プリティできゅあきゅあな新殺くんとマくんとぐだちゃんの落書き★あらすじ★
『なんやかんやあって自身の見た夢が作り出す微小特異点に攫われてしまったマスターを取り戻す為送り出された燕青とマンドリカルド。「二人しか行けないって事は、立香ちゃんが君達だけへ特別にSOSを送ってるって事かもだ!」なんて甘言に騙されてほいほい降り立った特異点で降りかかる不幸。着いたら脱いでやろうと思ったのに無駄に高性能ロックを掛けられた着脱不可なコスチュームと聳え立つ荒廃したビル群。そして呆気に取られる二人の前に現れたボンテージ衣装のマスター・立香!どうする燕青!それは脱げないぞマンドリカルド!』
「──っと、ご丁寧な説明どうもぉ!!」
鈍い音を立て関節があらぬ方向へ捻じ曲がったエネミーが地響きと共に沈む。
頬へ飛んだ血しぶきをぐい、と拭い苦々し気に口の端を歪める燕青の背後で木刀を構えたマンドリカルドも眉を顰めた。戦闘が苦しいのではない、ただ単に今着せられている衣装が──
「うっごきづりぃ……」
「ははっ、中々似合ってるけどっ!」
「ジョウダンでしょ……!あー、これ記録されてたら死ねる……っと!!」
降りかかる追撃を跳び除け、返す刃で力いっぱい叩き落とす。出てくる敵一体ずつは強力ではないが何せ数が多い。出来うる限り遠く離れない様に注意はしているが、じりじり囲まれて行く事は避けなければ。
『二人とも大丈夫かい!?』
「大丈夫じゃないだろ、コレぇ」
「とにかく早く着替えたいッス!!」
『あーん!だってそれ脱げない様に作っちゃったし!!』
「「何でぇっ!?」」
モニター越しに舌を出すダ・ヴィンチの言葉に離れた場所で同時に大声でツッコむ。こうして会話が出来る程度には余裕を持てているが、それもいつまでもつか怪しいものだ。
繰り出される攻撃を寸でに交わし、再び燕青の元に駆け寄ったマンドリカルドがああっ!と叫びながら髪を結わいた髪留めを煩わしそうに止めなおす。
それは取っても良いだろう、と言ってやりたいが余計にげんなりさせそうでこちらも捲れ上がった腕の生地を直す燕青は苦笑いを浮かべるしかない。
この特異点専用に作られた衣装だから、と無理やり着せられた矢鱈フリルの付いた魔法少女じみた黒いコスチュームに伸縮性は無く、まさに二人の為に作られました!と主張する様なピッタリサイズ。いや、ピッタリ以前に肌に食い込む部分もあるので少し小さく作られているのかも知れない。
同じく白いコスチュームで身じろぎしているマンドリカルドもそうなのだろう。あちらは裾が広がっているタイプなので、少しはマシか。
「にしても、なんでこれこんな直サイズなんだよ、すっごい動き辛いんだけど」
『有識者がね、ぴったりした衣装が翻る所にこそロマンがあるし、女の子は憧れるって言うからさー。ほら、立香ちゃんの夢の中みたいなものだし彼女の求める世界に合わせてあげた方が早く満足してくれるかと思って。まあ、立香ちゃんにこの夢の元凶アニメ観せたのもその有識者なんだけど』
「はははー有識者ぶっ潰す」
「マスターにそのアニメ見せたヤツ等、召喚ブラックリスト入りしてくだせぇ」
『まぁまぁ、マスターを取り返せればその衣装ともおさらばな訳だし!君達だって【あの立香ちゃん】を早く元に戻したいだろ?ほら、来たよ!』
「「!!」」
会話をしながらも殺気を抑えない二人を遠巻きに囲んでいる敵群の向こう側。崩れ落ち瓦礫の山と化したそこに───居た。
大きな満月を背負い、立つ彼女。
見慣れた顔だ。何時でもすぐ側に居て、声を掛けると嬉しそうに微笑んで小さな唇で名前を呼んでくれる大切な、マスター。
積み上がった味方の残骸をきょろりと見回し、地上にいる二人へ視線を戻す彼女の瞳はいつもと同じように輝いている。
