Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    buyo

    熟成倉庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💜 💛 🎩 🎃
    POIPOI 26

    buyo

    ☆quiet follow

    ※派生※参謀×将校
    和解後? の参将がバディ組んで平和な事件を解決していく話にしたかったんですが、もう違います。続きはゆっくり書いてます。

    或る生者の備忘録(1) とある国のとある町、とある森。
     相容れない二つの地を結ぶようにして建てられた館に、一人の少女の声が響き渡る。

    「大変大変たいへん~~~~!!」


    case.1 消えた風見鶏


     扉の開け放たれる音と共に一人の少女が飛び込んできて、執務机に向かっていた将校は顔を上げた。金色の髪に白の軍服。年の割りに幼く見られがちな風貌だが、キリリと伸びた背筋と落ち着いた眼差しが、年相応の風格を与えている。
     一方で突如現れた少女はと言えば、桃色の髪に生命力溢れる大きな瞳。顔には染料で不可思議な文様が施され、麻で編まれた服に独特の装飾品で身を飾っている。その軍服とは真逆の装いに、将校の背後にいた参謀は思わず眉間に皺を寄せた。
     館には大変そぐわない見た目の人物であるが、将校は気に留めることなく話しかける。

    「どうしたんだエム。そんなに慌てて」
    「あのねっ、風見鶏が消えちゃったの!」
    「風見鶏?」
    「そうなの~」

     重要そうな話しぶりだったくせに、口にした話題がコレである。
     参謀は無視してそっと退出しようとしたが、すぐに気づいた将校によって腕を掴まれてしまった。細指からは考えられない力で手首を掴まれ、びくともしない。諦めて聞くしかないだろう。

    「風見鶏と言うと、前に町から贈られてきたやつか」
    「うん……」

     少女――エム曰く、町と森の友好の証として贈られた品物の一つである風見鶏が、今朝から見当たらないのだと言う。鉄で作られた繊細で精緻な細工だ。森の代表者である長老の家に、昨日までは確かに飾ってあったのに、というのが彼女の談である。

    「せっかく貰ったのにすぐ無くしちゃったなんて……どうしよう」
    「そんなの、新しい物を付ければ済む話でしょう」
    「も~! そういうことじゃないの!」

     参謀がつい口を挟むと、エムは頬を膨らませて地団太を踏んだ。その背後から――いつの間にいたのか、薄緑の髪の少女がこちらを睨んでいる。冷たく……いや、憎しみすら籠っている視線に、参謀はふいと目を逸らした。
     参謀の気まずさなど気にすることなく将校が口を開く。

    「天候が荒れていたわけでもないのにおかしいな……。わかった、心に留めておこう。何かあれば連絡する」
    「ありがとう将校さん!」

     にぱーっと太陽のように笑うエムと、はにかんだように微笑むもう一人の少女――ネネ。二人を娘のように可愛がっている将校は、「お茶にするか」と言って席を立ち、自ら湯を沸かし始めた。本来は部下である参謀が動くべきなのだろうが、この上司は言ったって聞きやしない。
     それに――憎んでいる人物に茶を入れられても、疑心で飲めないだろう。
     少女達の賑やかな声に混じる将校の低い声。執務室が穏やかな雰囲気に包まれ、参謀は人知れずため息をついた。……自分のような裏切り者に、この柔らかな空間は居たたまれない、と。





     自分は死ぬのだと参謀はわかっていた。玉座の簒奪はそれだけの重い罪だ。大臣は貴族の情けとして服毒を許され、つい先日訃報が届いたばかりだった。
     平民の参謀は良くて極刑、悪ければ死ぬまで炭鉱で働く。犯罪人の送られる炭鉱場は悲惨だ。碌な設備も無く体が蝕まれ、朽ち果てるように苦しんで死ぬ。
     できればひと思いに殺してほしい、などと冷たい独房の中でぼんやりと過ごしていた参謀の元に届いた知らせは、そのどれでもなかった。



    「――何故ですか」

     牢から出されて、訳もわからず馬車で揺られた先。見覚えのありすぎる部屋と目の前の人物に、参謀はただただ混乱していた。つい先日まで毎日のように目にしていた執務机は、記憶の通り、深みのある赤色のままだ。

