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    yuewokun

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    yuewokun

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    目が覚めると、からだが分裂してしまっていた!どうするひろくゆ!!
    書きたいとこまでいけてないけどもう途中までであげちゃうぞい

    目が覚めると、からだが分裂してしまっていた!景光が景と光に分裂しちゃった!
    オレ、光??????????なひろくゆ(26)


    「父と母が死んでいる。なにがあったか話せるか」
     まだ幼い顔の兄がそう言った。
     当時は気付かなかったが、わずかに汗をかいていて呼吸も少し浅い。いつだって冷静沈着で頼れる偉大な兄もこのときばかりは恐怖と焦燥感に追われていたに違いない。オレたちを抱きしめる腕は震えていた。


     オレの今回の記憶は、兄の愕然とした表情からはじまる。実を言えばこれは見たことのある光景だった。けれどオレの記憶とは決定的に違う部分がある。それが、オレの隣にはオレがいたことだ。
     諸伏景光として生きていたはずのオレは、いまその名を諸伏光(ひかる)と変え、そして隣には全く同じ顔の諸伏景(ひろ)を伴っていた。オレは分裂してしまったらしい。というと少し語弊があるかもしれないが、オレは諸伏景光ではなく、諸伏景と諸伏光の一卵性双生児としていまここに存在していることになっている。しかも景は、オレのように景光として生きていた記憶がないようで、正真正銘数年しか生きて居ない子供のオレだった。
     さすがに夢だろうと思っていたが、すでに光として生きて一週間が経過した。夢にしてはとても長い。両親の葬式も済んでしまった。葬式の前も後も、大人たちはオレたちの処遇を話し合っている。いまだって襖の向こうでそれは行われていた。大人たちも決して意地悪や面倒ごとの押し付け合いを意図して話し合っているわけではないことを知っているが、オレはこの話し合いの末、どうなるかをある程度知っている。兄とは離れ離れになる。それはそうだ。中学生男子と小学生男子。突如家に迎え入れるには負担が大きい。当時も幼いながらに納得したはずだった。しかし、オレともうひとりのオレのこの二人がどうなるのかはわからない。だってオレの知っている記憶ではオレはオレだけだったから。
    「ひろ、」
     呼びかければ、鏡で見慣れていたはずの幼い顔がこちらを向く。吊り上がった目尻が赤い。用意しておいた濡れタオルを渡せば、おとなしく受け取ってそこを隠した。

    「ひろ、ひかる。おじさんたちはまだお話が終わらないようだから先に寝よう」
     そういって兄がオレたちの手をとって布団へと導く。兄を真ん中にして三人で布団へともぐりこむ。景がぎゅうと兄にしがみつくのが見えた。昔のオレと同様に景は声がでない。だから不安も恐怖も口にすることができない。ため込むしかないそれを兄にくっつくことでごまかしているのだ。オレは、それがはたからどう見えるのかいまやっと理解した。オレが親戚の大人たちであれば、こんなこどもは正直にいえば扱いにこまる。両親が殺され、言葉も話せずずっと不安な顔で兄にべったり。腫れ物どころかできすぎる傷だ。しかも本人の心のよりどころであろう兄と一緒に引き取るにはかなりの負担がかかる。それは話し合いも長くなるわけだと、なぜか部外者のような気持ちでオレは妙に納得していた。


     そして、話し合いは納骨から一週間後にようやく決着した。簡潔にいうとオレたち三人はバラバラになってしまった。
     兄はこのまま長野に残り、祖父母の家で暮らすことになった。オレと景は東京へ行くことになったが、同じ東京でも引き取られる家は別々だ。オレの片割れは声もあげずぽろぽろと泣いている。
    「二人は同じ東京だから、電車に乗ればすぐ会えるはずだ」
    「……でも兄さんは遠い…………ってヒロが言ってる」
    「すぐに会いに行くのは難しいが、長野と東京だって特急で一本だ。会える時にちゃんと会いに行くよ」
     そうして夢が覚めぬまま、オレたちはそれぞれの家に引き取られて生きていくことになったのだ。


     引き取られた先の家はオレの知っている家ではなかった。オレの知っている家には片割れの景が引き取られている。だから転校先で親友と出会うのも景だし、きっとオレの記憶にある体験をするのは景だ。つまり諸伏景光の人生を諸伏景が歩んでいて、諸伏光のオレは全く別の人生を歩み始めている。そもそもとして最初の数日は夢だと思っていたが、一向に覚めるこの気配のない夢が始まる前の記憶があいまいだ。オレは一体何をしていたのだろう。
     覚えているのは警察学校卒業して間もなく同期が一人殉職したこと、公安に配属になったこと。そして配属先で、任務のためとはいえほの暗いことに手を染めたこと。
     それで、その中で何か特別なことが起きたのだろうか。例えば潜入先の組織内で人体実験のモルモットにでもされたか。それともなにかでしんだのか。それともこれは本当にただの長すぎる夢なのか。

