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    tikatika2

    @tikatika2

    月鯉

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    明治。後始末時期。月島、きっと鯉登に対して優しくなるんだろうなあ、って妄想。

    傷跡 「死んでかたがつくんなら、楽なもんじゃ」
     そう呟きながら、鯉登は軍服の詰まった襟の隙間に指を差し入れる。
     査問の間中、立ちっぱなしだったし、水の一口も許されなかったのだ。喉が乾いたせいか、うまく息が出来ない気がする。
     額に落ちてくる髪も鬱陶しいし、さっきから頬の傷のひきつれがひどい気がする。痛くはないが、むず痒くてしかたがない。
     「詰め腹切ってすむような話なら、とっくにそうしとるわ」
     あの石頭どもめ。そう口の中だけで呟く。
     頬の掻痒感をどうにかしたくて、傷跡に爪をたてようとしたところで、黙って横を歩いていた月島に、がしり、と腕を掴まれた。
    「馬鹿なことを言ってないで、しゃんとなさい」
     下から厳しい目で見上げてくる部下に、少しだけ眉尻をさげて、だって、と言い募ろうとすると、そのまま引き寄せられて耳元で小さく、敵陣です、と囁かれた。そのたった六つの音の連なりだけで、鯉登は自分の頭の芯がきん、と冷えた気がした。
     「傷跡が痒いからって、子供みたいに駄々をこねんでください」
     あとで、薬塗ってあげますから。続けて、今度は周りにも聞こえるように、そう月島は続ける。
     「っ!子供扱いすな!」
     わざとらしく聞こえませんように、そう願いながら、鯉登は月島の腕を振り払い、さも部下の言葉に腹を立てた様子で、荒々しい足音を立てて、足早にその場を立ち去る。
     どこの角まで進めば、月島を待っても良いだろうか、そんなことを算段していたのは、月島にも知られないようにしなければ、と思いながら。

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