    「私は重罪人です。助命嘆願してくれるような身内もいないのに、なぜ」
    「知らん。私は上の命令に従うだけだ」

     久方ぶりに聞いた声色は、固く、冷たさを帯びている。それが酷く胸を騒めかせて、参謀は視線を下げた。綺麗に磨かれた軍靴が目に入る。
     将校はじっと参謀の方を見ていたが、言及することなく背を向けた。窓越しに照らされた金髪が、淡く光っている。

    「……ここは静かな町だが、いずれ黒い油の存在が知られて騒がしくなる。今は誰だろうと人手が欲しい時だ。だからお前が呼ばれた」

     軍服の白のせいか、窓から降り注ぐ陽射しのせいか。目の前の背中がひどく眩しい。
     参謀が目を細めていると、くるりと将校が向き直った。
     目が合う。
     将校の口元が不敵に吊り上がった。

    「己の処遇に不満があるなら身を粉にして働け。今はまだ私の下で監察中だが、働き如何によっては解かれるだろう。そうすればお前は自由の身だ。軍を辞めて田舎で暮らすも良し、残って栄達を極めるも良し」

     将校の言葉に参謀の目が見開く。死を覚悟した人間にとって、信じられないくらいの好待遇だった。理解が追い付かず、ひたすら目の前の将校を見つめる。
     将校はそんな参謀の様子にふっと微笑むと、すぐに口元を引き締めた。「ただし」と硬い声で続けられる。

    「それまでは私の命令に従え。もし再び不穏な行いをする素振りがあれば――私が切る」

     感情の読めない、冷たい声。らしくない、と参謀は思って、すぐに自嘲した。らしくない、なんて、騙していた自分が。
     光を背負った将校は、静かな瞳でこちらを見ている。参謀は「ハッ」と短く声を上げ、体に染みついた礼を取った。





     きっと将校も嫌々引き受けたのだろう。こんな厄介者の身柄、どうしたって問題しか引き起こさない。だが、所詮上の命令には背けないのだ。彼も、己も。
     だからと言って因縁のある地に預けずとも……と参謀が何度目かわからないため息をこらえていると、徐に将校が立ち上がって外套を手に取った。見れば、執務机の上に乗っていた書類は粗方終わっている。

    「参謀、外に出るぞ」
    「私も……ですか?」
    「他に誰がいる。早く支度をしろ」

     目を白黒させる暇もなく将校が部屋を出ていく。それに慌てて参謀も部屋を出た。
     外出はここに来てから初めてだ。軟禁と言う訳ではないが、下手に動いてあらぬ疑いを掛けられるのも面倒だったため、参謀は極力勝手な行動は慎んでいた。
     急いで与えられた自室へ戻り外套と帽子を掴むと、すぐさま正面玄関に向かう。さっさと支度を整えた将校は、正面のポーチで腕を組みながら待っていた。

    「すみません」

     遅れたことを詫びるも、将校は参謀の帽子にチラリと視線を向けるだけだった。

    「行くぞ」

     短い言葉を返し、森の方へ足を向ける。草木が鬱蒼と茂っているが、踏み固められた跡で道が出来ているため、歩くのに支障はない。

    「ところでどちらに?」
    「森の長老の家だ。少し話があってな。ついでに風見鶏があったという屋根を見よう」
    「はあ……」

     どう考えても目的はソレだ。忙しいくせにあんな戯言を真に受けて、と思いつつも参謀は黙っていた。言わなくてもいいことくらい、感情の機微に疎い自分でもわかる。
     しばらく歩いていると視界が開け、一軒の小屋が目の前に現れた。長老の家だ。どんな掘っ立て小屋かと参謀は想像していたのだが、案外造りはしっかりしている。町中で見る一般的なレンガ造りの建物と違い、均一な大きさの丸太を組み合わせて作られた小屋の前に、壮年の男が一人立っていた。

    「将校様」

     将校に向かって手を上げて朗らかに笑う。流石森の民と言うべきか、将校と参謀が家に近づく前に扉の前で待っていたようだ。

    「相変わらず気配に敏いな。エムもそうだが、森の民には驚かされてばかりだ」
    「その口振りでは、またあのじゃじゃ馬娘が何かやらかしましたな」
    「ははは。つい先日だが――」

