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    whatalife94

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    レカぺ間に合わなかった都王。都承旨まだ出てこない書きかけの一部。

    未定※未成年に対する性的虐待描写があります。十分ご注意いただいた上、閲覧は自己責任でお願いします。


    ***

     僕の人生は、五歳の夏に「前世の記憶がある」と気付いた瞬間に終わっていたのだと思う。
     もちろん、その当時はあまりに幼すぎて前世などという存在も理解していなかったが、その年齢の子供が知るはずのない歴史やかつての風習について話すのは、さぞ不気味だったんだろう。家族の反応は恐ろしく冷えたものだった。
    「いいか、絶対に外でそんなことを言うんじゃない。少しでもそんな素振りを見せたら、お前を一生病院から出られなくする」
    「………はい、お父さま」
     五歳の子供にかける言葉ではないと思うが、僕を毛嫌いどころかもはや憎んでいると言っていい実の父親は、それをきっかけに義母共々僕を完全に無視することにしたらしい。育児は世話役の男に任されて、そんなふうに育てば小学校でも浮いた存在だった。父の言いつけを忘れて余計なことを口走るのも恐ろしく、友人を作ることすらままならない幼少期にろくな思い出はない。
    (嫌だ、なにも思い出したくない。こんな記憶があるから、お父さまは僕を無視するんだ)
     記憶はいつも夜の眠りと共にやってくる。毎晩ではなく、断片的で曖昧な夢として甦った。どんなに神に祈っても、夢は不規則にやってきては新しい過去を思い出させる。その度に泣いて目覚めることもよくあることだった。
     そして十歳になった頃、僕はようやくふたつの事実に気づく。ひとつ目は、どうやら年齢と共に少しずつ思い出すことが増えていくようだということ。五歳であれば、五歳までの記憶が。十歳であれば、十歳までの記憶が。僕の人生は閉じられた狭い箱の中で、前世の記憶は付けっぱなしのテレビから流れる映像のようだった。
     液晶の向こうの『僕』は、やっぱり大して幸せそうには見えない。それは悲しいことだが、同時に幸いでもあった。なぜなら、前世を憶えていようがいまいが、父は僕を憎んでいたに違いないからだ。身分違いの恋で父の心を燃やし尽くし、愛情を憎悪に変えて、息子ひとりを残して失踪した僕の母親。憎い女を思い出す容姿の子供をどうして愛せるというのだろう。
     僕が気づいたふたつ目の事実は、まさにこれだった。昔の僕が幸せな家庭で愛情を注がれて育っていたら、きっと今の僕は耐えられなかったに違いない。前世の自分が惨めな思いをしている様を夢で見ながら、僕は「彼よりはマシだ」と考えることで目の前の現実から目を逸らし続けていた。

     そんなことが続いて、いつの間にか十五歳の誕生日すらも通り過ぎていく。その時にようやく、この記憶が誰のものなのかを理解した。李氏朝鮮の王朝に現れた一人の王、イ・ホンが僕の前世だ。
     当然、僕は自分の人生がそのような末路を辿ったか気になった。放送が終了したドラマを後追いしながら、結末を先に検索してしまうような行為だなと思いつつも、感情の伴わない過去の記憶であれば大して気にもならない。図書館で調べた内容としてはこうだ──治世の初期は奸臣の登用や、対立する大妃・王族たちの反乱で政治が乱れたが、後に様々な善政を行ったことで高く評価された。書物を愛し、特に弓術に優れたとされる。若くして譲位をした後に急逝したが、一説には影武者の道化師によって命を救われたとする民間伝承も存在するが、真偽は定かではない。
    「…………なるほど」
     僕はパタンと本を閉じた。頭の中に入っている今の記憶はちょうど、日本軍の侵略から逃れたところまで。父王との関係は、今世の自分と同じかそれ以上に拗れているらしい。僕は崖から身を投げて命を諦めようとまでしたイ・ホンのことを思い出しては、心臓を鷲掴みにされるような痛みを覚えた。ずっとただの映像でしかなかった記憶だが、今日はどうも自分ごとのように心を揺さぶられる。
    (トウ……不思議な名前だ。あなたを失った世子の痛みが強すぎて、僕までこんなふうに悲しくなるの?)
     薄汚れた身なりでも、どこか不思議な品を感じさせた代立の男。昨晩の夢でイ・ホンは彼を失った。父王に見捨てられた少年にとっては、決して与えられなかった父性愛を見出した相手なのかもしれない。今までどんな酷い仕打ちを受けて、心ない言葉を投げつけられたとしても、目の前で命を奪われたトウを見た瞬間の絶望には遠く及ばなかった。
     感情を伴って前世を思い出すのは初めてだ。今世の僕の人生はあまりに薄っぺらくて、そんなふうにされたら簡単に『イ・ホン』に侵食されてしまう。なにせ高校に入学する年になっても、僕にはまともな友人のひとりだって存在しなかった。この国でもそれなりに有名な財閥の長男。周囲に寄ってくるのは請託を受けようとする人間ばかり。前世の記憶と今の境遇が重なって境界を曖昧にし、僕自身が崩れていく。彼はこの人生の果てに、周囲の信頼と評価をどうやって得たのだろう。
    (………まずい。もうこんな時間か)
     物思いに耽りすぎたのか、気づけば腕時計は図書館の閉館時間間際だった。前世の書物好きを引き継いだのか、こうして時間も忘れて図書館に入り浸ってしまうことは度々ある。今から帰っては門限を少し過ぎてしまうだろう。しかし、今頃家族は全員旅行先の済州島にいるので、幸か不幸か何時に帰ったところで咎める人間はいない。
    「………最高の誕生日プレゼントだな」
     無意識に口に出してから思い出した。今日は僕の十六歳の誕生日だ。



