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    aymsyb94

    @aymsyb94

    @aymsyb94
    支部に置いてない奴はだいたいこっち
    R-18ドロ小説とか健全とかごちゃまぜ

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    aymsyb94

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    むかーし沼にはまりたての頃に書いた奴です
    でるdrのすぐタヒなない!と同時期に書いたので色々設定が違います
    (逆転なのかでるたなのかふわっふわだった)
    口及文寸にド隊長の部下に雛ちゃんと半君がいる設定です
    にょたでるろちゃんが年上のおねーさんです
    お目目も碧眼です
    このお話限りの隊長のダンピ捏造あり

    #ドラロナ
    drarona
    ##小説
    #女体化
    feminization

    Lady Vampireルーマニアでその昔、真祖の姫君として崇められていた美しい吸血鬼がいた。
    白銀の美しい髪と宝石のように輝く碧眼。
    真名を知ると誰もがその姿に魅了され、名を隠すほどの力を持った強大な吸血鬼。
    彼女は自分の事をロナルド、と呼んでいた。


    『いつか…いつか俺達と人間が笑って暮らせるようになれば良いのになぁ』
    『ロナルド様は人間と仲良くなりたいのですか?』
    『そうだな、そうなったら良いよな』

    幼い私は美しい吸血鬼に憧れを抱いていた。
    ダンピールで虚弱体質な私をいつも気にかけてくれて、日光なんて平気の筈なのに日焼けしたくないからといつも私と日の当たらないテラスで沢山の話をしてくれた。

    心優しい吸血鬼だった。
    彼女と出会ったのは母の故郷である日本へ一時的に滞在するため、新横浜に訪れていた時だった。
    人間と吸血鬼の対立が激しくなる一方で、対話を願う私の母と友人になり、争いを無くしたいと誰よりも平和を願っていた。

    お祖父様とヘルシング教授の交流が広まり、近い内その願いも叶うかもしれない、その矢先の事だった。


    『ドラルク!!』
    『ろ、ロナルドさま……だめです、来ないでッ!』
    『ぐっ!……うぁァ!!』

    お祖父様の使いだと名乗った吸血鬼は反和平派であり、ダンピールである私を人間に殺させることで戦争の火種を起こそうとしたのだろう。
    拐われた私を助ける為に彼女は銀の銃弾を背中に何発も撃ち込まれ、それでも私を覆い被さるように庇ってくれた。

    『へ、へへ……だい、じょうぶか?ドラルク』
    『い、いやだ……ロナルドさま、逃げて、逃げてぇ!』

    駄目だ、それ以上は幾ら彼女でも死んでしまう。
    銀に焼かれた肌の臭い、痛みに呻く彼女の背後に迫る愚かな妄執に取り憑かれた人間達がもうそこまで来ていた。
    十字架を槍のように突き立てられた身体は夥しいほどの鮮血を吹き出し、それでも私を庇うことはやめなかった。
    彼女なら私を見捨てて影のように消え去ることも出来たのに。

    『ぐ、ふ……ッ良い、かドラルク……人間を恨むな』

    誰か、お祖父様、お父様、助けて。
    こんな風に悪意を向けられてもまだ人間を信じようとする彼女を、今すぐ助けて。

    『やめ、ろ……やめろ……やめろぉおおおおおおおお!!』

    鮮血が私の視界をふさいで、赤く染まり続ける。




    「……ヌ、ヌー?」
    「……………ああ、ジョンおはよう」

    ああ、また同じ夢を見てしまった。

    「ヌー……」
    「起こしてくれたのかい?ありがとう」

    二百年ほど前の悪夢は私を今でも苦しめ続けている。
    当時8才の誕生日を迎えた私は戦争を望む吸血鬼によって罠に嵌められ、和平を望む吸血鬼に命を救われた。
    傷ひとつつけないよう何度も十字架を穿たれても身動ぎせず、ひたすら耐えていた。
    駆けつけたお父様によって助け出された時には彼女の自我はとっくに消え失せて、私を護る方陣を引き終わった次の瞬間には理性を失い、強大な力は解き放たれてしまった。

    そうでもしなければ、彼女を穿ち続けた十字架が私の喉元まで迫り死ぬところだったのだ。
    辺り一帯は私を除き、草木ひとつ残らず焼かれ、焦土化した。

    私が次に目を覚ました時には死んでも死なない吸血鬼を畏れ、痛め付けたモノ達の為に数百年単位の眠りにつくことを引き換えに焦土化を【無かった事】にする巻き戻しを掛けた、彼女の封印が決まった次の日の事だった。

