やらかした猫の行く先は そろそろ風呂に入ろうかとその準備をしているときに、その出来事は起きた。
「にゃ~!」
階段を駆け下りるような音と猫の鳴き声が聞こえた。その声の方を見ると、よく家に遊びに来る黒猫姿の猫妖精が駆け下りてくる。
この猫妖精は本当に神出鬼没で、どこからでも現れる。
「あれ?おちび、遊びに来たんだ?」
いつもなら声をかけるときちんと返事が返ってくるのだけど、今日は返事もないままに飛びついてくる。
そのまま足をよじ登ろうとするかのように爪を立て、必死に手を動かしている。
「ちょ!痛い!痛いって!」
あまりの痛みに抱き上げようと屈みこむと、少しでも距離が近くなった!とばかりに膝に飛び乗り、そのままシャツの中に潜ってきた。
「ちょおちび」
シャツに潜ってくること自体は初めてではないけれど、なんというかものすごく急いでいるかのようで、軽い痛みと重みとくすぐったさが混在している。
もぞもぞと体勢を整えると尻尾まできっちりとシャツの中に収めてしまう。まるで、何かから隠れるかのようだ。
「おちび?どうしたの?」
声をかけるも返事はなく、身動き一切しない。
とりあえず落ち着かせようとリビングに入った瞬間、空気が凍り付いたかのように冷え込んだ。
吐く息は白く、吸うだけで中まで凍りそうなほどに寒い。
そして感じるのは、じっとこちらを窺う気配。まるで何かを探しているように、探している何かを逃がさないかのようにあたりに漂う気配。
やがてそのナニカは諦めたのか、それとも別のどこかを探しに行ったのか気配が消えた。
それと同時に空気も元に戻るけど、心臓が早鐘を打ち、呼吸も荒くなった。これが冷や汗なのかというような変な汗までかいてしまっている。
「なんだったの……?」
その気配が消えて少しすると、シャツに潜っていた猫妖精がもぞもぞと動き始める。
「おちび?今度は何したの?」
「にゃー」
自分は関係ない。と言わんばかりの返事だったので、シャツの中から引っ張り出す。軽く抵抗されたけど、そこは心を鬼にして引っ張り出した。
「おちび?」
再び声をかけると、器用に首を横に振る。自分は何もしていない!と言っているかのようだ。
「なにかしでかしたんだよね?」
「にゃー!」
再び問いかけるも、先ほどより激し目に首を振るだけだった。
「……まぁいいや。お風呂で湯船に浸かりながらゆっくりお話ししようね?」
「にゃぁ~!」
「お風呂」の言葉に嫌そうに身をよじり逃げるが、逃がすつもりはない。今後のことも考えてきちんと話をしなければ。
いつもは大人しいお風呂を嫌がるということは、つまりそういうことなのだろう。
「さ、冷えちゃったからしっかりあったまろうね」
「にゃぁ~……」
嫌がる猫妖精の声が響くが、そこに差し伸べられる手はないのだった。