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    ルシサンワンドロお題【びしょ濡れ】で書いたものです
    間違えて消しちゃったので再掲(^o^)
    これすごい気に入ってて……

    ##ルシサン

    ルシサンワンドロ【びしょ濡れ】 天司長の座を引き継ぎ空の世界を護ってくれていたサンダルフォンが、見違えるように立派になって私を空へ連れ戻してくれた日、私は天司長の力をもたない、ただ空を飛ぶための大きな六枚羽があるだけの星晶獣として復活し、特異点の艇の非戦闘員の一人になった。本来の性能ではないとはいえ、覇空戦争頃に造られた規格の星晶獣程度には戦えるはずなのだが、私のこととなると過保護になりがちなサンダルフォンの配慮によってそういった立場に落ち着いている。
     普段は同じく非戦闘員の子どもたちや依頼等のない団員たちと一緒に艇番をし、サンダルフォンの喫茶室を手伝い、洗濯当番などの持ち回りの仕事をして過ごす。私は死という概念の薄い星晶獣ではなくなった。空の民に混じり、限りある生を生きる人の子らと同じように一日一日を大切にするという心を学びながら、充実した日々を過ごしていると感じている。



     そんな日常にも随分慣れてきて、簡単な依頼に同行する機会も増え、今日はサンダルフォンたちと共に人探しの依頼を遂行していた。
     私と姿形を同じくする古参団員の存在からサンダルフォンや特異点はじめ団員たちには周知の事実であったが、私の容姿はとかく目立つので人探しに向いているそうだ。隣でサンダルフォンがなにやら怒っていて大変可愛らしい。いや、こういったときは『ぷんすこ』と言うのだったか。サンダルフォンの愛らしさにぴったりの響きだ。空の民の言語の進化は実に興味深い。
     役割もなく、魂の終着点で穏やかな時間を過ごし、空の民と平穏な日常を過ごして、私はすっかり緊張感のない日々に慣れきっていた。