    『どうしてですか!ロナルドさまは何も悪くない!私を助けてくれました!どうして!どうしてロナルドさまばかり……!』
    『良いんだドラルク、……俺が言った事は覚えているか?』
    『……人間を恨みません』
    『そう、それでいい…昼と夜の間の子、お前がこの世界に生まれて本当に良かったと思える日が来ることを、祈っているよ』
    『ロナルドさまぁ!いやだ!行かないで!』
    『……さよなら』

    拘束され、焦土化した街の巻き戻しを維持するために彼女は自ら結界の要となる棺へと眠りについた。

    それからもう、二百年年の月日が過ぎたのだ。

    「ヌヌヌヌヌ?」
    「あ……すまないねジョン、ボーッとしていたね」

    朝食の準備をしようね、とベッドから起き上がる私に大切なものは取りこぼさないと決めた私と使い魔契約をした使い魔のジョンはヌー!と鳴いた。

    さあ、今日もこの新横浜でトラブルを起こす吸血鬼と人間の仲立ちに入らなければ。
    私は彼女との約束を、願いを守るためにここに居るのだから。





    新横浜には街全体を覆うほどの結界が常時展開されている。
    常夜神社に隠された棺の中で眠り続けながら真祖の姫君が今も過去の贖罪の為に結界を維持し続けているのだ。

    「結界の綻びが?」
    「はい、監視役の神主から連絡があり、恐らく目覚めの予兆と」
    「目覚めるのか…本当に……?」

    神奈川県警吸血鬼対策課に入ったその一報は創設以来の緊急事態を報せるものだった。

    彼女の大量の血を浴びてただのダンピールではいられなくなったあの頃の幼い私は一刻も早く彼女の元へ駆けつけようと気が急いている。

    だが吸対に所属し事態の解決に勤しむのが隊長としての、彼女の約束を守り続ける今の私の責務だ。

    「隊長、ご指示を……うわっ!隊長、血!血ぃ出てますって!」
    「……おっと、失礼」

    相反する二つの私を律する為につい拳に力をいれてしまったらしい。
    血液錠剤を含みながら部下に渡された消毒と包帯セットで簡単な処置をする。

    「二百年前眠り続けた高等吸血鬼だ、まずは情報収集と行こう」
    「た、隊長?何処に行くんだ」
    「決まっている、吸血鬼ロナルドへ会いに行くんだろう!俺もついていくぞ隊長!」
    「そうだね、半田君にヒナイチ君に同行を頼むよ」

    ああ、どうしても会いたくてたまらない気持ちが勝ってしまった。






    「お待ちしておりました!りゅ、竜公の御令孫…あなたが来られたのですか」
    「何か問題でも?」
    「い、いえ……目覚めの時は近いようです」

    神社の神主は当時の人間側の一族の代表だ。
    街を守る結界を維持する彼女に長く関わってきた者の子孫として、吸血鬼というよりは信仰の対象のように扱っている節がある。


    「……もう数時間も持たないな」
    「すぐじゃないか!もっと隊員を増員しなくとも良いのか」
    「目覚めたばかりの時に人間ばかりでは警戒するだろう、だから隊長も俺とお前を人選したのだ」
    「そういうこと」

    お父様達には先程連絡をいれたが、間に合わないだろう。知っている気配が複数あれば彼女も安心すると思ったが、ダンピールの気配がふたつと幼い背格好のヒナイチ君ならまだ敵意は無い……と思われたい。
    後はこの変わり果てた姿で私だと気づいてくれるのを願うしかない。

    「彼女は例の場所ですね」
    「は、はい……」

    吸対に所属する前からずっと通い続けた場所だ。
    歯切れの悪い神主を訝しげに思いながら、この神社の中でも最奥に設置された棺の間の障子を開ける。

    「二百年ぶりの目覚めで吸血衝動が昂っているかもしれません、幾つか血液ボトルの用意をしております」
    「……そ、そんな無闇矢鱈に襲うなんてまさか……」

    彼女を女神か何かだと思っているのか?
    本能に抗えずその場にいる人間を襲い、また苦しむことになるのは彼女自身だというのに。



    日本家屋の和室を一部屋だけ改装された棺の間は、薄暗く棺の設置されている場所が傷まないように絨毯が敷かれている。

    「隊長は、その…『真祖の姫君』と交流があったらしいな」
    「私がまだ十にもならない頃の昔だけどね」
    「隊長は血族になれる程の血を浴びているから俺とは違い殆ど吸血鬼に近いからな」

    ダンピールは本来なら親吸血鬼の血を貰い正式に吸血鬼となる。だが、私の場合はあの日彼女の血液を大量に浴びた事で吸血鬼に近い不完全な存在となった。
    血を浴びた事により寿命は伸びたが、ダンピールとしての能力を強化する血液錠剤は必要不可欠なものであり、かといえば吸血鬼としての能力が発現したわけではない。

