たこ焼きどこだ風呂から上がったヴォックスは驚いた。
「俺に言うことはないか?ヴォックス・アクマ。」
仁王立ちするファルガーの、剣幕に。
「なんの事だ。」
「正直に言えよ、白々しい。」
「身に覚えがないと正直に言ってるだろ。お前こそ要件を早く言え、映画を見たいんだ。」
「物忘れの激しいヴォクシーのために言ってやるよ……」
「俺の、たこ焼き、どこやった?」
「……は?」
「ここに!置いたはずなんだ!!なのに無い!ってことはお前以外誰がいるんだ!食ったのか?!俺に断りもなしに!!」
「いや……俺が海鮮をあまり食わないのは知ってるだろ?……それにさっき、」
「はぁ……ヴォクシー。早く正直に言った方が良い、まだ新しくたこ焼きを奢ることだけで許してやる。」
「おい、話は最後まで」
「お前のことだ。どうせ嫌がらせに隠したり捨てたりしたんだろ?!」
ヴォックスの中で、何かが切れた音がした。
「俺が食品を悪戯に捨てるだと……?お前こそその失礼な発言を詫びるべきだ。」
「っ、なんだよ、急にキレて。」
「黙っていれば俺に対して侮辱とも取れる発言をペラペラ並べて、人の話を聞くことぐらい覚えろ!それともなんだ?馬鹿だから鼓膜まで機械にしてしまったのか?あれは震えなければ意味が無いというのに。」
やれやれと手を上げるヴォックスの視線は、煽る口調は軽やかにも関わらず、鋭くファルガーを捉えていた。
「〜〜っ、もういい!お前とはしばらく口を聞かないからな!俺に話しかけるなよ!!」
負け犬のような台詞を吐いたファルガーの顔は赤く染まっていた。
「勝手にしろ。」
ファルガーは怒りに任せて扉を閉め、自室のベッドへと飛び込んだ。
コンコンコン。
ノック音と静寂。
誰だと声を掛けるが返事はない。
がちゃりと開く扉を覗き込むように入室するファルガー。1日も経てば流石にいつもの顔色を取り戻していた。
「昨夜の発言を詫びに来たんだ、ヴォクシー。いくらお前が歳でも自身の好みまで忘れることは無いだろう、愚かだったよ。だかr」
「出ていけ。」
「おい、お前の望み通り詫びに来たんだぞ。」
「俺はレガトゥスに用はない。俺に詫びるのはお前ではなく、ドがつくMで生意気でどこかポンコツ、だがこの鬼である俺に、恐れず何時までも牙を向けてくる餓鬼、そして俺のパートナーの、ファルガーだ、お前じゃない。だから出ていけ。」
ヴォックスの答えは想定外だったのか、呆然と立ち尽くす。そしてすぐに気がついた。『鬼の機嫌を損ねてしまったのだ』と。
「わ、悪かった。」
「誰だ。」
「俺、が」
「謝罪する内容は何だ。」
「俺の勘違いで、ヴォクシーを責めたこと……」
「そうだよな。お前は昨夜酔っ払っていたから、食いながら帰ってきたのを覚えていなかったんだよな。その机に置かれていたゴミを、俺が、捨ててやったのに、なぁ?」
「ホントに、すまない、ヴォクシー。」
いつもの艶やかな低音と正反対な音。
ヴォックスはただ問いているだけなのに、まるで尋問を受けているかのような緊張感が張りつめる。
ー沈黙。
ただそれだけがリビングを支配していた。
いきなり立ち上がるヴォックスにびくりと体が震えて思わず目を瞑る。
パサり、という音に違和感を覚えて顔を上げれば頭上から紙切れが1枚落ちる。
ファルガーが気に入っているたこ焼き屋のデリバリー用チラシ。
「俺も強く言ったからな、好きなのを頼め。」
「ヴォクシー、怒ってたんじゃ……?」
「これでも話し合いの場を設けなかったことに反省はしてるんだ、少し冷静になれなかったからな。それと、」
お前の珍しい顔が見れたからな、と零れた言葉は愛を孕み、ファルガーの顔は赤く染った。
「ヴォクシー、おまっ……ぁ、くそっ。端から端まで頼んでやる!」
「そんな量喰えるわけないだろ。勿体ない、やめろ。」
顔を見合わせればいつもの2人。特徴的な笑い声が重なり、チラシがクシャりと音を立てた。
次の週には共に楽しむためにたこ焼き器を買い、粉まみれになりながらタコ無しのたこ焼き作りに挑戦する2人の姿があった。