     依頼の帰り道、艇が見えてきた所で突然魔物の群れに襲われた。
     群れの規模や構成から推測して恐らく何者かに使役されている。そういった判断までには至るものの、身体はどう動いたらいいかわからないとエラーを吐いた。サンダルフォンが私を庇うように立ち、六枚羽を広げて応戦する。私が背負っていたものとは違う色に輝く、皆に支えられたサンダルフォンの羽だ。それはあまりにも美しく、頼もしい背中だった。きっと彼なら大丈夫。それは私にとって初めての他者への信拠であり、正しく彼への信頼であった。
     しかし。言い訳をすることが許されるのならば、私は彼の戦う様を一度も見たことがなかったのだ。
     時には仲間を庇い、時には最も効率的に反撃をする為、彼は自分の身体そのものを盾のように使い戦った。周りの団員たちもそれを解っているようで、適所で回復剤を使ったり治癒魔法を使ってフォローする。私の頭の中では、仲間に窘められても頑なに戦い方を変えない頑固なサンダルフォンの姿が容易に思い浮かび、彼のその戦い方の根源に、その耐久力の高さと自己治癒力、抗命、そして攻撃を受けても一撃では絶対に力尽きないという彼の特殊な性能が起因していると理解する。──全て、私が彼の為にと与えた強固な加護だった。
     魔物の攻撃が彼の頬や腕を掠める度に息が止まる。魔物の爪が彼の足に食い込み血が噴き出すのを見てコアが身体から飛び出してしまうのではないかと錯覚する程に動揺し、私は咄嗟に彼に治癒の加護を与えるべく羽から力を集めようとした。そして失敗する。今の私には加護を与える程の力がない。光のエーテルを集めようと試みて、また失敗した。人の子のように治癒魔法は、と試すが私に人のような魔力はない。
     ささやかに光を集めるだけの自分の手を見て愕然とする。
     何もできないのだ。何も。
     戦う彼をまた見上げると、脇腹の怪我を手で庇い苦痛に顔を歪めていた。私自身が脇腹を刺された時のことがフラッシュバックする。あんな大きな怪我をして、どれだけ痛いだろう。苦しいだろう。まるで自分の事のように苦痛を感じた。いや、自分が苦痛を感じるくらいならいいのだ。だがサンダルフォンの苦痛は、私には、耐えられない。
     私が過保護にも与えた加護のせいで、彼が傷ついている。本当に何もできないのか。何か、何かしなくては。どうしたら。わからない。どうしたら。何か。何かないのか。
     以前なら当然のように出来たことが出来ない、ただそれだけで私は何をすればいいのか解らなくなっていた。混乱している間にも彼は傷つき、ついに膝をつく。"死"という一文字が頭を過ぎった。私は居ても立ってもいられず、周りの状況も確認せず彼に駆け寄った。
    「サンダルフォン」
     彼を呼ぶ声は震えていた。近寄るとなお彼の血塗れの身体がよく見えてしまい、視界が歪み外側から黒くなって意識が遠のく感覚がして、首を振って意識を引き戻す。
     私の呼び掛けに振り向いたサンダルフォンは私を見て驚いたように声をあげた。
    「ルシフェル様? どうしたんですか、まさか敵の攻撃が?」
    「違う。傷ついているのは君だ。どうしよう、サンダルフォン、私はどうしたら」
    「俺は大丈夫です、すぐ治りますから。それよりルシフェル様、顔が真っ青ですよ。どこか痛むんですか?」
     サンダルフォンの表情にはもう苦痛はない。彼が言う通りすぐに治ってしまうのだろう。私が彼に与えた加護だ、間違いない。そのはずだ。
     そう思ってもまったく安心など出来なかった。サンダルフォンが血の気の引いた私を見て心配そうに私の頬に手を添える。その手は先程切り裂かれた脇腹を押さえていた手で、血塗れで、傷があるのかないのかわからない。本当に治っているのか。痛みはもうないのか。どうしてもすぐに確かめたい。そうでなければ本当にコアが破裂してしまう。
    「おわっ!? ちょっ、ルシフェル様!?」
     私はサンダルフォンを抱き上げ、飛んだ。飛ぶことなら私にも出来る。力の限り羽ばたいてもう目の前だった騎空艇の自室へ直行する。サンダルフォンが腕の中でフケイだなんだと叫んでいた気がするがどうでもいい。何でもいいから彼の無事を確認したいのだ。

     廊下を歩いていては時間がかかると判断して窓を割って自室へ入り、ドアを蹴破ってバスルームへ。目を白黒させているサンダルフォンをタイル床に座らせ、シャワーのコックを回らなくなるまでひねるつもりが取れてしまい床に放った。彼にシャワーを浴びせながら鎧を取り払うが血はなかなか落ちず、石鹸を雑にこすりつけ服が破れている部分を重点的に全身くまなく洗っていく。肩から順に、靴を脱がしつま先まで洗って傷がほとんど治り消えていることを確認し、そこでようやっと私は安堵の息を漏らした。よかった。痛みはもうないだろうかと彼の顔を伺うと。
     サンダルフォンは、顔を真っ赤にして口を引き結び泣きそうな顔をしている。
    「……サンダルフォン?」
    「る、るしふぇるさま……」
     恥ずかしいです、と震えた声で言われ、ハッとした。サンダルフォンはタイル床の上に仰向けに寝転ばされ、私はそれに覆いかぶさるような体勢で、彼の足首を掴んでいる。私が足首を掴んでいるせいで足は高らかに上がり、サンダルフォンは泡だらけの身体をボロボロの服で必死に隠していた。
     もちろん、全身びしょ濡れだ。私も、サンダルフォンも。
    「……す、すまない。違うんだ。君の怪我が本当に治ったのか、心配で、本当にそれだけで」
    「わかってます……わかってますよ、ルシフェル様はそういうお方だ」
     わかっていると言いながらも、何故かサンダルフォンは泣き顔のまま拗ねてしまい、彼の機嫌を直す為に私はまた自分の無力さを思い知ることになるのだった。
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