ねえアンタ、あの子たち元気にやってるかねえ
あの子たち?誰の話してんだよ
あの子たちさ!うちをよく利用してた冒険者八人!グランゼールに来て一年ちょっとであっという間に腕を上げてった子たちだよ!
ああ、アイツらか…確かにあっという間だったな。見たことない種族のヤツもいたし変なヤツらだったから俺も覚えてるなあ。遠いとこの依頼受けただかなんだかで街を出てったのが一ヶ月くらい前だったか…?
確か西の帝国…その先まで行くって言ってたよ。どれだけの距離だか私にゃ分かんないけどちゃんと着けたかねえ。
ここを出た頃にゃグレートソードやフランベルジュまで腕を上げてんだ。着けてるさ。
そうだねえ。依頼が終わったらあの子たち帰ってくるのかねえ…。
さあな。冒険者なんだからあっちこっち行ってナンボだろ。
いやだってホラ、私は頼まれてることがあるからさ。
頼まれてること?
アンタも頼まれたとき居たろ!植物の世話だよ!鉢植えのまんまじゃ連れてけないってんで庭先に植え替えたアレ!
ああ、あったなそんなやりとりも…
ったく、たまには水やりでもしておくれよ。しかしあの子は不思議な子だったねえ…。
そうだな…見たことない種族だったし、正直、最初はうちを使わせて大丈夫か疑ったもんだ。あの目だもんな。
話してみればびっくりするくらい素直でいい子だったねえ…他の客の方がよっぽど厄介だったよ。
違いねぇな。偶に、夜に外出てたみたいだがな…明るいいい子だった。
ああ、話してるとまるで私に娘ができたみたいな気持ちになったよ。日差しみたいな子だったねえ。
─────
ねえお母さん、お姉ちゃん元気かなあ?
冒険者のお姉さんのこと?
うん。とおくに行くって言ってたお姉ちゃん。
そうねぇ。きっと元気よ。
とおく行くのにつかれちゃってないかな?
疲れても平気よ。お姉さんもつよいし、沢山の仲間もいるんだもの。どんな旅もきっと大丈夫よ。ちゃんと向こうに着けてるわ。
ねえ、また会える?
待ってれば、きっと。
いつ会える?
それはお母さんにも分からないわねえ。
えー
ねえ、それなら会えるときまでに、お姉さんの好きなものを用意してみるのはどうかしら?
好きなもの?
そう、お姉さんとよく遊んでもらっていたでしょう。好きなもの、知ってるんじゃない?ティアラ。
えーと、お茶とか、おかしもすき…リボンもきっとすき……あと、あとは……おはなの話してるときも、うれしそうだった!
どんなお花?
えっとね、えっとね、ミモザでしょ、スミレでしょ、あと…タンポポ…?
お姉さんは春の花が好きなのね
うん!お姉ちゃんもね、なんだか春みたいだなーっておもったからおぼえてる!ふわふわでポカポカ!
お母さんもよく覚えてるなあ。緑のマントと、茶色の癖毛が印象的な子だったわね。
ねえティアラ、お姉さんが帰ってくるまでに、お花を育ててみるのはどうかしら?
そだてるの?
そう、きっとお姉さん、帰ってくるときヘトヘトになってるわ。好きなお花で元気付けられたら素敵じゃない?
すてき!やる!あ、あとねあとね、おかしづくりもれんしゅうする!もし春に帰ってこれなかったら、おかしあげるの!
─────
蛮族から生まれたヒトでないひと。
魔眼を持ち、毒の血液を流すトカゲの子。
その眼差しは柔らかく、その顔は年相応の少女である。碧を纏って頬を染め、笑う彼女を春告鳥に例えたのは誰が初めだったか。
これは彼女自身も知らない呼び名。彼女が去った後に生まれた呼び名。それはまるで、冬に撒いた種が春、一斉に芽吹くように。
碧の春陽
森羅導師の少女は、そう呼ばれた。