Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    5107time

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    5107time

    ☆quiet follow

    『錬鉄さんと御子さま!まつり2』開催記念
    エミクー&旧槍旧剣前提
    エミ+プニSS 『君の居る朝に』

    #れんみこまつり

    『君の居る朝に』 穏やかな寝息に、心音。
    それと、少し小煩いいびきが聞こえる。

     昨晩、年喰った俺とエミヤに誘われて、聖剣使いも連れて一緒に飲み会をする事になった。カルデア内のエミヤの自室で、彼の作る美味い飯と年喰った俺が持ち込んだ酒に舌鼓みを打ちながら、とても楽しい時間を過ごした事だけは事確かに覚えている。

     腕の中では、聖剣使いが綺麗な寝顔を晒して、穏やかに眠りに就いている。年喰った俺のいびきが、静謐なエミヤの部屋の静寂を騒々しく掻き乱していた。
     俺も聖剣使いも互いに服は昨日着ていた軽装のままだったので、俺達は酒をかっ食らっているうちに寝落ちてしまったようだ。
     ふと、寝返りを打とうとして、何かにぶつかる。
    それは、誰かの背中だった。背に触れる身体は、横向きで寝ているようではあるが随分と行儀の良い寝相で、心音は穏やかに脈打っている。年喰った俺は、あまり寝相は良くなかった筈だ。
     ならば、俺と背中合わせで寝ているのはエミヤか。
     背中合わせの彼と、腕の中にいる聖剣使いを起こさないようにゆっくりと首だけで振り返れば。緩やかに下ろした白い髪と小麦色の肌が、視界の端に見えた。その隣で大の字で手足を広げ、大口を開いて、眠りこける年喰った俺の姿もある。彼らも寝巻に着替えることなく昨日の服のままだったので、そこまで羽目は外さずに、俺達と同じように眠りに就いたようだった。
     寝床から離れた場所。テーブルの上には、途中まで片付けた様子のある飲み会の跡が残っていた。残った酒の肴はひとつの皿に纏められ、そっとラップを掛けられていた。酒の空き瓶や空き缶は綺麗に並べられ、汚れた食器類もきちんと重ねられている。朝になったら、片付けるつもりなのだろう。
     出来る事なら、聖剣使いや年喰った俺に後片付けをすべて押し付けてほしいと願う。俺は年喰った俺達に何度も逃げられて、何度も食堂の手伝い当番を肩代わりしているから、今日くらいはゆっくりと眠りに就いておきたかった。
     俺はエミヤの背に少しだけ凭れるようにする。起こさないように、慎重に。だから、些細なものではあったのだが。聖剣使いとは違う、エミヤの背中の頼もしさと安心感に身を委ねる。
     カルデアに来た時からずっと、俺を支えてくれていた背中だ。


    「一九九九年にあった聖杯戦争を知らないか」
    「男のアーサー王を見掛けなかったか」
     新たなマスターである藤丸が特異点Fを征く最中。俺はひとりカルデアで、次々に召喚されるサーヴァントに同じ質問を繰り返していた。そこに現れたのが、エミヤという男だった。
    「君も、ランサーのクー・フーリンかね?」
     まだ真名もクラスも何も明かしてはいないのに、初対面で言い当てられて俺は正直、驚いた。
    「済まない。私も一九九九年の聖杯戦争は知らないし、女の騎士王にしか心当たりは無いのだが。君があまりにも似ていたもので」
    「は?」
     まさか、こんな所で男にナンパなどされるとは思っていなかったので、俺はあんぐりと口を開け、赤い外套の男を見遣る。一応、クー・フーリンとしての記憶の一部は座から得てはいるのだが。俺の記憶には、目の前の男の情報は何一つ無かった。
    「君と同じように、私も人を探している。腐れ縁の筈なのだが、どうにも見当たらなくてね」
     話を聞けば。どうやら、俺と同じランサーのクー・フーリンを探しているのだという。俺より少しだけ年を喰った俺。
     何故かキャスターでクラス召喚されたという俺は、既に藤丸の側に居るのは知っているが。確かに、もう一人のランサーの俺は、まだカルデアに居なかった。
    「互いに探し人が見付かるまで手を組まないか? えっと、君は」
    「プロトタイプ。プロトで良い。何故だか知らんが。此処じゃ、そう呼ばれてる」
    「分かった。プロト、よろしく頼む」
     まさかこんな所で手を差し伸べられるとは思っちゃいなかった。小麦色の、なかなかに戦士然とした掌を握り締めたあの日、俺は初めて、このカルデアに召喚されてよかったと思えた。
     しかしながら、エミヤと腐れ縁だという年喰った俺はその後、割とすぐにカルデアに召喚されてきたので、俺達の共同戦線は特に張られる事も無く有耶無耶になってしまったのだが。
     それでもエミヤは、一九九九年の聖杯戦争を知るサーヴァントが俺しか居ないと腐る俺を時に見守り、時に叱咤し支え続けてくれていた。
    やっと聖剣使いが現れ、時が経った今でも、エミヤは俺達にとてもよくしてくれている。その心遣いが本当にありがたかった。


