【紫紺】 キス 腰掛けたベッドの上から、下で寄り掛かるようにして座っている悟へ、テレビに流れる先輩のコントから視線を転じた。いつも見慣れている開いた襟ぐりから覗く項が艶めかしくて、こくんっと唾液を飲み込んだ。
くすりと笑った拍子に揺れた悟の体から、私と同じボディソープの香りが別の匂いのように鼻先をくすぐり、躰を刺激していった。
我慢はしていたのに、ふとしたきっかけで箍は簡単に外れてしまうものらしい。
滑らかな首筋に吸い寄せられるように身を屈め、唇を押し付けていた。
「すぐる」
驚きと戸惑いを含んで名を呼ばれ、我に返った。言い訳じみた返答は、動揺と自己嫌悪で上擦ったまま、取って付けたような言葉しか出てこなかった。
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