     親し気に肩を叩き合いながら長老と将校が話す様子をしばらく聞いていたが、次第に参謀はげんなりし始めた。
     なんだ、ただの無駄話じゃないか。
     仕事の手を止めてまでこんな森くんだりまでやって来たというのに、会話の内容はと言えば、いたずらに時間を浪費するだけの世間話。長老は将校と会話を弾ませつつも、隣にいる参謀に警戒の目を緩めることはない。己にとってはただただ居心地が悪いだけの時間だ。
     参謀が気まずくなって帽子のつばを深く下げると、遠くから「おーい!」と呼び掛ける少女の声がした。エムだ。後ろからネネもついてきている。

    「将校さんだ~! ありがとう、早速来てくれたんだ!」

     ビュンっとまるで獣のように跳んできたエムが将校に笑いかける。遠くにいたと思ったらもう目の前だ。なんて人外だ……と参謀の頬が少し引き攣った。
     そんな風に思われているとは知らないエムがくるりと振り返り、参謀にも笑顔を見せる。

    「参謀さんも、ありがとう!」
    「い、え……私は……」

     何で自分にまで笑いかけるんだ。
     屈託のない笑顔に言葉が詰まってしまった。自分の住処を脅かした諸悪の根源に対するこの態度。理解ができなくて調子が狂う。

    「エム、そいつに近づかないで」

     帽子の奥で参謀が戸惑っていると、ネネが鋭い声と共に割って入った。こちらを一切信用していない冷たい瞳に、正直ほっとした参謀は小さく息を吐く。そう、これが普通の反応だ。将校は何やらこちらを観察しながらニヤニヤ笑っているが。

    「ふふ。……そうだ、エム。風見鶏はここの屋根に飾ってあったんだな?」
    「うん、そうだよ」
    「屋根には登れるか?」
    「うん!」

     そう言うや否や、エムはひょいと小屋の出っ張りに足をかけてスルスルと登ってしまった。まるで動物だ。
     唖然として口を開く参謀と違い、将校は「ふむ」と頷くと自分も小屋に手をかけて登っていく。

    「ち、ちょっと将校どの!? 何やってるんですか!」
    「実際に見ないとわからないだろう」
    「そういうことじゃなくて!」

     エムと違って速さはないが、危なげなく登っていく姿に参謀は眩暈を覚えた。地位のある人間のやることじゃない。何なんだ、この人は。
     ついには屋根までたどり着き、「はは、見晴らしがいいぞ」などとのんきに笑っている。見るからに不安定な足場で。

    「~~っああもう! 梯子ってありますか!?」

     参謀の勢いに吞まれたのだろうか、素直に教えてくれた長老から梯子を借り受けると、すぐさま小屋に立て掛けて自身も登る。後ろからネネもついてきて、「森のみんながエムみたいなわけじゃないから」とぐちぐち言っていた。
     登りきった先は意外に高さがあり、高所が苦手な人間なら大いに足が竦むだろう。屋根にはかなり傾斜もついているのに、将校もエムも平然と立っている。参謀は思わずネネと顔を見合わせた。

    「何だ、お前も来たのか」
    「上司のあなたが動いているのに、私が突っ立ているわけにはいかないでしょう」
    「わ~ネネちゃんも来てくれた~」
    「ちょっと、抱き着かないで! 落ちる!」

     わいわいやっている少女二人は放っといて、参謀は風見鶏があっただろう屋根の中央部を注意深く見る。と言っても、屋根に固定していた金具があるだけだ。その上の風見鶏の影は綺麗さっぱり。

    「それでどうだ。何かわかるか」

     しゃがんでいる参謀の背後から将校が覗き込む。
     この人、率先して屋根に登ったくせに人任せか。

    「……いえ。ですが、土台の金具も固定が甘すぎます。大方どこかに飛んで行ったんでしょう」
    「う~ん、つけ方がわからなかったから見様見真似で頑張ったんだけど……」
    「町の人間もそこまで気が回らなかったみたいだな。次につける時に教わればいい」

     慰めるように将校が声を掛けているが、エムの表情は暗いままだ。町と森の友好の証として貰ったと言っていたから、気落ちするのはわかるが。
     消えただの何だの大袈裟に騒いでいたが、蓋を開けてみれば簡単な話だ。突風で飛んで行ってしまったのだろう。とりあえずここに用は無い、と立ち上がりかけた時だった。

