ブラッシング事情いろいろ祭夜さんちの場合
「なに?これ」
「ブラッシング用の……ブラシです……」
なつのさんの目の前で正座させられる僕。目の前にあるのは1本のブラシ。
とあるメーカーが出している人気シリーズの新商品。
「また買ったの?」
「だって、このメーカーが新しいの出してたから……」
「ねぇ、これで何本目だっけ」
「……」
そっと目をそらす。新商品が出るたびに買っているため反論のしようがないのだ。
「まぁ……。このメーカーのブラシは確かに気持ちいいけどさ」
ほんのちょっと照れくさそうにぼそりと言うなつのさん。
「え?じゃぁ……」
「でも、もう勝手に買っちゃだめだからね!」
ブラッシングさせてもらえて大満足の僕と、ブラッシング途中で寝落ちてしまったなつのさんの夜でした。
イツキさんちの場合
「めっくすくん?これ、なに……?」
若干引き気味なラテさんの目の前にあるのは数本のブラシ。
「なにって……ブラッシング用のブラシだよ?」
「なんでこんなにあるの1本でいいじゃん!」
「なにいってるの!ラッチーのふわふわな毛並みを維持するためにはこれだけでも足りないくらいだよ」
めっくすさんの勢いに押され気味なラテさん。
「え?いや、だってブラッシングでしょ?いつものブラシでいいんじゃ――」
「よくない!これは抜け毛を落とすようで、こっちは毛並みを整えるようでこれは毛艶をきれいに出すためのでこれは――――――」
「わかった!わかったよぉ!」
少し落ち着いたところで。
「ところで、なんでブラッシング用のブラシなの?」
「なんでって、最近マンネリ気味だったから―――――」
「おやすみ!」
本日も平和なイツキ家でした。
水面(すいめん)さんちの場合
「あの~?」
「なに?」
夫がどこか気まずそうな感じで嫁に声をかける。
そしてあっさりとそっけなく返す嫁。
「これはいったい……」
「なにって、ブラッシング用のブラシだけど?」
両者の間にあるのは1本のブラシ。間違いなくブラッシング用のブラシである(重要)。
ただし、どう見ても金属製で剣山を思わせるような鋭さのブラシ(剛毛用)である。
「あの……ぼく、何かしちゃいましたか?」
「心当たりはあるのかしら?」
にこりと表情筋は笑顔を作っても目は笑っていない器用なほほえみ。
「あ~……。もしかして、冷蔵庫のデザート、食べちゃダメなやつでした?」
「そうね~。明日のお茶請け用にって冷蔵庫で寝かせていたやつだわね~」
「そ、それはすみませんでした……」
この男、根はまじめで素直なのである。ただし……
「あ、でも……」
「」
「くちどけがよくてとても美味しかったですよ~」
まじめで素直だが、一言余計なのである。
「そういうこと言ってんじゃないわよ!この、天然人たらし!」
ほめてもらえたことはうれしいが、今はそこではないのだ。とどうにもやりきれない思いのままに夫人は丸めた新聞紙を脳天に叩きつけた。