    「半端者だからこそ吸対の隊長になれたんだ、結構な事さ」

    完全な吸血鬼となっていたら一番近くで見守れるこの立場に上り詰めることも出来なかった。
    気休め程度に貼り付けられた護符を剥がし、長い間開かれることの無かった棺の蓋を外す。

    「か、勝手に封を解かれては困ります!」
    「でしたらそちらの、おっしゃる御大層な儀式でも始めれば良い、もうあと数分で目を覚ましますよ」
    「えっ、し、失礼します!」

    想定していたよりも彼女の気配が濃くなるのが早い。
    蓋を外し、棺の中で眠る姿は二百年前と全く変わらなかった。

    「こ、これがあの吸血鬼ロナルド?綺麗だが…普通の女の子みたいだ……」
    「新横浜を焦土化し、街の結界を維持しているようにはとても思えんが……」
    「………………………………………………ん……」
    「お目覚めですか?」

    吸血鬼の中では珍しいスカイブルーの瞳。
    眠りから覚めた彼女は目蓋をゆっくりと開けて、きょろきょろと辺りを見渡した。

    「……おまえ、だあれ?」
    「……私は」
    「なんか、なーんかなつかしい気がするけど…おれ、何をしてたんだっけ……」

    二百年もの眠りについた代償は一部の記憶の欠落だった。





    「俺、確かルーマニアにいたよな?それで竜の一族と出会って……あれ?でも日本に戻ってきた気もするような……」

    自らを封じる前の数年の記憶が消えていた、それは彼女と出会った私との思い出を全て否定された気分だった。

    「…何か他に覚えている事は?」
    「あー……何か、大切なもんを守っていた気がするな、命を掛けてもいいから絶対守りたいヤツ……?」
    「……………………」
    「何だったんだろう、俺の身内はいまどこにいるかわかんねぇし、ミラもドラウスも別に俺が守るほど弱くはねーし……んん?」

    ここに居るよ、そう伝えてしまえば良かった。
    だけど、幼い子供だった私を守るために負った傷はまだ癒えていない。
    記憶が無いのはそういうことかもしれないのだ。

    「お前は俺が何してたか知ってるのか?」
    「……貴方はこの街の結界の要として自ら眠りにつきました、この街を守ってくださった」
    「ふぅん……」

    全くの嘘では無い。
    結果として新横浜として名を変えたが今この街で凶悪な高等吸血鬼の侵入を防いでいるのは彼女の結界のお陰だ。

    「私も竜の一族の端くれ、すぐに貴方の知る者を呼び寄せますので、こちらでお待ちください……よろしいですかな」
    「……ああ、だから懐かしい気配がするのか」

    目に険のあった眼差しが和らいだ気がした。
    これが彼女なりの防衛手段なのだろう、真祖の姫君として在り続けた幼い私に向ける事は無かった冷たい表情だった。




    「ロナルド!」
    「ミラにドラウス!……ちょっと老けたな」

    駆け寄ったお母様を抱き止めて、幼い頃に良く見た笑顔がようやく見れた。

    「寝坊助め、二百年も眠りにつきおって」
    「どこか痛いところや体調は悪くないか?」
    「へーきへーき、記憶が結構飛んでるみたいだけどな、あのさあそこにいるのってお前達の血族かなにか?」

    私の方をチラッと見て、問いかける彼女にお母様は動揺しながら私の名前を教えた。

    「え……あ、そ、そうだなあれから成長したから……あの子はドラルクだよ」
    「どら、るく……?」
    「何だ、あんなに可愛がっていたから男前に成長して驚い「ドラルクって誰だ?」は……?」
    「お父様、お母様ちょっとすみません」

    やはりこれは異常だ。
    二人に声を掛けて恐らく眠りにつく前の、私と出会った頃あたりの記憶が欠如している事を説明した。

    「そん、な……」
    「あの時あれ程の血を浴びてドラルクと親と子の吸血鬼の契りをかわしたのでは無かったのか?!」
    「この不完全な状態が全てでしょう……」

    本来はもっと強固に結ばれる血を与えた親と子の吸血鬼の結び付きは彼女が眠りについた事で希薄になっているのだと考えていた。
    だが、彼女が目覚めたいま、私との繋がりは細く頼りないもののままだ。

    「ッ、ロナルド!お前が守り抜いた我が子だ!忘れてしまったのか?!」
    「まも……る……?……ぅ、うああ……ぅ、」
    「お、お止めください!結界に何かあったら……!!」

