王子様と竜の一族の御令孫は幸せになりました♡昔々、吸血鬼と人間が共存し、お互いの領分を守り、世界の均衡を保っていた時代がありました。
中でも竜の一族と呼ばれる高等吸血鬼は人間を食糧ではなくよき隣人として共に歩める道を模索しておりました。
人間達の多くも歩み寄ってくれる高等吸血鬼に畏敬の念を捧げ、今では血液を提供する施設が作られたり、吸血鬼達は超自然的な能力と永遠ともいえる長い年月の間で培った知識と技術を惜しみ無く提供していました。
とても幸せな時代でした。
しかし、人間も高等吸血鬼にも中には悪い考えを持つものもいます。
人間と吸血鬼の対立起こさせる為に憎悪し合うもの達が画策し始めたのです。
中には高等吸血鬼に罪を着せて、無辜の民を傷つけようとする者もおりました。
ですが、そんな時に竜の一族と特に親交の深い国が真っ先に高等吸血鬼と大きな戦争となる前に手を取り合いました。
友好国への架け橋となったのは、竜の一族の直系であり、高等吸血鬼でもあるドラルクでした。
心配する一族をよそに、頼れる使い魔であり、賢い可愛いアルマジロのジョンをお供に友好国へと訪れました。
その国の特産は色取り取りの薔薇や農作物です。
品種改良を繰り返し、乾いた大地でも収穫する事のできる野菜や、疫病に強い品種など、緑の手を持つ人間が多い国でありました。
しかし、国力としては周辺の国に及ばず、恐らく数年のうちに属国にされてしまうかもしれません。
そんな時に人間と吸血鬼との対立の噂を聞きつけた当時の国王は薔薇を好んで取引をしてくれる竜の一族に助けを求めたのです。
それが切っ掛けで、竜の一族はその国を切っ掛けに数多の国と親交を深めていきました。
そして、代表として名乗りをあげたドラルクはその日も近辺の情勢や何か変わったことがないか確認をしおえた後、いつものように咲き乱れる薔薇園へと足を運んでいました。
『やっぱりここの薔薇園は綺麗だねぇ、ジョン』
『ヌ~……ヌヌヌヌ?』
『いだっ!いって……う?!』
薔薇園の茂みに指先を突っ込んで涙目を浮かべている小さな子供がいたのです。
『おや、怪我をしているじゃないか、ジョン絆創膏あったっけ?』
『ヌヌ!』
賢い可愛い頼れるマジロのお出かけポーチには何でもそろっています。
まずは、消毒して、綺麗に拭いて、とても器用なドラルクは簡単に手当てを終えて子供に声をかけました。
『とっても元気なことは良いことだけど、薔薇にはトゲがあるから、無闇に触ってはいけないよ』
『……ごめんなさい、今日竜の一族の人が来るって聞いて、俺の育てた薔薇……あげたくて』
ドラルクの優しい声色に怒られないと安堵した子供は正直に答えました。
『この薔薇園を君が?』
『あっ、ちが、ちょっとだけ!庭師のじーちゃんと一緒に作業しただけだから、全部俺が育てた訳じゃ、無いんだけど……』
『……どうして竜の一族に薔薇を贈ってくれるの?』
『だってすげーんだぜ!この国を一番に助けに来てくれたのは竜の一族だし、とっても強いんだって!……だから、お礼が言いたくて』
『そうか……』
こんなに小さな子供も今の世界の均衡が危ういことを分かっていて、そして竜の一族を友好に思ってくれている。
ドラルクは小さな子供の目線に合わせてしゃがみました。
『君がいつか大きくなって、平和な世界になるまで薔薇の贈り物はお預けにしておくよ……だからそれまでまっていてくれるかい?』
『……りゅうのいちぞくって……もしかして……!』
『また来るね、その時は私も両手いっぱいの薔薇を君に贈るとしよう』
ドラルクは瞳を輝かせる子供、この国の王子であるロナルドに約束して、彼の瞳の色のリボンタイを手渡ししました。
『これ、貰っていいの……ですか?』
『約束の印、大切に持っていてくれると嬉しいな』
竜の一族に伝わる守護石を中央に取り付けた細長いリボンタイは、成長した彼によく似合いそうな高貴なロイヤルブルーでした。
先ほどの怪我した指先に軽く口づけを落としたドラルクは、そろそろ帰らなくてはと立ち上がりました。
『っおれ待ってるから!!この薔薇園いっぱいあんたの為にちゃんと守って、待ってるから!!』
手を振りながら叫ぶロナルドの瞳には涙が溢れていました。
これから竜の一族は友好国を守るために、数多の国から戦争を防ぐために多くの高等吸血鬼が使者となって訪れるのです。
中には吸血鬼を悪と決めつけ、襲いかかる国もあるでしょう。
しかし、ドラルクはロナルドとの約束を胸に、味方になりえるものには交渉と説得を、歯向かうものには隷属を、世界の均衡は漸く昔のように保たれるようになったのはそれから二十年もの歳月が過ぎました。
「ジョン、ようやくこの国に訪れることができたね、彼は元気にしているかな」
「ヌヌ……ヌ!!」
高等吸血鬼であるドラルクと使い魔のジョンは外見に変化はありません。
しかし、あの薔薇の庭園で出会ったロナルドは見目麗しく成長していることでしょう。
「約束だからね、まずは薔薇園に行ってみよう……おや?」
「ようこそ我が国へ、竜の一族のドラルク様」
「きみ、は……」
約束した薔薇の庭園は二十年前よりも更に美しく咲き誇り、品種もかなりの数が増えたようです。
なにより、庭園の入り口にたっていたのはあの時のロナルドでしたが、二十年の月日で立派な姿に成長していました。
美しい青い瞳は宝石のように輝き、艶やかな銀髪は金色の王冠を戴くに相応しい容貌をしていました。
そして、彼のドレスシャツの首もとに巻かれたリボンタイはあの時にドラルクが渡した約束の印でした。
「本日はこのような格好をしておりますが、騎士団に配属しております、なので剣はご容赦ください」
「ロナルド、くん……大きくなったね」
「……はい」
金の縁に青地の刺繍が施された大綬の腰辺りには確かにファー付きの青いマントの下で佩剣されている。
「なんだか緊張しているみたいだけど…」
「お、おれ……いえ、私は竜の一族の皆様に守られてきました、だから……これからは強くなってこの国を守り、貴方たちと同じ道を歩いていきたいのです……これを受け取っていただけますか」
差し出された薔薇の色はオレンジ色だった。
たった一本の薔薇の花を頬を染めて、緊張した面持ちで白い手袋ごと、ずいっと差し出してきた。
「約束、まもれたかな……」
「ああ、勿論だとも……その前にこれを受け取ってくれるかな?」
「え、ええっ?!」
ロナルドの眼前にあるのは両手いっぱいの赤い薔薇の花束。
「99本の花束の意味、分かってくれるかな」
「………この薔薇の花を足せば俺の気持ちとしてもお返しできますよ」
「それはよかった、ねえあの時は君に愛を囁けなかったけど、二十年待ったのだからもう、愛してると伝えても良いかな、私の王子様」
「当たり前だろ……っ」
99本の薔薇の花は永遠の愛、ずっと好きだった。
そして、100本の薔薇はーーーーー。
END