手品 VRCに収容されて、もう両手じゃ数え切れなくなったYはいつもの収容服に着替えてロッカーを後にした。
ここ数ヶ月は大人しくしていたせいで、VRCに来るのも久方ぶりになってしまった。
Y談波を効率的にかつ一番可笑しく被害を与えられるか、他の催眠との組み合わせはないか、なんて考え事をしていると、ついうっかり行きたい場所の階を間違えてしまった。
「やれやれ、私も歳かな。」
そう呟いて、階段を昇り目的の場所へと辿り着く。すると、いつもの顔馴染みの声がした。なにやら盛り上がっているようで、ゼンラニウムが楽しそうに拳に拍手を送っている。
「さすがだな。」
「何やってるのかね。」
「おお、実は今手品を観ていたのだ。同胞は魔法使いみたいな手捌きだぞ。」
「へえ、ケンくんがねぇ…。」
「はい、おっさん。こっち見て。親指が…ハイ!抜けちゃった!」
そう言って定番の手品をやってみせる拳に、Yは「上手いね」なんて笑ってみせた。
そうして拳は、幾つかの手品というな宴会芸を披露して見せた。
キラキラさせた目で拳を見つめるゼンラニウムの隣で、Yが拍手をしながら楽しそうな笑みを浮かべた。
「では、私も手品とやらを見せようか。じゃあまずはお馴染みの杖を出してっと…。」
「待って待って、おっさん。その杖どっから出したん?」
「ポケットからだよ。」
平然とそう言ってのけるYに、拳は「いやいや」とYの肩を掴む。
「いやそれ、ポケットには入らない長さじゃない??四次元にでも繋がってんの?」
「ふふ、秘密。」
「のぶ◯のドラ◯もんじゃん!」
「いいからカード選んでよ。」
「いや、これ杖が気になってカード選べないわ。」
「小さいこと気にする男はモテないよ。」
「わりとデカイ事じゃねえ?」
そう返すと、Yはため息をついてカードをその辺に投げるように捨てた。
「やーめた。ケンくんあとは片付けてね。」
そう言って、杖を手に収容部屋に戻っていったYの背を見送りながら、ゼンラニウムが残念そうな声を出した。
「ムン…同胞の手品見てみたかった。」
その声に罪悪感からか、拳はバツが悪そうに頭を掻いた。