【ニキマヨ】そして二人は幸せに暮らしました。 困難を乗り越えて愛するもののところへ辿り着く。
そして二人はいつまでも幸せに暮らしました。
それが物語の不文律。
茨と100年の眠りを乗り越えた眠り姫も。
長い髪で塔に登ったラプンツェルも。
狼に飲み込まれた赤ずきんだって、困難の後には必ず幸せな未来が待っている。
この茨でできた生垣の迷宮には、人喰いクマに毒蛇も人骨も人を襲うカブトムシだっている。
上手く中央まで辿り着くことができたなら、美しく死んだように横たわる愛する人が……。
「……すみませぇん!すみませぇん!!
なまじ毒の耐性があったばかりに、いただいた毒林檎では上手く仮死状態になれず!!
こうしておめおめと起きてしまい、空気を悪くしてしまいましたぁあ!!」
起きてしまったの?
「はい、そうですぅ!!」
愛する人を待ち永遠の眠りにつくはずの人は目を覚まし、人喰いクマは愛らしいぬいぐるみに代わってしまった。
毒蛇は鮭に食べられて、茨には棘の代わりに花が咲く。
これじゃお話が始まらなくて、終わらない。
困難がない二人には、幸せな未来が訪れない。
せめて、この迷宮で迷って貰わなくては。
「……うぅ……っ、すみませぇん……。
それも難しいかと……」
囚われのはずの長い髪の男は心底申し訳なさそうにそう言った。
「……最短距離に匂いのついたリボンを置いて置きましたし、きっと椎名さんは迷いません」
自信があるのかないのかわからない話し方をする人だ。
困り眉の角度をさらに急にして、懐から何かを取り出した。
「何よりもここにバニラアイスが」
どういうこと?
「私の好きなものを椎名さんが忘れるわけないですし。
何よりもこれが一番美味しいですから」
申し訳なさそうに瞼を閉じた。
次の瞬間。
生垣は無惨にも破られ、美味しい匂いと溌剌とした男の姿が現れた。
「マヨちゃん!
ニキくん特性の焼き立てアップルパイっすよ〜♪
あつあつの酸っぱい林檎のパイの上に、バニラアイス!
やっぱりこれっすね〜♪」
「椎名さん!
お待ちしていました」
彼に駆け寄ると頬にちゅっとキスをした。
彼らのために整えた迷路は無惨にも切り開かれ、迷うことなく一直線に進んだことを足跡が告げていた。
「これが一番早かったんで!
遠回りなんかしたらパイがあつあつじゃなくなっちゃうし、アイスも溶けちゃうっすよ!」
持ってきたピクニックセットを広げると切り分けたパイの上にアイスを載せていく。
なんとも危機感のない。
せっかく君たちのためを思った迷路だったのに。
それじゃ幸せな結末が約束できなくなっちゃうよ。
「……大丈夫ですよぉ。
ずっと幸せを願ってましたから、最後までしがみついてみせます」
彼らはそういうとパクリとパイを口に含んだ。
「美味しい〜♪
やっぱこれっすね!
美味しいものとマヨちゃんがいれば僕はずっと幸せっすよ♪」
いい笑顔でそう言う男を見て、囚われていたはずの男はこちらを見て言った。
「いいましたよね」
そして、見たことのないほど幸せそうに笑った。
「椎名さんは、迷わないです♪」
彼らは勝手にお話を終わらせて、勝手にお話を初めて行った。
そして、迷わず自分たちの歩きたい方へ歩いて行ったのだった。
なんて、張り合いのない!!
彼らが二度とこの迷路に迷い込まないことを祈るばかりだ。
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「メルヘンチックな世界観。御伽噺のような雰囲気にしたいな。ニキくんが持ってるのはアップルパイだ〜!となると、中央のマヨイが食べたのも林檎がいいな。
童話モチーフを散りばめよう!
散りばめられた小物たちも使いたいし、最短距離でくるニキくんらしさも出してみたいな!そして、物語といえば語り部がいる。
その語り部も手を焼くくらいマイペースな二人!」
上のような流れでお話を構築しました!
童話なら突然アイスクリームを取り出しても許される☺️
人を襲うカブトムシは人を襲うカブトムシのままです。