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    genius_dream_

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    genius_dream_

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    ごめんめちゃくちゃ下手
    🕒くんとの出会いの話?飯食う話です。

    光へ目が覚めるとそこは知らない場所だった。
    あたりは真っ暗。焦って荒くなる息を落ち着けながらぐるぐると思考を巡らせる。
    「はぁっはぁっ」
    ゆらゆらと地面が揺れている。船の中か。腕を見ると清潔な包帯が巻かれており、ここはベッドの上だった。
    「はぁっ、ふ、はぁっ」
    ふとあたりを見回すとベッドの脇に少女がいた。驚いて思わず後ずさりをする。少女はすぅすぅと寝息をたてている。眠っているようだ。よく見るとこの少女には見覚えがある。甘酸っぱいあの果実を思わせる綺麗なオレンジ色の髪。腕にはログポーズ。確か、そう。航海士の。
    「は、ふ、はぁっ」
    だんだんと記憶がはっきりとしてきた。そうだ、私は麦わらの一味の船に乗ったんだった。麦わら帽子の彼に、助けてもらったんだ。
    「う、は、はぁっ」
    だめだ、息が苦しい。
    暗闇が体を包む。
    呼吸を落ち着けようとすればするほど苦しくなる。とにかくこの暗闇から逃れたくて、ベッドからおりる。眠っている彼女を起こさないように静かに、呼吸を抑えて外へと通じる扉に手をかける。
    「はぁっはぁっ」
    外は真っ暗だった。空が曇っていて月明かりが隠れてしまっている。海の上に街灯などあるはずなく、周りはただ闇だった。
    闇は、怖い。
    姿も、声も、全てを覆い隠してしまう。
    何も見えないから、自分は独りだって思い知らざるを得ない。
    独りは、嫌だ。
    怖い、苦しい。
    たすけて。

    ふと闇の中に光が見えた。階段を登った先に扉が見える。そこから光が漏れ出していた。
    「あ、」
    私は光を求めてよろよろと歩いた。足がもつれて何回も転びそうになりながら光を目指した。階段の最後の一段を登ろうとした時、段差に躓いて転んでしまった。息苦しさと痛みで思わず涙が零れる。
    「う、うぅ、はぁっ、う、」
    息が苦しい。だれか、たすけて。

    その時、目の前の光が大きくなった。
    顔を上げると扉は開かれていて、入口に人影が見えた。
    「あ……ご、ごめ、」
    「だ、大丈夫かい」
    目の前の人影はどうやら青年のようだ。光を受けた綺麗な金髪が見えた。青年はおろおろと慌てながら私に近づき、「ちょっとごめんよ」と言って私の背中を優しく撫でた。
    開いた扉から溢れる光と、彼の手の温もりを受け、呼吸は少しずつ落ち着いてきた。手足に血が流れるのを感じる。
    安心する。
    私の呼吸が落ち着くのを見て、彼はほっと胸を撫で下ろす。
    「よかった、落ち着いた?」
    彼が微笑みながらこちらを見つめる。彼の言葉にさっと血の気が引く。
    「あ、ご、ごめんなさい…わ、わたし……」
    やってしまった。私のせいでこの人の手を煩わせてしまった。迷惑をかけてしまった。私のせいで。
    怖くて彼の顔を見れない。また、暗闇に、

    「謝る必要なんかないさ」
    少し間が空いた後、彼は優しくそう言った。その声色は本当に優しくて、温かくて、私の恐怖や不安を一気に吹き飛ばしてくれた。
    なんて、安心する声だろう。まるで、お母様みたい。
    ぐぅぅぅぅ。
    その時、大きな音が闇の中に響いた。それが自分のお腹から発せられたものだと気づくのに時間はいらなかった。一瞬で温かさが消える。
    「あ、あ、も、申し訳ございませんっ」
    迷惑をかけてしまった上、こんなはしたない姿を見せてしまった。きっと不快に思われるに違いない。
    「ど、どうかご無礼を、」
    「大丈夫だよ」
    え、とゆっくり彼の方を見上げる。
    「大丈夫」
    彼は変わらず優しく微笑んでいた。でも何故か、その顔には少し悲しみの色も見えていたのを後になって思い出す。
    「今ちょうど朝食の仕込みをしていたんだ。買い出しは次の島でする予定だから有り合わせの物になるけど、何か食べるかい?」
    「そ、そんな、いけません…」
    「きみに、食べてほしいんだ。おれがきみに作りたい」
    私の声を遮るように彼が言う。
    「それに、きみの話を聞きたい。好きな食べ物とか嫌いな食べ物とか、なんでも。もう少しやらなきゃいけないことがあるんだけど、眠くなってきちゃって。おれの話し相手になってくれないかな?」
    彼が笑顔で私に手を差し出す。その優しい微笑みと口振りに、恐怖や不安は消えていく。私は戸惑いながらも、ゆっくりと手を持ち上げ、彼の手を取った。彼の光に包まれたいと思った。