    お父様の呼び掛けも虚しく痛みを堪えるように頭を押さえて蹲ってしまった。
    ああ、彼女の中には私は存在しない。

    …………流石にきついな。




    「先ほどは父が失礼しました、……さて貴方には目覚めてから幾つかの滞在場所の候補を選んでおきます、ひとまずは…新横浜のヴリンスホテルに宿を取りましょうか」
    「新横浜の外に出ちゃ駄目なのか?」
    「貴方の記憶と現代はかなり差異があります、ですので落ち着かれるまでは「あのさ、俺の事で何か気を遣ってくれてるのは分かるけど、ちゃんと教えてくれ」……何を仰る」
    「俺は何か罪を犯したのか?思い出せる範囲の記憶では日本にはいなかったし、二百年も眠りについていた理由が…お前を庇うだけじゃ足りないだろう?」

    隠している、ではなく気を遣っているとは。
    彼女の真っ直ぐな瞳はあの頃のままで、眩しいくらいに力強い。

    「……二百年前に貴方は同胞の罠によって殺されそうになった私を庇い、生命を救ってくれた…いまお伝えできるのはそれだけです」
    「……そっか」
    「記憶が欠けているのだ、暫くは私達と過ごすのはどうだ?御真祖様も会いたがっているぞ」
    「そ、それは困ります!ロナルド様にはこちらにいて頂かなくては!結界が……」
    「その話は後でもよろしいかな」
    「…………ッ」

    お父様の提案に神主は慌てて彼女に近づこうとするが、それよりも先に彼女の前に立った。
    焦土化した過去があるとは言え、二百年の経過で新横浜に名を変えたこの土地は彼女の力によって甦ったのだ。
    結界は街の要として維持されているが、吸血鬼の能力を引き出せるパワースポット程度のものだ。
    彼女がいつまでもここに縛られていい理由にはならない。

    「ドラルクがこんなに逞しくなって……!」
    「子供の成長は早いな……」

    両親が何やら騒いでいるが、ちょっと真面目にやらせて欲しい。





    「は?彼女が消えた?どういうことですかお母様」
    《すまないドラルク、目を離した隙に窓から抜け出したみたいで、今ドラウスが探しているんだが…》

    彼女なら翼でも生やしてどこにでも行けるだろう。
    旧知である両親達を出し抜いて抜け出すまでとは思ってはいなかったが。

    「分かりました、私の方でも……何か?」
    《……ドラルク、辛いなら私達の方で……》
    「記憶の件ですか?…気にしていませんよ、問題ありません」
    《……そうか、分かった…また連絡を》

    辛いのは二百年の間に記憶を失い、友人に置いてきぼりにされてしまった彼女だ。
    ……早く、探し出さなければ。







    彼女の気配を微かに追える私は部下達に業務を押し付けて、新横浜の隅から隅まで歩き回った。
    実家の城ならまだしも、目覚めたばかりの彼女の行動範囲は未知数だ。
    空が夕焼けに染まった頃、彼女の居場所をようやく見つけた。

    「ヌーヌ、ヌー?」
    「お前のお腹ふわっふわだなぁ…お日様の匂いがする……」
    「ヌヌヌ?」
    「……うん、探し物がふたつあるんだ、一個は多分すぐに会えるけど、もう一個は……俺にも分かんなくて……」

    灯台もと暗しとはこの事か。
    新横浜でもかなり高い位置にある私の屋敷の手前にある薔薇園の中で、彼女は私の使い魔であるジョンを抱き抱えていた。

    「お探ししましたよ、真祖の姫君」
    「ヌヌー!」
    「ジョン、良くエスコートしてくれたね」

    流石私のジョンだ。
    ここで途方に暮れていた彼女を見掛けて声を掛けたのだろう。お陰で見つけ出すことが出来た。

    「……あ……ご、ごめん……勝手に飛び出して……」
    「いえ…すみません、聞こえてしまったのですが…探しているものがあるのですか?」
    「あ、ああ…俺の事を待ってる奴がいるってミラから聞いて……メビヤツって言うんだけど」
    「ああ、彼なら私の屋敷……こちらにいますよ」
    「え?!……何で…?」

    元は実家の城に設備されていた侵入者撃退装置のひとつだったが、彼女と出会い自我を持った稀な存在だ。
    目覚めの時には流石に持ち込めなかったが、折を見てホテルで対面させようとは考えてはいたのだが。

    「貴方に特に懐いていた個体でしたので、メンテナンスも定期的に行っています、電源を入れればすぐに……」
    「あ、会えるのか!会いたい!」
    「……では、お手をどうぞ」

    淑女を招待もせずに屋敷に招き入れるのはマナー違反だが、瞳を輝かせた彼女の期待に応えたかった。



    「……ビッ、……ビッ?」
    「メビヤツ!~~~メビヤツだ……!良かった、変わってないな、元気にしてたか?」
    「ビッ!ビッ!」

    電源を入れて、大きな一つ目を開けたメビヤツはすぐに彼女を認識した。
    二百年の時を経ても変わらないお互いの姿にようやく彼女が抜け出した理由が分かった。
    変わり果てた世界の中で、彼女は自分と同じ変わらないモノを探し求めたのだ。