     聖剣使いを腕に抱きながら、エミヤの背に凭れて、瞼を閉じる。
    なんと贅沢なことか。やや慣れない緊張感はあるのだが、とてもよく眠れそうだった。
    「いつもサンキューな、エミヤ。すげぇ感謝してる」
     最近はなかなか面と向かっては言えなかった。気恥ずかしいし、年喰った俺達や聖剣使いが近くに居る手前、言い難かった。
     周りが眠っているのを良いことに、俺は言葉を重ねる。
    「俺、アンタに会えて本当によかったと思ってる。これからもよろしくな。コイツにも、美味しい飯の作り方とか色々教えて、しごいてやってくれな」
     そこまで言葉を連ねて。気恥ずかしくなり、俺は布団を引き寄せ、聖剣使いの髪の中に顔を埋めた。エミヤと聖剣使いの身体が程良く温かくて。俺は珍しく幸せな気分で、再び眠りに就いた。


       ***


     目は覚めていた。
     確かに数秒前までは眠りに就いていたのだが、何かの虫の知らせでも感じたかのように目を覚ましていた。このまま起き上がって、昨晩の後片付けと朝食の仕込みをし始めてもよかったのだが、特に理由もなく微睡んでいる。
     ふと、プロトが寝返りを打とうとしたのか。こちらに凭れ掛かってきた。これが此方のランサーならば、問答無用で押し返してやるところなのだが、彼の好きにさせてやる。
     揃いも揃って同じ顔の男に弱いのは、確かなのだが。私の目の前で、手足を大きく広げ大の字で眠りこける馬鹿者とは違った意味合いで、私は彼の事を好いていた。


     あれは、いつの事だったか。
    カルデアの食堂で後片付けをしている最中、遅れて朝食を取りに来たプロトにまかない料理と珈琲を出してやった後の事だった。
    「好きだ。俺、アンタの事が好きだ」
    唐突にプロトがそう言い放ったので、私は驚いた。私の知る青い槍兵と同じ顔で、声質はやや違うが同じ声音で告白されて、眩暈を覚えた。またやってしまったか、とクー・フーリンとの縁を呪いたくもなった。
     それを察したのかどうかは知らないが、プロトはすぐに気恥ずかしそうに視線を泳がせた後に、訂正を入れた。
    「あー、違ぇな。そうじゃなくて、叔父貴や師匠と同じくらい好きって意味でだな。えっと、だから安心してくれよ。変な意味じゃねぇんだ、コレは」
     おかしいくらいしどろもどろな様子を見せるプロトに、私はただただ大人ぶって穏やかな微笑みを返す。
    「豪傑であるフェルグスやスカサハと同等に並べられるとは思わなかった。大英雄である君にそこまで尊敬されているとは思いもしなかった。光栄だ、有難う。プロト」
     プロトは大概、世の理不尽に振り回され、憤り、何処か不満げな顔をしている事が多いのだが。その時、垣間見せてくれた笑顔に、私は見惚れてしまった。無論、恋心とは違う。
     私はその時、記憶の奥底にあるじいさんの嬉しそうな笑顔を思い出していた。彼の喜ぶ顔をもっと見たい。そんな遠い記憶の感情を思い起こさせてくれたのが、プロトだった。
     ほぼ忘れ去っていた私が言うのもなんだが。衛宮切嗣と同じくらい、私もプロトの事を好いている。ランサーと同じような間柄にはなれないが、とても大切なひとには変わりない。
     男の騎士王がカルデアにやって来てからは、プロトは前とはまた違った不服そうな顔を見せるようになったが、何処か嬉しそうで活き活きとして見えた。
     もっと彼が喜ぶ姿を、傍らから見守っていたい。そう願うのは、傲慢だろうか。


