたどりと名前をつけた。その名の経緯も、なぜ盗みに入った子どもをそのままここに住まわせているのかでさえ、女中の誰一人知るものはいなかった。恵は誰にも話さなかったのだ。話し相手がいなかった、と言った方が正しいだろうか?長い歴史を持つ名家の家門と権力も、こと平和な現代に関しては何の役に立たない。歴史的価値の高い屋敷に、財産だけが笑ってしまうほど詰め込まれているだけだ。こんな田舎にはウーバーイーツだって来やしない。
    「旦那さまはあれでいてお優しく、慈悲深い方ですので、あの子を見つけた時にはあまりの見窄らしさに涙を流されておりました。お召し物が汚れるのも構わず抱き上げ、ことばを話せない子に名前をつけたのです。いたどり、と。旦那さまはあまり外出をなさらないので、退屈だったのかもしれません。それに……ここには今まで、大人しか訪れませんでしたから……」




    「いたどり」
    「うん、だんなさま」
    「旦那様じゃない」
    子どもが首をかしげると、恵は笑ってその手を引き、やさしく抱き寄せた。質の良い着物に染み付いた花や香の香りの奥に恵本人のにおいがして、子どもは目を閉じた。世界でいちばん安心するにおいだった。
    「伏黒、二人の時はそう呼んでくれ」
    「どうして」
    「まじないみたいなもんだ」
    「まじない?」
    抱き寄せた子どもの耳の裏あたりの匂いを嗅いで「乳くせえ」と微かに笑うと、子どもは懸命に首を動かして恵の肩に顎を乗せた。座高が足りなくて、肩に若干食い込んでいる。
    「だんなさま、病気なの?」
    「………まあ、そんなとこだ」
    子どもは世の中の汚さなど何も知らなさそうな顔で、ふうん、と言うと、てのひらの飴玉のひとつを恵の肩にそっと乗せた。転がり落ちそうになる飴玉をすんでのところで受け止めて、こら、と叱りつける。透明の包み紙をそっと剥がして子どものくちびるの前へと持っていき、そっと口の中へ転がした。
    「まだまえのが残ってたのに」
    「そうか、悪かったな」
    「いいよ」
    子どもは両手で口元を押さえて、辿々しく話している。飴玉が邪魔で話しづらいのだ。温いてのひらにそっと口付けると、子どもはくすぐったそうにみじろいで、睨みつけた。邪魔するな、とでも言いたいのだろう。恵はかさついたくちびるを舐めて、悪い、と呟いた。ちっとも悪いと思っていなさそうな太々しい表情。
    「ふしぐろは何でここにすんでるの?」
    口の中の飴玉がなくなった頃、子供がふと恵に問いた。
    「すんでねえよ」
    「でもお手伝いのひとはここに住んでるんだよね?」
    「まぁ…住んでるっつか憑いてるつうか」
    「ふうん?わかんない」
    「わかんなくていい」
    解呪方法が真実の愛と口づけだなんて馬鹿みたいだ。にやけ面のふざけた担任の顔が浮かぶ。湧き上がるむかつきを誤魔化すように、子どもを膝に乗せた。石ころのように軽い。
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    _skmitk_

    MOURNINGショゆじとめぐです 如何にもこうにもならなくなったので供養します 急に終わります
    めぐゆじ伏黒、オマエは自分のこと暗いとか言うけどさ……え、言ってなかったっけ?ゴメンって、怒んなよ、な?…うん、でさ、俺はずっとオマエのこといい奴だなって思ってる、今も。うん…うん?あはは、死ぬわけじゃねえよ、いや死ぬか。でも戻ってくるよ、多分。なんか廻るっていうだろ、知らねえけど……六道輪廻?ふうん。伏黒が言うからそうなんだろうな。……そろそろだ、ありがとな。つぎはおれじゃないおれで会いたいよ…なんつうか、ただ顔が見たい。オマエの。






    恵さま、お召し物にございます。
    恵は襖の奥、そんな声を聞いた。メジロの鳴き声が聞こえる。ゆびさきで弄んでいた広重の名所江戸百景を閉じて声をかけると、うやうやしく開いた襖の奥から、地べたに額をこすり付けた女中が現れる。恵さま、おはようございます、本日は善い天気にございますので、お庭に出られてはいかがでしょうか。サクラとサンシュユがきれいに咲いておいでです……そう深く首を垂れる。はぁ、そうですか、と恵が気のない返事を返しても、女中は身動きひとつせず、どうか…と言うだけだ。恵はため息をついて、女中のま隣、同じように頭を下げた子どもに声をかけた。
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