    「……ありがとうな、えっと……」
    「お好きなようにお呼びください、ドラルクでも隊長でも」
    「え、っとじゃあ……ドラルク?」
    「はい」
    「メビヤツに会えて嬉しかった!俺、寂しかったんだな……でももう大丈夫だから、俺かえ「ここにいてください」へ?」

    違う、ここにいてくださいじゃない。
    その個体はお返しします、と言う筈だったのにとんでもない言葉が口から飛び出してしまった。
    ああ、彼女も固まっている。

    「えっと…ホテルに戻らないと行けないんじゃないのか……?」
    「……屋敷の部屋数は余っていますし、日中もおりませんので……その個体に会いに行く度にお探しするよりはこちらにいてくださる方が…」
    「あっああ!そう言うことか!そうだよな、そうしたらメビヤツ暫く一緒にいられるしな!……で、でもドラ、ルクは良いのか?」
    「貴方が思うままに、過ごして欲しいのが私の望みです」

    何故だ、自分を律することは得意な筈だったのに。
    彼女が私の名前を口にする度に、喜びが溢れて止まらなくなる。
    彼女が少しでも落ち着ける場所を、屁理屈をこねて作ろうとしている。

    「そ、か……じょ、ジョン!」
    「ヌ!?」
    「ジョンもここに住んでるんだよな?じゃあ、俺ここが良い!この屋敷に住まわせてくれ!」
    「仰せのままに……母に連絡を取ります」

    どうしてこうなった。
    ……まあ、彼女の安らぎが得られるのだ多少……いやかなりの精神修行だと思えば、それで、何とか、なる……か……?


    両親と相談し、彼女の当面の住居は私の屋敷となった。
    折角だから両親もこちらに、と声を掛けてみたがお父様は喜び、お母様は暫く逡巡した後、話し合いの結果二人ともホテルに残ると仰った。
    年月の変化で変わってしまった自分達の姿は徐々に見せて慣らしていきたいそうだ、過保護なことだ。

    「全く!真祖の姫君が聞いて呆れる!」

    私と過ごしていた頃の彼女を美化しすぎていたのだろうか。
    お母様に用意して貰った寝室を抜け出して寂しいからジョンと寝る!とか言ってベッドに入り込んでくるわ、水が得意で無い癖にお風呂に入りたがって下着姿で結局奮えているわで全く慎みが無い。

    結局ジョンの助けを借りて入浴していたが、私の記憶の中の彼女はもう少し落ち着いていた。
    いや、これが彼女の本来の素だったのか。

    「大体、セロリが跳び跳ねるほど嫌いなんて知らなかったぞ私は!」

    結界の維持を継続している彼女には燃費が悪く、血液ボトルを与えても私の食事を羨ましそうに眺めるので夕食を用意したこともある。
    その際にピクルスの材料としてジョンに冷蔵庫から取り出して貰うと、奇声をあげて抱きついてきたのだ。

    「え、でもこの間セロリ持って追いかけてた半田先輩には思いっきり殴ってましたよ」
    「は……?」
    「隊長虚弱体質だからですかねぇ、まあ追いかけ回してたからかも知れませんけど」

    嫌、私もはしたないがちょっとだけやってしまった。
    軽い気持ちでセロリをジョンから受け取り、ちょっとだけ揺らすとぎゅうぅううううと抱きつかれてしまい死ぬかと思ったが。
    その後1時間くらい口を聞いてくれなかった。





    「お帰り!今日も顔色悪そうに帰ってきたな」

    ついつい残業をしてしまい、屋敷に帰ってくると気配を感じたのか彼女が玄関で出迎えてくれた。

    「ただいま帰りました…ええ、まあ…夕食は済ませましたか?」
    「ジョンは先に食べて貰ったよ、俺は…お前が帰ってからで良いかなって」
    「…ではお腹空いたでしょう、何か作ります」
    「それは良いから!…風呂頑張って洗ったからさ、さっぱりしてこいよ」

    あんなに流水を怖がっていたのに、環境への適応能力が高い。
    吸血鬼のシンボルである黒マントを脱いで、お母様の用意したピンタックの白いワンピースに上から黒のエプロンを着けて暇だから、と屋敷の細々した家事を片付けてくれている。