    「うわ!」

     ヒュン、と物凄い速さで飛んできた黒い影がエムのそばを掠める。風圧に桃色の髪が靡き、影が去った方向を見ると――方向転換して再び向かってきた。

    「鳥――鷹か!」

     声を上げた将校が、少女達を庇うように覆い被さった。咄嗟に参謀が将校の前に出る。

    「――ッ」

     ピッと布の切れる音。間を置かずに腕へ痛みが走る。爪が掠ったようだ。再び方向を変えた鷹が襲い掛かってくる。

    「何故……っ」
    「伏せて!」

     鋭い声に、参謀は咄嗟に体を伏せた。ビュンっと小気味いい音と共に何かが頭上を飛び、鷹の羽を掠める。苦しそうな鳴き声をひとつ上げ、逃げるように飛んで行く鷹。そのまま木々に紛れ……もう戻ってこないようだった。
     忠告のした方を見ると、将校に庇われた隙間から、ネネが武器のようなものを突き出している。形状からしてスリングショットだろうか。
     ほっと息をつくと同時、焦った様子の将校が話しかけてきた。

    「参謀、大丈夫か!?」
    「少し引っ掻かれましたが平気ですよ。……あなたもありがとう」
    「……ふん」

     礼を伝えたネネは何も言わず、鼻を鳴らしてそっぽを向く。それくらいで参謀が気を悪くすることはない。それよりも、心配そうにベタベタと腕に触れてくる将校の方が問題である。

    「血が出てるじゃないか!」
    「血って……こんなの、怪我の内にも入らないですよ。軍人なんですから」
    「野生動物を舐めない方がいい。早めに消毒をしないと」
    「そりゃあそうですけど……」

     あまりにも将校が真剣な顔をしているので、参謀は面食らってしまった。率直に言って、目障りな存在である参謀が怪我をしたところで不都合なことなどあるまい。むしろ小気味いいとほくそ笑んでもおかしくないくらいの罪を自分は犯した。それなのに。

    (やはり、調子が狂うな……)

     将校も、森の少女も。まるで他の人間と同じように参謀へ接し、受け答えをする。到底理解し難い思考回路だが……きっと彼らは人と違う、清い生き物なのだ。少なくない時間を過ごしてきたから、将校が本気で心配しているのがわかる。自分のような人間とは違う。
     心の中で自嘲した参謀は、自然な動作で将校の手を腕から外し、周囲を見回した。鷹は消え去ったようだが、さて……。

    「どうした参謀?」
    「いえ……あの鷹がどうして急に襲って来たのかと思いまして。好んで人間を攻撃する生き物ではないですからね」
    「そういえばそうかも……」
    「あたしはご飯取られそうになったことあるよ!」
    「それは例外です」

     エムの言葉に苦笑しつつ森の奥に目を凝らしていく。木々の高い所、枝の隙間を探していけば――。

    「ああ、あった。あれです」
    「ん?」

     参謀が指さした先へ将校達も目を凝らす。白い指先が示す方向には、小枝で作られた巣と、先程攻撃してきた鷹とは違うであろう個体が一羽。巣の中で何かを抱えるように座り込んでいる。

    「飛んでいた大きさからすると……熊鷹ですかね。雌と卵を守るために気が立っていたのかもしれません。おそらく風見鶏も同じように攻撃したんでしょう」
    「ははあ……なるほど。あの風見鶏、やけにリアルに作られていたからなあ。敵だと思ったのか」
    「最近は都市部の開発のせいで営巣もままならないようですし、抱卵期なら尚更近づかない方がいいでしょう。今も警戒しているはずですよ」

     大臣の狙っていた黒い油然り、この国は急速に科学の発展を遂げようとしている。それは人の世を豊かにするが、切り開かれた自然から追いやられた動物達は住処を失いつつある。たかが動物とは思うが、この森でくらい怯えさせずともいいだろう。
     参謀が手を振って皆に降りるよう促すと、何故か将校が微笑んでいた。

    「……何か?」
    「いや、何でもない。エム、残念だが風見鶏は諦めよう。いたずらに刺激するのも可哀そうだからな」
    「うん! 元気な赤ちゃんが生まれてほしいもんね!」

     エムも同様ににこにこと笑っている。いや、この少女は感情表現が豊かだからいつも通りか。しかしその後ろで、しかめっ面しか見せないネネさえも薄っすらと微笑んでいる。
     何かおかしい事でもあったか、と参謀は疑問に思いつつも梯子を使って屋根から降りた。エムだけはひょいひょいと自分の身一つで降りたが。
     地に足がついたところで、ようやく人心地付いた気分だ。そもそもあんな高所に平気で突っ立ってる方がおかしいのである。ただし、エムだけは眉毛を八の字に下げた情けない顔をしていた。

