パラクラ自陣「天然記念物男」げんみ✖️ 自陣⚪︎
深夜22時過ぎ。
ピークのすぎたダイナーは人影もまばらで、ウエイトレスとして働く自分としては良く言えば楽な時間帯、悪くいえば時間の過ぎるのが長く感じる時間。
いうなら消化試合の時間帯だ。
普段ならカウンターに頬杖をついて、ただ時がすぎるのを待つか同僚とお喋りに花を咲かすのだが、最近は一つ楽しみがある。
「……また来た」
見慣れない顔の男二人だった。
どちらも美丈夫で片方は金髪を後ろに撫でつけるような髪型、もう一人は赤茶けた少し長めの髪を無造作に流している。
年齢に差がある二人の雰囲気は合わず友人には思えない。
かといって漂う気安い空気が、確かな絆を思わせた。
いつもピークを外した時間に来る二人は疲れた顔をしてることも多く、激務に従事する仕事仲間なのだろうと結論づけている。
「ね〜、あのイケてる二人、どんな関係だと思う?今日こそ声かけなよ」
同僚のキャロルが気安くそう話しかけた。
「かけてどうするの?この街の人じゃないわよ、あの二人。
仕事でこっちに来てるんじゃない?」
「それならそれで後腐れなくていいじゃない」
さっぱりとそういうキャロルを横目に私はため息を吐いた。
そんな提案できるものならしてみなさいよ、と思った瞬間、背中を押される。
「じゃ、頼んだ〜。
私、どっちでもありだから」
注文をとりつつ、番号を渡せということだ。
私はキャロルを睨みつけると、とりあえず注文を取りに向かった。
「……ここのクラブハウスサンドウィッチも食べ納めかと思うと、寂しくなるね」
「そうねぇ、でも久しぶりにマイスウィートの顔とドーナツを食べれると思うと、私は胸がいっぱいだわ」
(……残念。この人たちもうすぐここをたつみたい。
それに片方は完全に脈なしだわ)
キャロルに内心舌を出すと、いつものように注文をとった。
「ご注文をどうぞ」
「あれ?またキミだ。昨日も注文とってくれたよね?ポテト増量のサービス気づいたよ。
ありがとうって伝えておきたくて」
人好きのする笑みを向けられて、私は思わず息を呑んだ。
(……覚えてたんだ。
それに……えっ、気づいてくれてたの)
気恥ずかしさで頬が赤くなるのを感じながらも、視線をはずしてこたえた。
「平日は基本この時間だから……。
注文、クラブハウスサンドウィッチとビーフバーガーチーズ入りピクルス増しですよね」
「そうそう!
……アリ〜!おれたち覚えられてるみたい!!」
「気が効くわね。
今日はついでにバニラシェイクもつけちゃう」
バチンとウィンクする様子をキャロルは見ていただろうか。
まあ、私は元々気になってたのは……、だから別にいいんだけど。
「ご注文は以上で?」
「あっ、最後の夜だし、キミのおすすめも聞きたいな」
「……私?」
思わず聞き返して瞬きをする。
その間、じっと赤茶の男は私の目を見て、にこにこと続きを待っている。
いや、無理だろ。
自分の顔面偏差値、理解してるのか?
きっとこの顔でこの人の良さだ、私なんか比べるまでもないような素敵な彼女が地元にいて……そうじゃなくても私なんて歯牙にかかるわけがない。
「……このキャロットケーキは毎日手作りで、美味しいと思いますけど……」
「じゃあ、それ追加で!
ついでにコーヒーも」
「……ねぇ、どうだった〜?」
「無理無理。今日、この街を出るって。
下心なさすぎて、誘う隙すらなかったわよ」
「は〜、了解。
じゃ、配膳まで任せるわ。奥行ってていい?」
「ねぇ、ちょっと……っ!!」
ひらひらと手を振りながらバックヤードへさがるキャロルに舌打ちをしつつ、出来上がった皿を手に取った。
まあ仕事だし。
目の保養だし。
どちらにしても、自分が運ぶ気ではいた。
「……おまたせ、し……」
二人のボックス席に近づいた時だった。
「……ちょっ!?アリ!?それ本気で!?」
珍しく裏返るような声を出して立ちあがろうとした男を視線で追ってしまった。
顔が真っ赤だ。
(……は?かわいい、が?)
「本気よ〜というか、ウルフィ、こんなの恋バナにもならないでしょ?
ねぇあなたの話聞かせなさいよ。
話せるような恋の一つや二つあるでしょ〜?」
「いや、ないないない!!」
(ガチで照れてるやつやん?
は?この顔面で、恋バナにガチ照れってどうなってんの?!)
「嘘嘘、隠してるだけでしょ、ウルフィ。
水臭いわよ〜」
「そういうの俺なんか縁がなくて!!
本当にないんだって!!」
(……光の男すぎて、高嶺の花すぎて逆に声かけられなかったやつだ、これ。
は?そんな絶滅危惧種このへんに転がってて許されるわけ?
無理でしょ?いや、私が今無理なんだが)
「あっ!ウエイトレスさんじゃない!?
お料理ありがとう〜♡
ねぇねぇ、あなたも気になるよねぇ?ウルフィの恋バナ♡」
(は?……そんなの……)
「私、こっから非番なんで。
詳しく聞きたいですね」
もういいや。
キャロルに借りはたくさんあるし。
狩るしかないわよ、この絶滅危惧種。
かくして、私はエプロンを外すと、胸元のボタンを一つあけ、赤面して慌てる男の隣を陣取ったのだった。