花怜×体育倉庫×初恋.
あ、と聞こえた小さな呟きが、仕事に集中していた謝憐の意識を現実へと引き戻した。
「どうしました?」
手にしていた赤ペンにキャップを戻しながら隣の席へ視線を向ける。謝憐よりも一足早くテストの採点を終え、早く上がれることに上機嫌で帰り支度を始めていた師青玄が、今度はへにょりと眉を下げて「どうしよう」と頭を抱えていた。
「当直だったの、すっかり忘れた……これから空港まで兄を迎えに行く約束してるのにぃ……」
今からタクシーに乗るよう連絡する?いやでも飛行機の中じゃ無理かぁ……と絶望に染まった声でスマートフォンを手に百面相を繰り広げている。生徒たちを相手にしても大人ぶるところを見せず、屈託なく接するところが人気の師青玄だ。謝憐もそんな同僚の付き合いやすさを好ましいと感じている。採点途中だったテスト用紙の残りを数えた謝憐は、仕方がないと聞こえよがしに溜息を零した。
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