久しぶりに会おうってなって、山奥のヴォックスの家に行くと、出迎えてくれたのはまさかの子どもで。向こうもびっくりしているらしく、口をぽかんと開けている。
多分だけど、ヴォックスが拾って育てているっていう子かな?噂程度しか知らないけど、妖怪界隈ではこの世の全てがどうでも良くなるくらい可愛い子、らしい。
ともかく、ヴォックスの居場所を聞けば出掛けたとのこと。
ああ〜ヴォックスが帰ってきたと思って出迎えたら知らないヒトだったってことね。
「僕はアイク。君の名前を教えてくれる?」しゃがんで目を合わせれば綺麗なパープルスピネルが僕を映す。
「シュウ、です。ここにいるってことはあなたはヴォックスのともだち?てき、ではないとおもう。でも、ヴォックスがかえってくるまでは、なかにいれれないの。ごめんね」
ん"ッ上目遣い+首こてんって!可愛すぎる。
「ねぇシュウ、ヴォックスが帰ってくるまで僕とお話してくれる?」
頷いたシュウと上がり框に並んで座り、先ずは僕のことを話す。猫又という妖怪で、普段は人間に化け本を書いてること。ヴォックスが僕の本のファンで、サイン会で意気投合し偶にここへ来て呑んでいること。
「ぼくは、にんげんで、なんさいかは、わかんないです。ヴォックスいがいのひと?は、はじめてです。アイクさんよろしくおねがいします」
———突然シュウの顔が視界いっぱいに映ったかと思えば、ふに、と柔いものが唇に当たる。一瞬の出来事に頭が追いつかない。…え?今、キス、したの…?なんで?
シュウは何も無かったかのようにまた僕の隣に座り直すから、僕のほうが可笑しいのかと思う…いやいやいや、おかしくないよ!
「シュウ、どうして今僕にキスしたの?」
「あいさつのときはちゅーするって、ヴォックスが——」衝撃の発言にクソデカ溜め息しかでない。そうなんだね。と言うのがやっとの頭では何も考えられず、後回しにする。ヴォックスが帰ってきたら問い詰めればいい話だしね。
それからはお互いに何が好きかやシュウの日中の過ごし方とかを聞いてお喋りを楽しみ、30分ほどすればヴォックスが帰って来た。
「やあ、ヴォックス」
「ああ、アイク。待たせてすまないな」
「ヴォックス、おかえり」
「ああ、シュウただいま」と言ってヴォックスはしゃがみ、両腕を前に伸ばすシュウの両脇に手を差し込み持ち上げる。次の瞬間、ちゅ、と音がして、また溜め息が出そうになるのを抑えた。
「ヴォックス?質問があるんだけど、いいよね」
別に許可を求めているわけでもないからそのまま問う。
「人間式の挨拶って頬にキス、だと思ってたんだけど、ここでは違ったみたいだね?」
「いや、アイク、聞いてくれ。シュウはこんなにも可愛いんだぞ?それにおはようおやすみ行ってらっしゃいお帰りなさいの全てにされることを考えてみろ。頬か口かなんて些事だと思わないか?寧ろ口にされたいだろう」
「欲望に忠実なのも君らしくて良いと思うよ。ただ、そんな君に悲しいお知らせを。シュウは君の教えを守って僕にもキスしてくれたんだ。唇を許すことの意味を知らない君じゃないでしょ?唇は君だけだと教えるか、いっそ印をつけないと。もしものことを考えるべきだと思うよ———
———こんなにも美味しそうな子見たことないんだから」