    トントン。ジュージュー。カチャカチャ。心地よいリズムに合わせて食欲を唆られるいい匂いが漂う。
    彼が楽しそうに話しながらキッチンを踊る。
    私は彼の言葉に耳を傾け、相槌をうちながら出してくれた紅茶に口をつける。
    「む……」
    不思議な味だ。おいしいのは、おいしい。だが少し苦い。少し眉間に力が入ってしまう。
    「砂糖をいれるといいよ」
    そこに彼の声が飛んできて、咄嗟に「すみません」と身を縮める。
    「謝らなくてもいいよ」
    彼は眉を下げて困ったように微笑む。
    「そんなに怯えなくても、誰も怒らないし怖いこともしないよ。大丈夫」
    彼の優しい言葉に体に入っていた力が抜ける。
    「今砂糖持っていくね、気が回らなくてごめんよ。あと、ご飯もできたから持っていくね」
    彼がこちらに近づいてくると同時に料理の良い香りも共にやってくる。
    「はい、お待たせ。おれ特製海鮮チャーハンだ」
    目の前に置かれた皿からはホカホカと湯気がたっている。きらきらと光る米粒。色とりどりの具材がゴロゴロと入っている。スパイスの良い香りが鼻をかすめる。
    見たことのないそれに思わず目を輝かせる。
    「ちゃーはん……」
    「砂糖ここに置いておくね、好きな量を入れてくれ。水もここに置いておくね」
    彼が私のティーカップの横に白い瓶と水が入ったコップを置く。
    そちらを見ず、目の前の皿に釘漬けになっている私を見て彼は微笑む。
    「どうぞ、召し上がれ」
    「あ、」
    私はおろおろと彼を見つめる。もたもたとおぼつかない手でスプーンを握り、思い出したかのようにそのまま手を合わせる。
    「いただきます」
    「おう」
    ゆっくりと皿からチャーハンを掬い、口に運ぶ。
    電撃が走るようだった。
    口の中にほわっと湯気が広がり、はふっと息が漏れる。米を咀嚼すればぶわわっと旨味が溢れる。エビはぷりぷりとしており、ホタテはとてもジューシーだ。シャキシャキと食感が残っているレタスが旨味を包み込む。

    こんな、こんなおいしい食べ物がこの世に存在していたんだ。こんな、

    「おいしい」
    声が出ると同時に頬に液体が伝うのを感じた。視界が歪んで、瞳から次々と涙が零れる。だがそんなことはお構い無しに黙々とスプーンを口に運ぶ。
    その様子を彼は微笑みながら頬杖をついて見つめる。
    「そいつはよかった」

    あっという間に皿の上からチャーハンが消えた。しかししばらくは涙が止まらなかった。空いた皿の前で泣き続ける私の背中を、彼は隣に来て摩ってくれた。
    やっと涙が収まってきた頃、彼が新しい紅茶を出してくれた。今度は砂糖を入れて、ゆっくりと飲む。甘くておいしいそれは、私の心を落ち着けてくれた。
    「あ、あの、ありがとうございます…あ、あと、あの…みっともない姿を見せてしまい申し訳ございませんでした……」
    「そんないいんだよ。きみに喜んでもらえて、おれは幸せだ」
    その言葉に思わず目を逸らしてしまう。顔に血が集まるのを感じる。
    私の目が魚のようにゆらゆらと泳ぐのを見たからか、彼は私の瞳を見てこう言った。
    「きみの瞳は珍しい色をしているね」

    す、っと体が冷える。時が止まったかのように体が動かない。
    「す、す、すみませんっ…こ、こんな、醜い……っ」
    必死に手を動かし顔を覆う。私のこの血のように赤い瞳は、かつて魔女と言われ、恐れ罵られていた。これは呪われた瞳なのだ。醜いものなのだ。彼に見られたくない。怖がられたくない。
    嫌われたくない。
    怖くてギュッと目を瞑る。

