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    NASU_1759

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    NASU_1759

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    6-4部隊とデイビスとパイロット時々タイタンの話
    久しぶりの執筆のリハビリと息抜きに書いたので誤字脱字等あるかもです。

    Laugh on the battlefield 惑星カラスト。ミリシア軍のバンガード級タイタンの配備が大きく進んだこともあり、この惑星でも戦線を有利に推し進めていた。だが、拠点制圧間近というところでIMCの激しい抵抗を受け、戦況が膠着してしまったその支援として6-4部隊が派遣された。
     わたしは戦線よりやや後方で味方歩兵部隊と共に敵残存部隊の掃討を行っていたが、その最中に生き残っていた敵パイロットの銃撃を受けた。既に戦況は移り変わり、最前線では本格的なタイタンでのぶつかり合いになっていたから、まさか自分以外のパイロットが単体で、しかもほぼ掌握しかけていた戦場を駆け抜けているとは思わず完全に油断していた。
     弾丸がまだ体内に残っているのか、撃たれた腹部が燃えるように熱く、右腕の感覚が無い。痛みだけが意識を繋ぎ止めていたが、それも血とともに失われつつある。
    「ああ、クソ、クソッ!血が止まらない!クリス、目を閉じるな、衛生兵がもうすぐ来る!もう少しの辛抱だ」
     穴の空いた腹部にメディカルキットの包帯をありったけ巻き、その上から手を置いて圧迫止血するが必死の処置も虚しくデイビスのグローブはみるみる赤く染まっていく。血まみれのわたしのヘルメットが頭のすぐ横に置かれていていた。
     わたしは今、忌々しいIMCパイロットの下手くそな銃撃のせいで激しい痛みを抱えて死に損なっているのだ。
     もちろん、ただでやられてたまるかと意地と怒りに任せてコンバットナイフで喉を掻き切って地獄に落としてやったが。
     救援を出して前線の味方の足枷になるわけにはいかない。一人で死のうとしたわたしに気がついたデイビスはゲイツの命令を無視し、戦線を放り出してタイタンと共にわたしのもと来た。軍だったら敵前逃亡で軍法会議ものだぞと呆れたが、それでも、死ぬ前にデイビスに会えて嬉しかった。
    「シエ、ラは……?」
    「おい、おい、喋るな馬鹿!シエラはボロボロだが大丈夫だ。クリスに会わせろってうるせえし、元気に最低な悪態ついてるから心配しなくていい。それよりもこんなクソッタレな場所、とっととおさらばしてドロズに奢らせようぜ。あいつがドベだ。」
    「そ、……か、」
     倒れたわたしにデイビスが駆けつけるまで、別行動をしていた相棒のタイタン──シエラの健在はHUDで確認出来ていた。処置のためにヘルメットを外されたので彼女の様子が分からなくなっていたが、どうやら味方部隊が回収してくれたらしく無事のようだ。安堵と同時に、いつもと変わらぬお調子者のデイビスがおかしくて笑おうと身体を震わせる。最悪なことに酷い出血のせいで、内臓から逆流した血をがふりと吐き出すだけだった。口元が血に濡れて気持ち悪かったが、胸に溜まっていた息苦しさが消えたおかげで少しだけ意識が鮮明になる。
     出撃前に、デイビスとドロズとわたしで敵パイロットとタイタンの撃破数の賭けをした。一番成績が悪かった奴が月に一度のスペシャル・メニューの奢り。今回は一年に一度食べられるかすら怪しい、地球産の天然ものの牛肉だったから皆の気合いの入りようもひとしおだった。
     悲しきかな、最後の晩餐はシエラのコックピット内で食べた、ぼそぼそとしたスティック状の味気の無い栄養食になってしまった。こんなことになるなら出撃前の忙しさにかまけず意地でも食堂で食べるべきだったと後悔するが、もう遅い。
     がしゃんがしゃんと金属音と地面の揺れを感じて、すぐにデイビスの反対側からゲイツのヘルメットがわたしの顔を覗き込んだ。
    「なんてこと……クリス、起きなさい!」「おいゲイツ!やめろ!」無茶苦茶な命令をしながら頬をやわく叩くゲイツを慌てて止めるデイビス。死にかけてる人間になんてことするんだとげんなりするが、抗議する気力もなかった。彼女の手にも血がべっとりと付着しているのを見てしまってすぐに視線を外す。仲間をわたしの血で汚すのはあまりいい気分ではない。
     ゲイツは無線でどこかへ連絡するとデイビスにわたしの処置を指示し立ち上がった。遠くで爆発音が響く。依然戦闘は続いていて、戦況は予断を許さないのだろう。
    「死んだら許さない。その時は解雇するから。」そう言ってゲイツはタイタンに乗り込み、すぐに戦場に戻って行った。
     騒がしい彼らにかつてのわたしだったらどんな顔をしていたんだろうなと、思考のまとまらない頭で想像する。
     わたしの両親や兄妹は、戦争に殺された。苦しみながら死んだ家族を目の当たりにしてしまい、死の恐怖に取り憑かれたわたしは復讐に心を燃やせることができなかった。できることといえば、恐ろしい死から逃げるためにひたすら生きることだけだった。弱い自分を捨てて、笑うことをやめ、海賊のパイロットになって、たくさん殺して、そして彼らに出会った。
     迫撃砲弾で破壊し尽くされた瓦礫と炎の大地。タイタンを失い、ヘルメットもジャンプキットも破壊され負傷して地面に転がりながらもわたしは両手に握るハンドガンをデイビスに。そして当時敵であり、わたしにその怪我を負わせたデイビスはL-スターをわたしに。互いの得物を突きつけ合ったのはいい思い出だ。