     そして、そんな想いをいつまでも燻らせている私を見兼ねて。
     ランサーは「若いのとゆっくり話がしたいんだろ? お前さんの目を見りゃ分かる。いいぜ。なら、俺も一肌脱いでやるとしますかねえ」と息巻き、金色のアーチャー・ギルガメッシュから上等な酒を大量に巻き上げて帰ってきたのだった。
     酒の力をもってしても、私がプロトへの感情や積もる話を吐露することは無かったが。昨晩はとても有意義な時間を過ごせたように思う。男の騎士王の隣で屈託なく笑い、酒を呷るプロトの姿を眺められて良かった。
     私は私で、ランサーが急に彼らに変な事を言い出しやしないか、やや気が気ではなかったのだが。ランサーは始終「おう、若いの! もっと飲め飲め! 騎士王サンもな、遠慮せず食えよ!」と絡むだけだった。
     プロトと騎士王殿が酔い潰れて眠りに落ちた後。
    「まるで甥っ子の成長を見守る叔父だな」と嗤うランサーに。
    「可愛いさ。昔のオレと比べたら、若い君のがね」と返し、飲み会の後片付けも有耶無耶に、ベッドへと引き摺られて。
     そして、今に至るのだった。
     目が覚めてしまった手前、再び眠りに就くことができずにただただ横になっていると。私の背に体重を預け、穏やかな寝息を立てていた筈のプロトが小声で何事かを呟いた。

    「いつもサンキューな、エミヤ。すげぇ感謝してる」

     急な事だったので、寝言かとも一瞬思ったのだが、すぐに寝言ではないと分かる。続く言葉に、静かに聞き耳を立てる。
     私は、悪い大人だ。ここで眠ってしまえば良かったものを、狸寝入りをしてプロトの言葉を余さず最後まで聞いていた。私が眠っていると信じて、紡がれる言葉をすべて聞いていた。
     やや後ろめたさはあるものの。それでも、胸のすくような気持ちに至っていた。
    話し合えた訳じゃない。けれど、今のままで良いのではないかと、思えた。下手に何かを伝えて、この関係が壊れてしまうよりは。これで良いのではないか。
     私とランサーが目を見れば分かるのと同じように、彼と騎士王殿が勝手知ったるのはお互い様なように。私とプロトも、強い絆で繋がっていてくれたら良いな、と願う。
    眠れはしないだろうが、再び瞼を閉じる。日の出まではまだ時間がある。それまで、こうして微睡んでいよう。
     その後は昨夜の後片付けと、とびっきりの朝食を。


       ***


     朝。水の音、刃が何かの葉を切る音、食材を炒める音。湯の沸いたヤカンが鳴く音。
     小気味良い、調理の音が耳に届く。
     大の男四人が川の字で眠っていたせいで、あんなに狭かったベッドは、広々としていた。少し間を空けた、隣には年喰った俺の背中が見える。
     キッチンには、エミヤと聖剣使いが並んで立っていた。居間のテーブルの上は、昨日の飲み会の跡は何も残っていない。山のように積まれたパンと、同じように盛られたポテトサラダの山頂だけが此処からも見える。
     俺は夜中に少しだけ目を覚ましたせいで、まだ睡魔が抜け切っていない。小さく呻きながら、身を起こすと。隣の年喰った俺もほぼ同じような動作で起き上がるところだった。まるで双子だ。
    「んー、くそ。まだちょっと眠いな……」
    「あー、昨日飲み過ぎたな。こりゃ……」
     年喰った俺の呻き声で此方に気付いたエミヤと聖剣使いも同時に振り返った。
    「「おはよう、ランサー」」
     エミヤと聖剣使いの声が綺麗に重なる。
    「朝ごはん、できてるよ」と聖剣使いは言う。そんなのお前さんの山盛りポテトサラダを見りゃ分かる。
    「ランサー、しじみの味噌汁があるから飲むと良い」
    「おう、そうする……。頭がクソ痛ぇ……」
    「君は、昨日釣った魚の焼き魚と白飯でいいかね?」
     年喰った俺は先にベッドから這い出し、ふらつきながらコンロに掛けられた小鍋へと向かう。何かしらを付けてくれ、というハンドサインなのか片手を上げたランサーに、エミヤはやれやれと呆れながら追加注文されたものを準備する。
    「プロトと騎士王殿には、鮭のムニエルと焼き立てのパンを用意している。それと、プロト。君には今日は少し濃い目に珈琲を淹れよう。それで、いいかね?」
    「おうさ、そうしてくれ」
     俺もベッドから降りて、一足先に食卓の椅子に付く。山盛りのポテトサラダと焦げた目玉焼きが添えられた鮭のムニエルを傍目に見ながら。
     ひとつくらいはつまんでもいいだろ、とパンに手を伸ばす。焼き立てで美味い小振りなクロワッサンを幾つか齧りながら、此処まで届いてくる珈琲の芳香にいい感じに腹が減る。
     モニタが映すレイシフト先の景色は。今日も、釣り日和な晴天だ。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💙🙏❤❤👏👏👏👏👏👏👏👏❤👏❤💙💙❤❤💙❤💙👍👍👏😍❤👏👏👏💞😍🌋💖❤👏👏💖💖💖💗💙👍👍👍🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works