    「そんなことないよ」
    変わらず優しい声が隣から聞こえる。
    「もう一度、よく見せてくれないかな」
    彼の声は本当に安心する。大丈夫、そんな気がしてくる。
    暖かい彼の手が私の力を緩める。ゆっくりと、手を下ろし、恐る恐る彼の方を見る。
    彼は何も言わず、じっと私の瞳を見つめる。
    「や、やっぱり…」
    「綺麗だ」
    「え、」
    彼の思いがけない言葉に目を見開く。
    「こんな美しい瞳を、おれは生まれて初めて見たよ」
    「あ、」
    「きみの瞳はまるでルビーのようだね。とても美しい……」
    彼は私の目をまっすぐ見つめて言葉を紡ぐ。顔が熱くなる。
    「醜いだなんてとんでもないとても綺麗だよ。瞳だけじゃない、その髪も肌も、雪のように白くて美しい」
    どうしてこうも甘い言葉が次々と出てくるのだろう。
    「おれはその綺麗な赤い瞳、好きだよ」
    ぶわわっと一気に顔が赤くなる。
    初めて、言われた。
    彼がにこりと微笑むと、私は途端に恥ずかしくなって俯いた。

    「サンジくんここにリウ来てない」
    そこへ眩しいオレンジ色が飛び込んできた。慌てて来たのか息を切らしている。彼女は私の姿を確認するとほっと安堵の息を漏らし、またすぐに眉を吊り上がらせた。
    「もう居なくなったと思ってびっくりしちゃったじゃない」
    「あ、す、すみません…」
    「まぁまぁナミさん、なんともなかったんだし」
    「本気で怒ってないわよ、心配したんだから」
    「あ、」
    ナミと呼ばれた彼女は私の元に駆け寄り抱きしめた。
    「まだ怪我も治ってないんだから勝手にどっか行かないでよね」
    「す、すみません…」
    「わかったならいいわよ」
    彼女の温もりが心地よい。怒られているのになんだか嬉しい。
    「サンジくんのとこでご飯食べてたのね」
    彼女が彼のであろう名を呼ぶ。
    「サンジくん……」
    彼女の言葉を復唱するように彼の名前を呟く。
    「あーそういえば自己紹介していなかったね。おれはサンジ。料理人だ。きみはリウちゃん、だよね?よろしくね」
    「うっそやだ今まで自己紹介してなかったのサンジくんね〜」
    彼女が有り得ないというように彼を見つめる。「あ、いや」と彼が詰め寄る彼女を宥めるように弁明している。
    「あ、あのよろしくお願いします…サンジくん」
    思わず出た言葉に手で口を塞ぐ。
    「あす、すみません…わた、私ったら、くん、などと無礼な……」
    必死に頭を下げる。
    「あら、別に変じゃないじゃない。ねぇ?」
    彼女がなんてことないように言う。
    「そうだよ〜ぅおれはサンジくんって呼んで欲しいな〜まァ無理にとは言わないけど」
    彼もクネクネと踊りながらそう言う。
    「あ、」
    私は恐る恐る顔を上げ、2人を交互に見る。ナミはクネクネしているサンジに呆れた顔をしている。その様子を見てなんだか安心して、頬が緩む。
    「サンジくん」
    その瞬間彼の動きがぴたと止まる。私の顔を見つめて目を見開いている。顔が少し赤いような気がした。
    それを見たナミがいいものを見たと言わんばかりににやりと笑う。
    「ふーん」
    「あ、えっと」
    「ま、いい雰囲気のとこ悪いけど、もう夜遅いからアンタはそろそろ寝るわよ私も眠いし」
    おろおろとする彼を横目に彼女は私の手を引く。
    「話ならまた明日したらいいわよ。だってアンタはもう私たちの仲間なんだから」
    「仲間、」
    馴染みのないその言葉に心が温まる。
    そっか、私はもう独りじゃないんだ。
    「じゃ、また明日ね、サンジくん。サンジも早く寝なさいよ」
    「あ、あぁ。ナミさんおやすみ」
    彼はいつの間にか調子を取り戻していて、先程の笑顔が戻る。
    「リウちゃん、また明日ね」
    「は、はい」
    また明日。またがある。明日もこうやって、賑やかな光に包まれるんだ。
    ナミに手を引かれキッチンを出て寝室に戻る。いつの間にか雲は晴れていて、月が出ていた。
    もう怖くない。目を閉じて闇に身を預けることができた。
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