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    D4 時空院丞武の究極の糖分摂取。

    BS頭がぼんやりして、思考が、定まらない。
    眼鏡をかけているにも関わらず霞む視界、いつもは無縁のはずの眠気。
    懐をまさぐるがいつもの感触がない。床には粉々の瓶と溢れた乳白色。
    「……。」

    とある研究施設。裏で中王区とつながっているとの噂があり、情報収集のためにもぐりこんだ。
    表向きは製薬会社と名乗ってはいるが、噂通りその内部には製薬に無関係そうな文献が散らばり、マイク、音響機材が保管されている。ヒプノシスマイクのアビリティや精神干渉による影響などを研究しているようだった。明らかに愛玩用ではない動物のケージ、奥まった部屋には何やら独房のようなスペースも設けられている。用途を察するのは容易だ。

    4人一緒に行動すると目立つ。2人ペアに分かれることにし、実働部隊を阿久根、時空院、明らかに探し物に向いていない谷ケ崎、有馬を敵殲滅部隊として行動を開始した。殲滅隊の反りの合わなさを懸念していたが、阿久根の立てたプランに沿ってここでの情報収集は問題なく終了するところだった。
    ……のだが。

    資料を漁っていると白い紙が赤く染まる。警報音が鳴り響き阿久根と顔を合わせる。ここにきて施設職員が異常に気付いたのか、殲滅隊の方で敵を取りこぼし警報装置を押させてしまったか。原因はどうあれピンチなことに変わりはない。即座に逃走を試みるもあれよあれよという間に敵に囲まれてしまう。


    敵が倒れたら次の敵が現れ、休むことなく行われる戦闘。混乱の中阿久根ともはぐれた。潜入前には真っ暗闇だったが、戦闘に戦闘を重ね体の異変を感じた時には室内が薄明るく、太陽の気配を感じる。
    すでに敵は倒れており、その中で1人佇む。顔から感情は抜け落ち、その瞳は木の洞を連想させた。

    この感覚は軍に所属していたころを思い出す。訓練兵時代の上官の怒号、喉の渇き、不味いレーション。糖分どころか水分も枯渇し、極限の飢餓状態。
    生命を繋ぐため、状況打破のために時空院の闘争心、そして糖分への欲望を駆り立てた。もっと、もっと……!

    屍を踏み越え薬品棚に近づく。製薬会社の体裁を保つためかハリボテのように陳列された薬品や医療器具は本物のようだ。目を凝らし、震える手はブドウ糖液のボトルを掴む。朦朧としながらもどこか手慣れた様子で準備を進める様は薬物中毒者のそれに似ていた。
    手近なゴムバンドで腕を縛り、隆起した血管に針を刺す。透明な糖分が一瞬赤く染まったことを確認すると腕の締め付けを緩め、ゆっくり、体内に注いでいく。
    その甘みをひりつく血管が感じている。

    直後、心臓の拍動とともに糖分が全身にめぐる感覚。気分が高揚し体も浮き上がるように軽くなっていく。滾る、滾る、タギル。

    精巧に作られた人形のような無表情から次第に口角が吊り上がっていき、目は見開かれる。感覚は鋭敏になり、微細な物音、大気の流れを感じる。
    目の前を見つめたまま、逆手で握りこんだナイフを後方に大きく薙ぐ。
    背後で睡蓮が咲いた。振り返れば、ここの研究員であろう男がその白衣を赤く染めていた。追手の残党か。即死だ。
    「ふふ……ふふふ、あはははっはははははは!」
    沼地から湧き上がるような笑い声。猟奇的な言動に、本来の儚げな顔の印象は完全になりを潜めた。

    糖分切れだなんて、自分としたことが。久々にあの手段を使った。
    「即効性はピカイチですが、やはり甘味は舌で感じてこそですね。」

    調子も戻ったところで、早く阿久根たちと合流しなくては。そして糖分の調達も。
    しかしここは。
    確認できるだけの動物たちをケージから解放する。
    「危ないのでできるだけ遠くに逃げるんですよ。……さて。」
    証拠は少ない方がいい。先ほど使用した器具に消毒液をかけ、有馬からくすねていたライターで着火、あるだけの資料をくべる。ある程度炎の大きくなったところで退却だ。

    「時空院さん!」
    「おいテメェ連絡してんだろ出ろや!」
    阿久根たちとは比較的すぐに合流できた。というよりも3人はすでに合流しており時空院を探していたようだ。
    有馬に言われて端末の存在を思い出すがどうやらどこかで落としたらしい。今ごろ溢れた糖分とともに炎の中か。
    「どこかで落としてしまったようです。それより早く逃げましょう。」
    「なんか煙たいな。火事か。」
    「火事って、何したんですか貴方!」
    「少々放火を。」
    「薄々わかってましたよ!なんで!」
    「阿久根君も糖分が足りていないようですねぇ。」
    「言い合ってる場合かよ逃げんぞ!」
    もう作戦はあってないようなもの。情報は手に入ったし無問題だろう。時空院の奇行に苛立ちを隠せていない阿久根をせっつきながら道を急ぐ。

    外のわずかな光を受け真白に照らされる廊下を、闇から取り残された黒が駆け抜けた。
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