酒宴 元々、酒には強いタチだ。
酒癖も悪くはなく、酔っても目元の赤みがほんの少し増すだけなのと、乱れるというよりは、普段のしかつめらしい表情から険が取れて柔らかくなる、というのもあって、鯉登はよく酒宴に呼ばれた。
これまでであれば、上官の命でもない限り、そんな席には顔を出さずに居たが、今はその「上官」が居ない。
いや、鯉登に声を掛けてくるのは、言ってみれば今や全員が「上官」で、鯉登はそれを断ることが出来ない。
面倒なことだと言いながら、呼ばれた酒宴に出掛けていく鯉登を、月島はただ黙って見送るだけだ。
月島にも、以前のように次の間や廊下に控えていることは許されていなかった。
今日も、鯉登は一番年若の尉官として、どこかの宴席に呼ばれている。
最近少し激務が続いたせいか、目の下の刷毛で掃いたような隈が気になったが、月島に出来るのは、これから酒の席だぞ?と苦笑する鯉登の口に、調達してきた握り飯を押し込むことくらいだ。
きっと、今晩もほとんど食い物を口にせず、酒だけ飲まされて放り出されるのだ。
何か、冷めても食べやすいものを見繕っておかなければ。
出かける鯉登の背中を見送りながら、月島は算段をはじめた。