    「風見鶏が無くなっちゃったの、町の人達に謝らなきゃね……」
    「気のいい奴らばかりだから、怒ったりはしないさ。理由を話せばわかってくれる」
    「うん。ちゃんとごめんなさいするね!」
    「エムのせいじゃないし……わたしも一緒に行くよ」
    「ネネちゃん~~!」
    「ちょっと!」

     またもや少女二人の掛け合いが始まった。いちいちくっついていないと死ぬ病気なのだろうか。
     参謀はきゃっきゃっと賑やかな会話を意識の隅に追いやり、懐中時計を取り出して時刻を確認した。館を出てからそれほど時間が経っていない。これならすぐに今日の仕事に戻れるだろう。
     参謀が溜まっている書類の算段をつけていると、騒いでいたエムが改まってこちらに向き直り、ぺこりと頭を下げた。

    「将校さん、ありがとう! 参謀さんも!」
    「どういたしまして、だ」
    「私は何も……」
    「ええ〜参謀さん大活躍だったよ! みんなのこと守ってくれて、鷹さんの巣も見つけてくれたし、近づかない方がいいって教えてくれたよ!」
    「そうだな。お前が気づかなければまた風見鶏を設置して、鷹を怒らせたかもしれないからな」
    「はあ……」

     エムも将校も、参謀のおかげだと言って目を細める。呆けて碌な返事ができない参謀の肩を、将校がぽんと軽く叩いた。

    「お手柄だ」

     その声音と、肩に置かれた手の平がやけに温かく感じられて、参謀は何も言わずに目を逸らした。が、その視線の先にネネが居て、気まずさに目を伏せる。顔を隠すように帽子を深く被り直した。

    「……そうですか」

     褒められたのだから礼を返すべきか、とも思ったが、口から出たのは素っ気ない返事だけだった。
     これが大臣だったなら。
     如才ない笑みを浮かべて、「ありがとうございます」と静かに答えただろう。それが正しい振舞いであったし、その通りにすれば良かったのだ、今も。
     ――やはり、この人達といると調子が狂う。
     普通の人間と同じように扱われて、もしかすると、己も普通の人間じゃないかと勘違いしてしまうような。……そんな世迷言を思ってしまいそうになるのだ。

     参謀の肩から手を離した将校はもう一度軽く叩くと、エムとネネ、それに長老と共に朗らかに笑いながら小屋へと向かっていった。町へ何か贈り物ができないか、これから話し合うらしい。
     参謀は一歩離れたところから、その横顔をじっと見ていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺☺💖💖💖💖💖☺👏👏👏☺💞💞💞👍👍👍❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    Tears_reality

    MEMOワンドロリベンジ(途中まで)
    ワンドロリベンジ『復縁』(途中まで)「もう我慢できない。お前とはこれでおしまいだ」

    「それはこっちのセリフだよ。僕以外に触れさせるなって言ってるのにいつも君は仕事だから、付き合いだから仕方ないって、こっちの気も知らないで、あぁ、もう早く洗ってきてよ。他人の匂いがついた君なんて見たくもない」

    いつも通りのやり取りだった。一通り言いたいこと言い終わったら仲直りするのが常だったはずが今回はそうじゃなかった。それに類が気づいたのは司が出ていった後だった。

    「ちゃんと寝てるの?ご飯は食べてる?」

    「それなりにね。仕事もあるからね。」

    「ならいいけど。」

    類の話を聞きながら幼なじみの彼女、草薙寧々は紅茶を飲みながらため息をつく。寧々ともう一人のえむは司と類の秘密の仲を知る数少ない友人だ。当初2人が別れたと知った時真っ先に寧々は類を心配した。それもそのはず類は司がいないと生きていけない男だった。それは依存にも似たもので仲間である寧々たちも二人の間にはいるのはどこか躊躇いがあった。長い付き合いの寧々は類のそう言った危うさに気づいていた。だからこそ真っ先に心配したのだが当の本人は何処吹く風だ。以前の類だったらきっと。司と付き合ったことで心の安定が取れるようになったのかもしれない。その日は他愛のない話をして終わった。
    844