    「同じ夢を見続けるってやっぱやばいよな」
    「夢ばっか見てんのは眠りが浅ェんだろ」
    「なになに諸伏ちゃん、寝不足?」
    「…………」
     オレのこの新たな人生でできた奇妙な縁がこの二人だった。諸伏景光として歩んだ人生の中ではもっとあとに出会うはずだった友人に中学校でエンカウントしたのだ。二人ともオレの記憶ではオレより早く死んでしまったし、こんなところで会えると思っていなかったので出会ったときはうれしくて涙が出てしまった。出会い頭に涙を流す男に最初は戸惑っていた二人も気付けば面白がって引っ付いてくるようになった。それはいいのだが、記憶よりも幼い彼らはオレには少々まぶしすぎるので一緒にいると少しだけ疲れてしまう。
    「もしかしてえ、恋のお悩みぃ?」
    「ち、ちがうよ」
    「欲求不満!」
    「ちがうってば!」
    「んもー諸伏ちゃんてばつれねえんだから」
    「旦那ぁ、ちとカルシウムが足りてねえんじゃねえ?」
    「松田には言われたくない!」
    「ほーら怒りっぽい。この牛乳やるよ、陣平ちゃんのだけど」
     ちいさな紙パックをほい、と机に置かれる。怒鳴ると思った松田はおとなしくそのパックとオレを見比べて鼻を鳴らした。
    「ま、俺は大人だからな。そいつはカルシウム不足の旦那にやるよ」
    「ええ……」
    「代わりに萩は俺にモンエナよこしな」
    「全然大人じゃねえよ陣平ちゃん。牛乳の倍の値段じゃねえか」
     萩原はそう言いながらも机の中から取り出した細長い黒い缶を松田へと差し出していた。なぜそこに用意されていたのかは聞かないことにする。
     松田も萩原も、なぜかオレに構ってこようとする。休み時間に話しかけてくるし昼休みもずっと一緒にいる。授業で班を作るときもすぐさま声をかけてくる。長期休暇には遊びにいこうと誘ってくる。まるで昔に零といたときのように学生生活を彼らと過ごしている。ただし零よりも二人は少々やんちゃだし、あれやこれやと問題をおこすので記憶にある学生生活よりもやや騒がしい日常だと思う。こんな生活もまあ悪くないかなとは、少しは思うがふとしたときに少しだけ後ろめたくなるのだ。

     オレはこんなまぶしいところのいていいのかと。

     大義のため、と言い聞かせていたがそれでも組織に潜入してオレがやっていたことは口に出すのもはばかられるようなものが多い。ずぶずぶと深く暗い沼に沈みこまれていくように、オレはそこでの仕事をこなせばこなすほど自身がめざしていた輝かしい警察官像からかけ離れていくのを実感していた。それがいまになってこんな、何の変哲もない穏やかな学生生活を送るなんて嬉しいよりも、戸惑いの方が大きい。むしろ怖いのだ。そんなアンダーグラウンドの人間がなにをのうのうとここにいるのだと指をさされる時が来るのではないかと。いや、最悪だれかをこの手にかけるようなことがおきてしまうのではないかとさえ思えて仕方がない。
     まぶしい世界にいることに恐怖を覚えるようになった。目の前のかつての親友たちに、オレの中を暴かれてしまったら。彼らに嫌われてしまったら。軽蔑されてしまったら。そう思ったら足元にぽっかりと穴があいてしまったように心もとなくなって、立っていられなくなる。生きて居られなくなる。
     夢だと思っていたはずなのに、まったく目の覚めないこの日常はオレにとって美しくて同時に何かの拍子にすぐに崩れてしまいそうなほど脆い。ピンと張った糸の上を歩いているような危うさがある。

     壊されて崩されて傷つけられるくらいなら、はやく覚めてほしいと思う。それか最初から最後までひとりでいさせてほしい。

    「もう、放っておいてくれよ」
     オレの言葉が二人に届いたのかは知らない。



    「え? 兄さんが?」
     明日の授業で使うノートを通学カバンに入れながら、肩と耳で挟んでいた携帯から馴染みの声を拾う。金曜の放課後にお茶をしようと兄から連絡があったらしい。
    「うん。それでね、ゼロも紹介したいんだけどどう思う?」
     電話越しの声は露骨にそわそわとしている。昔のオレはこんなにも純粋で、かわいらしかったんだなとなんとなくはずかしくなった。
     東京の大学に進学した兄とは定期的に食事をしたりお茶をしたりと顔を合わせているが、今度そこに親友を連れて紹介したいと片割れが言う。もちろん過去の自分の行動にも同じことをした記憶があるので心境はよくわかる。自慢の兄に自慢の親友を紹介したくてしょうがないのだ。だって好きと好きが仲良くしてくれたらこんなにうれしいことはない。それはそうだとオレはひとりしきりに頷いて「いいと思うよ」と言葉を返した。
    「ひ、光は兄さんに紹介したい友達いないの?」
    「……いないよ。オレは兄さんと景がいればそれでいい」
    「そっ、か」
     あからさまに残念そうな声で言う。昔の自分はこんなにもわかりやすい人間だったんだなと、片割れと話すたびに思い知らされる。
     そういえば、昔同期の男に「ぽわぽわしてる」と評されたことがあった。当時はわけがわからなかったがいま思えばなんて表現だとはずかしさと怒りと笑いが同時にこみあげてくる。成人男性に向ける表現ではないし、かわいらしすぎるし、でもちょっとだけ正しい気がする。そう思うと悔しさも出てくる。今度文句を言っておこう。それを言った本人ではないけど同じ人間がちょうど学校にいるので。
     閑話休題。

