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    伊瀬の箱

    @nobu__ni

    主にトリババ、アベンジャーズ系。

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    伊瀬の箱

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    5月24日は伊瀬の誕生日でした〜🥳
    という事で、さんかくさん宅の絵戸先生とうちよそSSを書かせていただきました。

    人魚と画家と誕生日の話6月某日。絶都市のとある若者向け喫茶店にて。
    駐車場に一台の赤い軽自動車が止まり運転席側のドアが開く。

    白と青緑のグラデーションが目立つウェーブヘアの男、逢魔学園の非常勤講師 安達は反対側のドアに目を向ける。
    視線の先では承和色を秘めた瞳のロマンスグレー…同校で美術を教える常勤講師 絵戸先生が助手席から降りてくるところだった。
    「運転ありがとう、お疲れ様」
    ふわりと微笑み労いの言葉をかけるこの紳士と
    「俺が誘ったんスから運転くらいいくらでも任せてください」
    こちらもニッと満面の笑みとサムズアップで応える若い男。
    傍から見れば親子ほど歳の離れたこのふたりには共通点など見つからないだろう。
    どういう関係かと問われれば友人と答えられる程度には進展したと安達は勝手に思っている。現にこうして休日を共に過ごしているのだから、あながち思い上がりでもない…かもしれない。



    安達の注文したパンケーキと別にバニラアイスが机に置かれる。
    「…?何コレ、先生 注文しました?」
    首を傾げる安達、私のじゃないよと答える絵戸先生。
    アイスには小さくチョコプレートが添えられていた。パステルカラーのチョコペンで書かれた『Birthday』の文字にようやくその意味を理解する。
    「あ、誕生月のやつ〜」
    両手でゲッツの手を作りアイスを指差す安達の普段より数段控えめなうるさい動きに先生がくすりと笑う。
    某小さくて可愛い奴とのコラボで期間限定の可愛らしいデザインにつられて作ったポイントカードに誕生月を設定していたのをすっかり忘れていた。

    「誕生日、今月なのかい?」
    恥ずかしいことなどないがなんとなくこそばゆい気分になって いえす、と小さく応え
    「三十日です」
    と続ける。
    近く美術展で行われる催しに思い当たった絵戸先生が砂糖とミルクを入れたコーヒーをゆるゆるとスプーンで混ぜながらなんとなしに呟いた。
    「六月三十日…人魚の日だね」
    人魚というワードにフォークを持つ安達の指先がピクリと反応したのに気付かなかったのか見て見ぬふりをしてくれたのか先生が不自然な一拍の無言を追求することはなかった。
    「なんか家の守り神…的なのが、人魚らしくて。誕生石の真珠が『人魚の涙』で縁起がいいってんで子供は六月生まれがいいなってなったらしいです」
    本当は安達家が代々受け継いできた異能…それも外部には他言無用の起源を持つ『人魚の力』にあやかった験担ぎなのだが、そんな事を先生にわざわざ教える理由はない。
    せっかく絵戸先生と居る間だけは安達家の祓魔師ではなくただの(少々派手でやかましい)普通の男でいられるのだから。

    「誕生日かぁ…すっかり忘れてましたよ」
    苦笑する安達は家庭の話をさっさと切り上げ別の話題を始めようと頭の中にある『先生と話したい事リスト』を広げはじめた。

    先生はふと少し考えるようにまだ半分コーヒーの入ったカップを見つめてから
    「三十日は平日だけど、美術室にきてくれる日かな」
    と問うた。
    意図的でないのは明らかだが身長差により僅かに上目遣いに見上げる形に。
    愛らしい仕草に思わずクラっときた。

    時間と頻度こそ規則的とはいえ勝手に来る安達を先生はいつも迎える。
    先生の方から会いに行くことはなく、けれど安達が来る時間が近付くと時計をちらりと確認する頻度が少しだけ増える。そんな関係。
    受け身でいるのは先の短い自分と若い安達の生きる時間が違うと理解し、そして諦めているからで。
    そんな絵戸先生が「来てくれる日かな」!?

    ロマンスの神様、この人でしょうか
    …なんて懐かしい曲が脳内に流れ出す。
    遠く海淵の都にて眠るタコっぽい神が全力で首を横に振っている気がするがそれがどうした。ときめくのは自由だろ。
    「俺その日授業あるんで、学校います。…会いに行ってもいいですか?」
    「いいお菓子を用意しないとね」
    なんとか動揺を押し隠し答えると先生は嬉しそうに微笑んだ。

    誕生日が待ち遠しい、と思ったことなどあっただろうか。実家ではお祝いの類いと縁遠い生活をしてきたためになんだか照れくさいような、けれどそれ以上にやはり嬉しい。
    父親が誕生日を祝ってくれるのはこんな感じなのか。誕生日を祝ってくれる恋人がいるのはこんな感じなのか。
    もちろん先生はそのどちらでもない。
    どちらでもなくて、でも特別な人だ。

    その後の店内ではずっと気持ちがふわふわしていつもよりハイテンポで話題を振って話しすぎた。
    先生は変わらず時折くすくすと可愛らしく笑って話し込む安達を見ていた。

    住所を知るのはなんとなく憚られていつも家の少し手前で車を停める。
    小さく手を振り歩いていく先生の背中をしばし眺めて、フロントガラスの内側からその小さくなっていく背中にそっと触れて、長い溜め息を吐き出しハンドルに突っ伏した。
    「…………うれしいぃ〜〜〜」
    口角が勝手に上がっていく。目の前のガラスに映った自分の顔が眉を八の字にしてなんとも幸せそうに笑っている。
    どうかこのまま、と願わずにいられない。

    先生の居る車内。
    優しく寂しい先生の音。
    安達の話に見せる楽しそうな笑顔。
    甘味に綻ぶ先生の口元。
    安達が描いた下手くそな絵を見つめる愛おしげな横顔。

    日増しに大きくなっていく。
    願わずにいられない。
    どうか、ふたりの歩む道がこのままずっと交わらずにいる事を。
    先生が、見たくないものから目を背けていられるようにと。
    その『見たくないもの』の中に居る自分に気付かないでいてくれる事を。
    願わくば、このままずっと。
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