     僕は急いで図書館から帰ると、使用人の目を掻い潜ってなんとか自分の部屋に滑り込んだ。この家に自分を気にかける人間が存在しなくとも、バレれば告げ口をされて『お仕置き』の口実を与えかねない。それは何としても避けたかった。
    (よかった。誰にも見つからなかった)
     ほっと胸を撫で下ろして一安心する。息が落ち着いたところで部屋の電気を点け、まだ新しい制服のブレザーに手をかけた瞬間だ。コンコン、と控えめに部屋の扉がノックされる。そんなふうにしてこの場所を訪れる人間は一人だけだったから、僕は慌てて着替えの手を止めて扉を開けた。予想どおり、見上げた先では家庭教師の男がにこりと笑顔を浮かべている。
    「こんばんは、坊ちゃん」
    「あ………こんばんは。どうしたんですか?今日は授業のない日だったと思うんですけど」
    「うん。授業はお休みだけど、今日は君の誕生日だろ?」
     男は躊躇いなく僕の部屋に入ると、後ろ手に扉を閉めて鍵までかけた。それから悪戯っぽく笑い、手にしていた手提げ袋から緑色の酒瓶を取り出す。
    「俺の優秀な生徒が十六歳になったお祝いに来たよ。どうせ他の家族は旅行に行っていないんだし、どう?お兄さんと秘密で一杯やろうよ」
     目の前に差し出されたそれを見つめて、僕はなんと答えたらいいのか分からなかった。父親から多額の報酬をもらっているとはいえ、この家で唯一僕を無視しない人だ。酒なんて別に飲みたくはなかったけれど、彼に嫌われるのは避けたい。少し迷ってから、結局僕は「ありがとうございます、いただきます」と曖昧に笑って小さなグラスを受け取った。
    「坊ちゃん、お酒は初めて?」
    「はい」
    「さすが優等生だね。でも、もう少し遊んだっていいんじゃないか?」
     促されるまま、無理やり流し込んだ初めてのアルコールが喉を焼く。途端にくらりと歪んだ視界の先で、家庭教師が意味ありげに微笑んだ。ソウル大学の四年生。すでに法曹界でエリート街道を進む切符を手にした男。品行方正を人間にしたかのような男が、未成年に酒を勧めるようなタイプだとは思わなかった。
    「………せ、んせいこそ。放課後は週に四回も授業があって、ろくに遊べないんじゃないの」
    「残った三日間で十分遊んでる。それに、君に会えるのをいつも楽しみにしてるから」
     空いたグラスに酒が注がれる。僕はそれを飲み干す。何度か繰り返しているうちに、酷く身体が熱くなって、思わず制服のネクタイを緩めた。
    「先生、ごめんなさい……ぼく、すごく、あっつくて……」
    「飲み過ぎだな?初めてなのに、いけない子だ」
     ふわふわと揺れる上半身を抱き止められ、そのままベッドに連れていかれる。水が欲しい、そう呟いた言葉は無視された。あつい、あついと譫言のように繰り返すと身体からブレザーを脱がされて、ネクタイも解かれ、ワイシャツのボタンをひとつずつ外されていく。
    「………せん、せ?」
     すっかり酔いが回った頭でも、何かがおかしいと直感した。必死に頭を起こしてのしかかる男を押し返そうとする。しかし、体格差と酔いも手伝ってびくともしなかった。
    「っ、先生!なにするんですか、離れて、はなれてくださ──……」
    「坊ちゃんは本当に素直で真面目で綺麗な子だよ。お父様に大切されていない理由が全く分からない。俺なら君に寂しい思いなんてさせないのに」
     そこから先の記憶は地獄だった。無遠慮な手が全身を這い回り、ベッドの上で硬直したままの僕を撫で回す。引き結ばれた唇をべとべとに汚されて、ただ一方的に欲望の吐け口にされた。日付が変わる頃に満足したらしい家庭教師の男が、言葉を失って呆然とする僕の姿をスマホのカメラに収めているのをぼんやりと眺める。すると彼はニコリと笑って「また色々教えてあげるよ」と言った。

     家庭教師の言う「また」は、結果的に半年で三度僕を襲った。一度目と二度目は、僕の全身を撫でて勝手に興奮した男が脇や股を使って自慰をしたようなものだが、忘れた頃にやってきた三度目は口に咥えるように教え込まれた。それはいつも家族が僕抜きで旅行に行った時にやってきたので、他に行くあてもない未成年の僕には防ぎようもないことだ。おまけに写真まで撮られていれば、抵抗する術などないに等しかった。
    「ん、んっ………ふ、ぐっ、んぐっ」
    「上手、上手だよ。君はやっぱり優秀だな……物覚えがとてもいい」
    「ぅ、んッ!ん………く、ぅ」
     奥を突かれては吐き気を催すのをなんとか和らげるため、無意識で喉を開く。殴られたりするのが恐ろしくて、教えられたことを必死に覚えて繰り返すように奉仕をした。
    (……それに、やり方なら知らないわけじゃない)
     僕は一度目と二度目の間にひとつの記憶を取り戻したが、それが幸いだったのかは分からない。いったいその出来事がどうやって起こり得たのかの詳細までは思い出さなかったものの、前世の僕も十六歳の歳に身体を汚されたらしいのだ。どうして王位継承者の世子がそんな目に遭うのかは全く理解できない。しかし、夢の中で前世の僕は身体を縛り付けられ、身動きが取れない状態で数人の男に犯されていた。目覚めた瞬間に感じたのは嫌悪でも絶望でもなく、紛れもない安堵。だって、僕は彼よりもずっとずっとマシな状況だろう。
     可哀想なイ・ホン。前世の僕が惨めであるほどに、僕はこの地獄で救われる。


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