    「じゃあ光、金曜の放課後ね」
    「うん」
    「……光」
    「なあに」
    「オレたちは、ふたりでひとりなんだよね?」
     その言葉は、前にオレが片割れへ言った言葉だった。
     それぞれの親戚の家へい引き取られる時に涙を止められない彼を抱きしめてそう言った。もともとオレは諸伏景光。だけれども、いまオレは光だし、片割れに景がいる。だからオレたちは二人で景光なのだから、二人でひとつ。そこまでは言わなかったけれど、俺たちはふたりでひとつなのだから、離れていても一緒だとそう伝えたのを覚えている。泣き止ませるための方便などではなくその言葉自体はオレの本心だった。
    「ああ、そうだよ。オレたちはふたりでひとりだよ」
    「じゃあ光の悩みもオレの悩みでしょう?」
    「……」
    「光はいつもなにか悩んでるだろ。教えてはくれないの?」
    「……景が大人になったら教えてあげるよ」
    「えー! なにそれ、光だってオレと同い年なんだからまだ大人じゃないのに!」
     むうと頬を膨らませている顔が容易に想像できてふふっと思わず笑みがこぼれてしまう。
    「大人っていうのは年齢だけじゃないだろ。景は初恋もまだだもんね」
    「え、ええー! なん、ええっ!?」
    「じゃあお休み、ひろちゃん」
    「わー! ひかる、待っ」
     慌てた声を無理矢理ぶった切って携帯電話を離した。
     オレたちはふたりでひとり。その言葉に嘘はなく、本心からでた言葉ではあるが、オレの抱えている悩みはオレだけのものであり景に共有するものでもない。最近気づいたのだ。景にはオレのまぶしかった人生だけを歩んでほしい。そのためには後ろ暗いところはオレが全部引き受ければいいのだ。そうすれば景はオレがなりたかった景光になれる。まぶしくて正しくてやさしい人生を歩めるのだ。

    「紹介するよ。親友の降谷零くん」
     自分とよく似た彼がにっこりと笑って隣に立つ友人を紹介する。紹介された方はぎこちなく会釈した。
     一目見てわかるほど緊張している。そんな顔をしていたんだなと初めて気付た。当時は背を向けていたからわからなかった。
     自慢の兄に自慢の親友を紹介できた片割れはそれはそれは上機嫌だ。わかる。とてつもなくうれしいのだ。好きと好きが一緒の空間にしてくれるこの瞬間がたまらなく幸せなのだ。紹介された方は普段の様子とは打って変わって緊張してぎこちないし、紹介を受けた兄も品定めをするようにじっと見つめている。一番蚊帳の外の立ち位置にいて初めて理解したが、兄と親友のあいだには奇妙な緊張の糸がこれでもかと強く張られている。ここは少し助け船を出してあげてもいいのかもしれない。いつかの親友へひらりと手を振った。
    「……オレは前に会ったな、降谷くん。久しぶり」
    「あ、ああ……久しぶり。ヒロと同じ顔でそんな風に言われると不思議な感じがするな」
    「じゃあオレもゼロって呼んだ方がいい?」
    「そ、れは……」
     気まずそうに視線を外すその顔がなんだかおもしろくてこれまた笑みがこぼれてしまう。そう、いま目の前にいる彼の親友は景だ。オレではない。
    「うそだよ。君の親友は景だからな」
     そう言うと、彼はあからさまにほっとした顔をした。
    「しかしその、兄弟水入らずのところに僕が参加して本当によかったのか……?」
    「構わないよ。弟がいつもお世話になっているのだからむしろ会えてうれしいよ」
    「え、いやえっとその、むしろいつも僕の方がお世話になりっぱなしで……」
     先輩に喧嘩を売られたときだって、同級生に難癖をつけられたときだって、いつだって堂々としていた彼がしどろもどろに受け答えする様子が面白くて当時も笑ってしまった記憶がある。片割れも想像通りニッコニコだ。
    「光も、今度お世話になってる友人を連れてきなさい」
    「いないよそんなの」
    「まったくお前は……」
     あきれたように息を吐く兄には悪いが、わざわざ兄に紹介する人はいない。脳内を駆け抜けていった同級生二人のことはすぐさま忘れたふりをした。

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