    昔もこうやって私の世話を焼いてくれたものだ、最近は気を許してくれているのか笑顔も増えてきた。
    ……無理をしていなければいいが。

    「ジョン~♡あんまりつまみ食いするとドラルクに怒られちまうぞ~♡」
    「ニューン?」
    「この小悪魔マジロめ~♡」

    久しぶりにゆっくり風呂に浸かり、キッチンに向かうとそこは楽園だった。
    …違った、愛くるしいもの達が夜食の準備をしながら仲良くハートマークを飛ばしていた。

    「おっドラルク、ちゃんと温まったか?キッチン勝手に使ってるからな、今日はロールキャベツ作ったぞ」
    「すみません、ジョンの分まで」
    「キッチンが進化し過ぎてまだ簡単なものぐらいしか作れないけどな、お前は昔から食がほそ……い……?」
    「どうしました?」
    「あ……い、いや……何でもない、ってジョン?それ以上食べると明日は俺とダイエットだぞ~!」
    「ヌヌ!」

    薄々気づいてはいた。彼女の記憶が欠如したのでは無く、過去の出来事を思い出さないように封じ込めていたのだと。
    それで彼女が苦しむくらいなら、私の事など思い出さなくて良い。







    夜食を取った後、彼女はおやすみ、と言って早々に自室へ戻っていった。
    食事中も気も漫ろにしていたので、あまり食欲が無いのに無理をさせてしまったと思いながら、ジョンと寝室に向かおうとすると、彼女の部屋の方角から大きな音が聞こえた。

    「どうしました!?……ジョン、先に入って様子を見て貰えないか?」
    「ヌッ!……………ヌー!ヌヌヌ!」
    「……入りますよ!」

    早く来て!とジョンの鳴き声に応じて、淑女の部屋に立ち入ることになってしまった。
    彼女の呻くような声と、絨毯に倒れていた身体からは異様な気配が漂っている。

    「…く、る……な……!」
    「……ジョン、下がっていなさい!……こ、れは」

    吸血衝動か!
    録に食事を取らなかったのは衝動に耐えていたのだと今更分かった。
    それでも血液ボトルを定期的に摂取していたのは確認していたし、彼女が吸血衝動を起こす程の消費を続けていたということだ。
    ……クソ、結界の維持などすぐにやめさせるべきだった!

    「はな、れてろ……ドラルク…頼む……から…」
    「……私の血を吸ってください」

    リネンシャツの襟を大きく開いて彼女の口元に首筋を差し出す。
    あとで血液錠剤を服用すれば何とかなるだろう、困惑する彼女にもう一度吸血を促した。

    「は……?」
    「私の血で貴方の渇きを癒せるなら、吸ってください」
    「や、やめて……やめろぉ!!……ゃ、だ……」
    「処女の血でなくて申し訳ないが、我慢して吸って頂きたい!!」
    「……ぁ…………」
    「……っぐ!」

    吸血衝動に耐えられなくなった彼女は私の首筋に犬歯を突き立て、夢中になって血を啜った。
    全身に広がる高揚感と牙の痛みに気を失いそうになるが彼女が吸血を終えるまで何とか膝を着かずに済んだ。

    「…………ご、めん、ごめんドラルク……」
    「お気になさらず、ずっと言い出せずにいたのでしょう?私の血で渇きは飢えましたか?」
    「……お、れ…どらるく、だけだ……お前といると血を吸いたくて、たまらなくなって……!」

    泣きじゃくる彼女の背中に手を回して、背中を擦ろうとしたが、止めた。
    私の身体は彼女の血を浴びた過去がある、本能的に血液を取り戻そうとしているのだろう。

    「……良いんです、貴方の役に立てるなら本望だ」
    「…どうして、ドラルクはそんなに俺に尽くそうとするんだ……俺とお前の間に一体何があったんだよ……!!」

    幼い私の生命を必死で庇って、街の巻き戻しの為に眠りについて。
    自己犠牲を繰り返し、自分を省みない貴女を愛しているからだ、そう答えられたらどんなに良かっただろう。



    数度の吸血衝動を繰り返し、その度に耐えようとする彼女に首筋を差し出して一ヶ月が過ぎた頃、思い詰めた顔で彼女は屋敷を出ていくと言った。

    「……どちらに向かわれるか、教えていただいても?」
    「常夜神社でもう一度眠りにつこうと思う、このままじゃ俺は……お前の血を吸い尽くしちゃうから」
    「それは本当に貴方の願いなのか?」
    「え……」
    「貴女がこの新横浜の為に犠牲になることは私が許さない」

    吸血衝動が沸くのは結界を維持し続けているからだ。
    それなら結界の維持などやめてしまえば良い。

    「私との吸血が嫌なら処女の血でも何でも伝手を頼って用意してみせます、血液ボトルで申し訳ないが」
    「そうじゃない!俺はお前を縛りたくてあんな風に庇った訳じゃ無いんだ!……っ、あ……」
    「思い出した……のか……」

