『先輩/後輩』 王さま、と呼ばれることに慣れたのはいつ頃だっただろう。司は、なんとなくそんなことを考えながらテレビ局を後にする。腕時計で時刻を確認すると、もうそろそろ二十四時を回ろうとしていた。今日の仕事は先程の番組で最後である。この後は恋人の待つ自宅に戻るだけ、という事実を思えば、若干疲れを訴えていた足元も軽くなるというものだ。二十歳を超えてしばらく経ったとはいえ、司もアイドルの皮を脱いでしまえばただの男。恋人との逢瀬はいつだって嬉しいのだ。
「……最近はあんまり会えてなかったですし」
ぽつり、と呟く声は思った以上に子供じみていて、そのことに気づいて自分で笑ってしまう。あぁ、寂しいな。ここ最近はずっと仕事の時間が合わず、そんな時に限ってユニットの仕事もほぼなかったのだ。帰宅しても、寝ているか作業場にこもって作曲に専念しているかのどちらかで。疲れて寝ているところを起こすことは忍びないし、作業場にこもっている時は邪魔しないのが自分たちのルール。必然的にすれ違う生活に寂しさを覚えてしまうのも仕方ないことだろう。
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