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    エノモト

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    エノモト

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    ネタ出し練習&短編練習として書いたSSのひとつです。

    初稿:2021/07/23(1985字・50分)
    加筆修正:2022/05/21

    鼠(鶴薬)「ネズミ?」
    「……と言うと、だいぶ聞こえが悪いがな」
    鶴丸が問うと、長谷部が苦々しくため息をついた。

    「政府の調査ということだ」
    「ほう?」
    政府の調査員を『ネズミ』と称するのは、随分と言葉が強いように感じる。
    目の前の刀は気難しいところもあるが、意味もなく罵ったりする性質ではない。何か理由があると踏んだ鶴丸は、敢えて言葉を繋げず返答を待った。
    「抜き打ちの調査だ。それも表からではない。この本丸に忍び込む形らしい」
    「忍び込む……忍者みたいにってことか?」
    屋根裏に潜んでいるのを想像して、つい天井を見上げた。
    「それならまだいい。そもそも屋根裏は、ヤツが半ば私有化してるだろう」
    「ははっ、違いないな」
    『ヤツ』と眉をしかめてはいるが、これはもう、長谷部の癖のようなものだ。『ネズミ』と言った時とは明らかにまとう空気が違う。親しみすら覚えるほどだ。
    「この本丸の刀と調査員の刀が、入れ替わっている」
    「…………ふぅむ」
    「例を上げるとすれば……この本丸の『へし切長谷部』と、この本丸所属のものではない『へし切長谷部』が内密に入れ替わっているということだ」

    表向きの調査では、秘匿される内情がどうしても出てくる。
    歴史修正主義者側に傾倒する審神者がいて、ちょっとした騒ぎになったこともあった。そういった本丸は、大事になる前に閉鎖される。
    此度の調査は、要するに『大事になる』可能性を摘む行動なのだろう。
    長谷場が面白くなさそうなのも無理はない。
    そもそもこの本丸、至ってまっとうな本丸だ。主も本当に裏表のない人物で……それはもういっそ心配になるほどに。その上有能で、驚くほど穏やかだ。手前味噌ながら戦果も上々。
    (……いや、だからこそ、寝返りを恐れているのかもしれないが)

    屋根裏に足を踏み入れた鶴丸は、ここのヌシである短刀──薬研藤四郎を視界に収めると、いつものように「よっ」と声をかけた。
    「鶴丸か」
    薬研も、いつものように静かに笑いながら迎えてくれる。
    (…………ふむ)
    長谷部の言っていた『ヤツ』というのは、言うまでもなく、目の前のこの少年だった。
    『秘密の調剤室』として私有化しているが、本丸の者みなが存在を知っているので秘密かどうかは意見が別れるだろう。
    鶴丸としては、秘密というのは何だか色っぽく感じていいなと思っている。
    薬研と密会するにも最適なのだった。
    いつものように触れるほど近くに腰をおろそうとして、結局、ほんの少し距離を保つ。
    「ネズミというのは随分な言い様だと思わないか?」
    「…………長谷部だな?」
    鶴丸との会話は聞こえていただろう。長谷部も別段隠すつもりはなかっただろう。隠すつもりなら、もっとそれらしい場所で話を切り出すだろうし、何より──本人は断固として否定するが薬研に対して非常に甘いのだった。
    「長谷部の言い分はもっともだろ」
    薬研も長谷部を否定しなかった。
    何だかそれが、少し可哀想で、鶴丸は少し意地悪をしてやろうと思っていた気持ちを放り投げる。
    「いやいや、ネズミというには、随分と愛らしいものだから」
    帳簿に目を落としていた薬研が、言葉を探すように、二、三度まばたきをした。
    「……いつ気づいた?」
    「さぁて」
    いつもの軽口で誤魔化すが、実のところ鶴丸も、具体的に『これ』という証拠は持っていなかった。
    事実、目の前の薬研は非常によく『いつも通りの薬研藤四郎』を演じていた。おかしな動作も一切ない。……ただほんの少し、針の先ほどの違和感。敢えて言うならそう、その『演じている』感覚を感じた。
    薬研は別段、隠すつもりもないようだった。言い訳をするでもなく、鶴丸に流し目をくれる。
    「怒っていないのか?」
    「どうして?」
    「長谷部は怒ってるようだったからな」
    「アイツは──まぁ、遠回しに主を愚弄されたと思ったのだろうし」
    「怖いな。へし切られそうだ」
    それはどうだろうな、と思った。
    派遣されたのが他の誰でもない薬研なのだし、不愉快に思えど、ひとつため息をついて終わりそうだ。
    「うちの薬研は?」
    「悪いようにはしてない……というと、逆に何だか心配させてしまいそうか。うちのところの刀たちと遊んでるだろう」
    「遊んでるのか?」
    「あっちはあっちで、内緒で入れ替わってみたからな」
    「……なるほど」
    あちら側もまさかの抜き打ち調査を受けているわけだ。
    「ふふ」
    薬研が、鶴丸の知る薬研とはほんの少しだけ違う所作で笑った。これが演じていない、この薬研の素なのだろう。
    「ここの薬研に言われたんだよ。鶴丸にはすぐ気づかれると思うぜって。だから結構頑張って演じたのに、瞬殺だったな」
    「…………あー」
    咄嗟に口元を手で覆った。
    「目の前にいないのがメチャクチャきついなぁ……」
    「抱きしめたいか?」
    「抱きしめたい」
    薬研も心得たように「代わりに俺でも抱っこするか?」なんて言わない。自分の役割ではないとハッキリとわかっている様子だった。
    「うちのお前も同じことを思ってくれてたら嬉しいな」
    そんな言葉をくれながら、鶴丸の頭をよしよしとしてくれた。


    『鼠』・了
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