    そんな素振りは見せなかったのに、あの時の記憶を全て取り戻してしまったのか。

    「……お前が俺の守りたい奴だって、分かって…あの小さなドラルクがこんなに大きくなって…嬉しかった」
    「なら……」
    「……ちいさなドラルク、ずっとお前を縛り続けてごめんな」

    恐れていた親吸血鬼からの支配を、彼女とのわずかな繋がりが一方的に破棄された。
    こんな簡単に、呆気なく断たれてしまうのか。
    窓を照らす月光が彼女を連れ去っていってしまう、翼を生やした彼女はふわりと浮き上がった。

    「行くな…行くんじゃない!」
    「これでお前はどこにだって行けるし、なんだって出来るよ……さよなら、ドラルク」

    伸ばした手は届かなかった。







    「どこにだって行けるし、なんだって出来るだと?……上等だ!」
    「ド、ドラルク落ち着きなさい」
    「ロナルドは本当に眠りにつくと言ったんだな?!」
    「ええそうですよ、あの……ああもう良い!もうあのわからず屋の小娘は人の苦労も知らずに神社に向かいました!」

    人が下手に出てればあんな風に消えてしまった。
    もう、遠慮なんかするものか。
    二百年も目が覚めるのを待ち続けたのだ、絶対に幸せになって貰う。

    常夜神社の神主に連絡を取ると、面会を渋るかと思ったがすんなりと棺の間まで通してくれた。

    「これは……」
    「次元の裂け目……?」
    「こちらにロナルド様自ら飛び込まれて……お帰りになられたあのお方と会話して、貴方がずっと言っていた意味がようやく分かりました、……あの方は神でも何でもない、普通の女性なのですね」

    より深く眠りにつく為に封印の要となる中心部へ自ら飛び込んでいったそうだ。
    神主の言葉に彼女は何ものにも縛られてはならない存在なのだと、実感した。

    「………ああ」
    「お迎えにいってあげてください、結界の維持は御令孫……いえ、ドラルク隊長が以前提案されたものを私共は受け入れます」
    「……助かります、失礼する!お父様達は裂け目が閉じないように、見張っていてください!」





    「ジョン、私から落っこちるなよ!」
    「ヌンヌヌー!」

    正直私も微かに残っている彼女の気配を追いかけているだけで、裂け目から戻れる保証は無い。
    それでも、彼女を追いかけない理由にはならなかった。

    「どこだ!」
    「…………どらるく……?」
    「見つけたぞ!勝手に飛び出してこんなところまで逃げて!何をやっているのか分かっているのか!」
    「ひっ、だ、だってお前の血を全部吸ってしまいたくなるんだぞ!こんな…危ない奴、お前の傍にいない方が良いだろ……!」

    亜空間の中で、彼女は一人膝を抱えて蹲っていた。
    もうお前の都合など知るものか、待っているだけでは駄目ならこちらからつかまえてやる。

    「私はそんな事言っていない!結界の維持など放棄しろ!それは君がもうやるべき事では無いと言っている!」
    「……俺、もう疲れたんだ、終わりにしたいんだ!」

    嘘だ、無理矢理作ったような笑顔で私を騙せると思っているのか。
    本当は誰よりも寂しがり屋で、こんな亜空間の果てで数千年単位の時を君がひとりぼっちで過ごせる筈がないのに。
    私が恋い焦がれ、愛し抜くと決めた吸血鬼ロナルドはそんな普通の女の子だ。

    「あの時の君は私を助けてくれたんだ!それでも君がまだ責任を感じているのなら、私もここに残るぞ!」
    「それは駄目だ、……この手が覚えているんだ……街を、生命を【無かった事】にしたのを」

    彼女は今も悔いている。
    幼き私の為だったとはいえ暴走し、罪もない人々に己の力を奮ってしまった事を。
    そして、また暴走してしまうかもしれないことを恐れているのだ。

    「何のために私がいると思っているんだ、力の制御などこれから考えればいい!」

    その為に彼女が望むならと、VRCに吸血鬼弱体化装置の研究に協力してきた。
    望めば君は本当に普通の女の子にだってなれる。

    「ううん、ここにいるよ、新横浜にいるならお前のこともわかるから……もう終わりにしたい……ったのむよ、どらるく」
    「ーーーーーーハアアアアアアアア?!だーれが終わらせてやるか!新横浜にいる限りだと?そんなに自分を捨てたいなら私が全部貰ってやる……ッ~~~良いからとっとと手を伸ばせ、このバカ娘!!」
    「バッ?!馬鹿って言った俺の事?!…………バッカだなぁ、ドラルク、それってプロポーズしてるみたいじゃん…」