     どうして彼がわたしを助けたのか当時は全く分からなかった。哀れんだのか、それとも単に仲間に引きいれる事ができれば戦力になると思ったのか。
     わたしは当然、6-4部隊に捕虜として連行されすぐさま病院送りになった。司令官であるゲイツは、面倒な荷物を連れてきて、と舌打ち交じりに呼び出しを食らったデイビスとベッドに横たわるわたしを交互に睨んだ。ゲイツに本気で叱られ、縮こまって弁明する馬鹿な男が本当に面白くて、腹がよじれるほど笑ってしまった。わたしに怪我を負わせたくせに助けたからだ。ざまあみろ。大笑いする頭のおかしい捕虜に、呆気にとられた二人の顔といったらもう。
     笑いすぎて傷が開いてしまったのは予想外であったが、今度はフェーズシフトのように飛び込んできた医者にゲイツとデイビスを叱られたのは、わたししか知らない。
     こんな愉快で面白い連中といれば、捨てててしまった本当の自分を取り戻せるのではないか。また、心から笑える日がいつの日かきっと。
     そうして長い監視と尋問を経て、わたしは6-4部隊に入隊した。
     ゲイツは厳しい女性だけれど、誰よりも6-4部隊を愛していて、仲間思いな司令官だった。出会いは最悪だったが同性である彼女とは早々に打ち解け、苦労多き司令官の愚痴を拝聴する任務に長年務めたし、ベアは頼れるベテランのパイロットで、わたしはゲイツの補佐も務める忙しい彼の仕事をよく手伝っていた。お前がいて助かる、といつも優しく接してくれた。
     ドロズは、年齢が近く兄のようだった。デイビスとよくつるんでいてトラブルメーカーであると同時に部隊のムードメーカーだった。近々新しい組織をデイビスと立ち上げるから、お前も来いと誘われていたのを思い出した。
     そう、それから。6-4部隊で新しくリンクしたタイタン。トーン級の、女性音声のタイタンOS。新たなタイタンとのリンクの喜びもつかぬ間。目を離したわずか一夜のうちに『クリス、敵のパイロットとタイタンをぶっ殺しましょう。』とか『あいつらのケツに鉛玉をぶち込んでやる』とかとんでもない事を言うものだから、格納庫で卒倒しかけた。素直で真面目なタイタンだったのにどうしてと頭を抱えてしまった。
     犯人はすぐ分かった。デイビスとドロズだ。面白おかしくわたしのタイタンに悪い知識を吹き込んだ二人を本気で殺そうかと思った時期もあったが、今ではその彼女の口の悪さも気に入っているからそのままにしている。
     彼らと過ごす時間は、かつて生きるために戦うという目的を忘れるぐらい楽しかった。だけれど、もう終わりだ。
     わたしの腕をとり、スティムとモルヒネを投与しようとしたデイビスにそっと首を振った。もうすぐ死ぬ人間に投与するよりまだ生存の希望がある人間に使うべきだ。戦場では物資も有限で、貴重なものだと彼もわかっているはずだ。助からない人間に使って無駄にするなとデイビスの目をじっと見つめた。「クソ、」とやるせなさをぶつけるように拳を地面に叩きつけた。
    「クリス。クリスティナ。」
     デイビスがわたしの名前を呼ぶ。視界がぼやけ、どんどん狭まっていく。彼には死んでも再生をしないと決めていることを伝えている。
     死んだ人間は生き返らない。再生したとしてもそれはわたしではなく、わたしという存在がデータ化され、0と1で構成された記憶領域でしかない。感情を伴わない思い出ほど空虚なものはないだろう。そんな存在にわたしはなりたくなかった。
     いつの間にかベアもこちらに戻ってきていたのだろう。少し離れたところで何事か怒鳴っているが、うまく聞き取れなくなってきた。
    「はは……、パイロ、ト、ふた……り。タイタン、よん、き。わたしの、かち、だ。」
    「そうさ。最高のパイロット。お前の勝ちだ。だから、もう喋るなよ」
    「シエラのこと……頼む、ね。も……あんまり、聞こえ、ない」
    「ふざけんな、あれはお前のだ。最後までお前が面倒見るんだ。あんな性悪タイタン、クリス以外乗りたがらないに決まってる。それにあいつ、俺のこと嫌ってるだろ?」
    「それ、も、そ……だね、」
     億劫ながらも口の端を上げてにやりと笑うわたしにデイビスはきょとんとして、すぐにく、く、と喉を鳴らして少し笑った。
     デイビス。わたしを助けた男。ユーモアがあって、人懐っこくて、わたしを女扱いしてくれたことなんてほとんど無かったけど、案外優しいところもあった。
     任務でも彼と組むことも多くて、助けたり助けられたり。わたしたちは親友とか、悪友とかそういうものに収まる物ではなかったと思う。かといって、この関係に名前を付けようとしてもどれもチープなものに感じてしまった。
     私にとってデイビスは、悔しいことに誰よりも離れがたい存在になってしまった。
     彼のくだらない会話も、もうできないと思うと寂しくなる。五感が急速に失われていく、死を匂わせるその感覚が恐ろしくなり僅かに動く左手を地面でさ迷わせる。デイビスはそれを見逃すことなくわたしの左手をそっと握りしめた。
    「あの時お前を助けたの、かわいかったからだよ」
     突然の告白に思わず目を開くが、視界は白んでいて朧げなデイビスの輪郭しかとらえられなかった。馬鹿になった耳でも聞き取れるよう、わたしの耳元に口を近づけてくれた。彼には似合わぬ妙に落ち着いた声音でわたしの名前をもう一度呼んだ。その声は苦しそうに震えていた。
    「でも今は違う。よく聞け。一回しか言わないからな。俺はな、お前を……」
     バーカ。言わなくたってわかるよ。だって、わたしも。





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