「こんにちは、招かれないお客様!私はリツカ。ここのじょおうさまをしているの」
「……マスター」
「ますたー?うーん、確かにこのエリアの主人だからマスターなのかな?」
『だめだ二人とも、今の立香ちゃんは正気じゃない。まさに夢を見ている状態だ』
「んなことはわかってる」
いつもの彼女なら仲間の死体を見てあんなに無慈悲でいられないだろう。
フィクションだから怖くない、夢の中だから現実味がない。
あるいは彼女も本当は現実でも『無慈悲』で居たいと思った事があるのかも知れない。
踊る様な足取りで瓦礫の山を下りてくる立香の姿にどちらとも無く身を構える。あれはマスターであって、マスターじゃない。
目覚めさせなくてはいけないモノだ。
彼女が空いた片手を握ると、その場に立っていたエネミー達がしおしおと萎んでいく。空気で膨らませた人形の様なものだったのだろうか。
「マスター」
「わぁこんなに暴れちゃったんだ。強いんだね!」
「主からの賛辞は浴びるほど欲しいけどそれは帰って、起きたあんたから貰いたいんだよなぁ」
「起きる?起きてるよ?」
消えなかった足元にあるエネミーの身体を乗り越えながらこてり、首を傾げころころ笑う彼女の姿は悪意の無い悪魔その物だ。
ごくり、喉が鳴り汗が背筋を伝う。
言いたい事がある。それは出会った時からずっと言いたくて、ただそれだけが気になって。目の前の彼女を取り戻すより、先に───
「っだーーっ!!もうガマンできぬぇーっす!!マスター!服着て服~~っ!!」
「あーあ、言っちゃった!」
『耐え切れなかったか~!SAN値振り切っちゃった?』
絶叫と共に顔を覆いしゃがみ込むマンドリカルドを見ながら、燕青が憐れみを塗した笑いを零す。髪の間から見える耳は真っ赤に染まっていて、見るも無残だ。彼にしてはここまで正気を保っていたのが奇跡だろう。
「ええ!?服着てるよぉ!」
「うんうん、ちょーっと肌色が多いかなってヤツだよな。うん。でも危ないから何か着た方が良いと思うんだよなぁ」
ボヤきながら立香の姿を見やる燕青の声にも焦りが浮かんでいる。
何せこの状況はモニタリングされて、管制室から丸見えだ。マスターが心配で状況を知ろうとしているサーヴァントがどれだけいるかわからない。
黒く光沢のある生地が際どい角度で食い込んでいる『悪の女幹部』の衣装へ身を包み、白い肌を惜しげも無く披露しているマスターの姿はあまり衆目に晒したくはない。
「だって、【悪の女幹部】だもん!」
「もーちょっと布の多いのあったでしょ!?ぜってぇーあった!!」
「観たのこういうのだった!」
「超悪影響じゃん、ホントに誰だよ有識者!!」
『カルデアはホワイトだから公益通報者保護制度を導入してるよ!』
「マンドリカルドの旦那に提案があるんだけど、可能性のある奴を端からやれば何時かは行きあたると思うぜ」
「!!」
『わぁ!その口調は本気だね!って、立香ちゃんが逃げちゃう!!』
「「!!」」
「えーっと、なんか取り込み中みたいだから私お城に戻るね!会いたくなったらあそこまで来てねっ♡」
「まっ、立香ッ!!」
「マスターぁ!!」
「ばいばーい!イケメンなのに変なカッコのお兄さん達!」
「イっ!?」
「いや、変なカッコって言われてるからそこで喜んじゃダメだろぉ……」
「はっ!そ、そうっすね……」
『私は似合うと思うけどなぁ~ちゃんと高性能にしたし』
「「そーじゃない」」
ひらり、宙に浮き遠くに見える高層ビルを指さしてから飛び去った彼女の艶やかで丸い尻が月と被って思い起こされて、がくりと肩を落とした二人はモニターへ力なく反論すると重い足取りで歩きだしたのだった。