    くっしゃくしゃに顔を歪めて涙を溢れさせるロナルド君の姿がどんどん遠ざかっていく。
    消えるな、私の手からすり抜けるんじゃない。

    「プロポーズでも何でもいい!お前を繋ぎ止める為なら何だってくれてやる!もう二度とお前と離れたくないんだ、わかれ!」
    「……本当に良いんだな?ドラルク……後悔しないか?」
    「するか馬鹿!こっちは二百年も初恋拗らせてんだ、今更お前から離れる訳あるか!良いから来いロナルド!!」
    「……やっと、名前呼んでくれたな」

    大粒の涙を溢しながらロナルドが私の腕の中へ飛び込んでくる。
    ……こんな事ならもっと早く呼んでやれば良かった。
    真名を口にする事が出来ない以上、ロナルドと言う通り名を進んで口にしなかった事を気づかれていたらしい。

    「ロナルドで良いならいくらでも呼んでやる、だから……もう逃げるんじゃない」
    「逃げないよ、小さなドラルク……大きくなったなあ……あの時はお前に恋するなんて思いもしなかったよ」
    「ーーーーーーっ良いから早くここを出るぞ!」
    「ヌー!」
    「ジョンも来てくれたのか!ありがとな~♡」

    ようやくここから始まるのか。
    私の長い長い彼女と再会を果たした新しい吸血鬼生が。





    「「ロナルド!!」」
    「ご、ごめんなさい!心配掛けてごめんなさい!もう二度としません!」

    お母様には泣かれながら、お父様には怒られながらロナルドは二人に向かって頭を下げた。

    「今後は思い詰めずにきちんと話し合ってくれ」
    「ミラさんの言う通りだ!うちの息子を貰うからには二人で幸せになって貰わないと困るぞ!!」
    「ひゃい……」
    「お父様、ロナルドも反省していますのでその辺で……その話は後日ゆっくり」
    「そ、そうか…二人ともよく帰ってきてくれた」

    二百年の眠りについていたとは言え、同世代の両親に恋仲になったと知られるのは恥ずかしいらしい。
    私としては幾らでも自慢してまわりたい気分だがそういうわけにもいかない。

    「ただいま」

    これでようやく、ハッピーエンドのスタートラインに立てたようだ。





    先日の一件から一週間経過した。


    あれからロナルドは結界の維持を継続し続ける事を破棄した。
    年に一年だけ、力の有り余っている吸血鬼達の有志を募り、VRCで開発に成功した結界の維持の要石を奉納祭にて悪意のある外的を防ぐ程度の結界を張り続ける事にした。

    落としどころとしてはこのあたりだと、吸対でも神社でも私の提案が通り、一人の吸血鬼の犠牲を求めることは出来なくなった。
    これでロナルドは新横浜に縛られることなく、どこへだって何だって出来る。

    「メビヤツ、そこコードあるから気を付けてな」
    「ビッ!」

    ロナルドはこれからも私の屋敷に住むことになり、正式に私の伴侶になることを許してくれた。
    まだ私の吸血鬼化完全では無いし、指輪も揃っていない状態だが、全部これからゆっくり始めていけばいい。

    「ヌー!」
    「ジョン、そこは埃が……うわっぷ!ジョン?ジョォオオオオン!」
    「うわっ何してんだドラルク、大丈夫か?」

    どうしても寝室を一緒にしたいと拝み倒して使っていなかった大きな一部屋を改装したり、ついでに掃除したりと毎日が慌ただしい。
    これからすぐに吸対の部下達が諸々のお祝いにやってるので、ロナルドも張り切って準備をしてくれている。

    「いたた…格好悪いな、すっ転んでしまった」
    「バーカ、俺のドラルクは世界一格好良いんだからな、なージョン?」
    「ヌ、ヌエップショォオオン!!」
    「「ジョォオオオオン!!?」」

    ああ、これからも我が吸血鬼生に幸あらんことを!



    END



    ラスボス系ヒロイン(?)吸血鬼にょたルド♀ちゃんと吸対ドラルクさんのお話でした!
    常夜神社の謎が明かされるまではお世話になりますよ、幾らあっても書くのが楽しいからね!
    おねショタって絶対に年齢越えられないんだけど、吸血鬼になってこういう展開も出来るのか!と思って書きました…
    眠りについた想い人を待ち続けたにょたドロのお話。拗らせまくった隊長は二百年の初恋を無事実らせました、色々準備しまくってお迎えしてたんだけど肝心のにょたルド♀ちゃんの記憶が……みたいなのが書けて楽しかったです、一つの世界線ということでゆるして


    追記
    アカじゃの棺桶から復活する展開にうおぉお!となったのでアップせずにいられませんでした。
    最後までお読みいただきありがとうございました!


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