ラのモデルパロ「Hi,シュウ」
次のファッションウィークに向けてシュウはオーディション会場をハシゴしていた。
いくらかオーディションを受けていると自然と顔見知りができて来る。
ヴォックスはそのうちの一人で、事務所こそ違うけれどよく同じコレクションで顔を合わせることが多かった。
「やあ、ヴォックス。調子はどう?」
「まあまあと言ったところかな。今回も君と歩くことができるといいんだが」
「んはは、自信あるみたいな言い方だね。でも、実際に君は素晴らしいモデルだから僕も頑張らないと」
さり気なく腰に腕を回し、エスコートをするような仕草を見せるヴォックスを躱しながら廊下を歩く。
ヴォックスは、神に愛されたと言ってもいいほど理想のモデルだ。わざわざオーディションなど受けずとも、彼にランウェイを歩かせたいデザイナーなど履いて捨てるほどいる。
例えそれが、パリを代表する世界的に有名なブランドであってもだ。それほどまでにヴォックスの実力は素晴らしい。
けれどどういうわけか、シュウの受けるオーディションには大体ヴォックスがいるのだ。
しかも、ヴォックスが居るオーディションはシュウの採用率も高い。それ故に口さがないモデルたちの間では『ヴォックスの腰巾着』『ヴォックスの威光を借りた雌犬』などと言われているが、シュウはそれを気にしたことがなかった。
事実ではないし、厳しいレッスンを重ね努力をしてきた自分を恥じる必要を感じなかったからだ。
そういう姿勢を、ヴォックスを始めとするシュウの周りの人間は好感を持ち、何かと気にかけていることをシュウは知らない。
「今回のオーディションはきっと荒れるぞ」
「そうなの?」
「ああ。何せあのルカ・カネシロも出ている」
「え!?」
シュウはヴォックスの言葉に面食らう。ルカ・カネシロと言えばアバンギャルドなブランドのショーで注目を集めている若手のモデルだ。
内から滲み出るルカの明るさがウケ、あちこちからオファーが殺到していると事務所の後輩が話していたのを知っている。シュウ自身も実際に彼が歩く姿を見て、酷く衝撃を受けたことを覚えていた。
そのルカ・カネシロが今回のオーディションに参加しているというのだ。
「え、だってルカってこう言ったら言葉は悪いかもしれないけれど…ちょっと若すぎない?」
「私もそう思うんだが、本人がやる気らしい。まあ、若者が新しいことに挑戦する姿は眩しいからな。これも経験の一つとなるだろう」
「ヴォックス…、君いったい何歳なの?」
「君は私にもう少し言葉を選ぶべきでは?」
いつもの軽口を言い合いながらホールの前まで来た。
シュウは深呼吸をひとつして、集中を深めていく。
ヴォックスはこの瞬間がたまらなく好きだった。
先ほどまでのやわらかさは姿を消し、モデルとしての闇ノシュウが現れる瞬間が見たくてわざわざ受けなくてもいいオーディションに参加しているのだ。
自然と口角が上がるのがわかる。
「ヴォックス、送ってくれてありがとう」
「レディのエスコートをするのは紳士の役目さ。さぁ、いっておいで」
ヴォックスはシュウの背中を押し、見送る。
シュウが入ることでホール内の空気が変わったことがわかった。そしてヴォックスは確信する。
きっと今回のコレクションもシュウと歩けるのだと。安堵と希望を胸にヴォックスは会場を後にした。
数日後、送られてきた合格通知とモデルの一覧表を見てシュウは目を見開いた。
ヴォックス・アクマ、アイク・イーヴラント、ミスタ・リアス、ルカ・カネシロ、闇ノシュウ
新進気鋭の若者から、名前を知らない者はいないであろう大御所まで羅列されていた。その中に自分の名前が記載されているのは何かの間違いなのではないかと目を疑ったのだ。
自分に出来得る限りの努力はするけれど、シュウは自分の事を面白みのない華が欠けているいっそ使い勝手のいいモデルだと思っているのだ。
その自分が個性の塊のような彼らと同じグループに入るなど、誰が考えられようか!
慌てて事務所に電話をして間違いではないのかと、問い合わせる。
電話に出たマネージャーも、社長も驚きはしたものの、シュウならば彼らに引けを取らないと豪語した。念のためと問い合わせてもらったが間違いなどなかったと言われ電話を切った後も、事態を飲み込めずに呆然としてしまった。
神に愛されたヴォックス、やわらかい雰囲気の中に芯の強さを見せるアイク、静と動のアンバランスさが売りのミスタ、底知れないパワーと実力を兼ねそろえたルカ。果たして自分の武器は何だろうかと考える。
ストイックにウォーキングのレッスンを重ねることしかできない自分が、彼らに埋もれてしまわないか不安になる。努力は裏切らないけれど、それでもトップと競えるものではない。
いつかのショーで、ヴォックスと同じランウェイを歩いた時があったけれど映像を見て自分に落胆した苦い記憶が蘇る。同じ思いはするものかと、シュウは今の自分にできる最善を尽くすために立ち上がった。
その瞳には強い意志が宿っていた。
事前に説明したい事があるとブランド側から招集がかかったのは、シュウがちょうどレッスンを終えた時だった。
三日後に集まってくれとマネージャー経由で連絡を受け、スケージュールの確認をしようとカレンダーを確認する。
けれど、優秀なマネージャーはスケジュールの調整をしておいたと言って新しいスケジュールを共有してくれていた。シュウは、仲間に恵まれているなとつくづく思う。
たいして知名度のないシュウを見つけ、育ててくれた事務所の仲間を心から信頼していた。だからこそ、彼らの信頼を裏切るようなことはしたくないと思う。
三日後のミーティングで明確なヴィジョンを描こうと、考えシュウはその日は早めに帰宅し休んだ。
同時刻、あの憧れのモデルに会えると歓喜に湧く四人のモデルが居たことは知らずに。
三日など、あっという間に過ぎてしまう。
シュウは案内されたアトリエの質素なドアの前で立ち尽くしていた。いかにハイブランドのアトリエであろうと、シンプルで使い勝手を重視した簡素な造りは変わらない。
では、何故シュウはそのドアを開けられずにいるのか。答えは簡単だった。偶然ドアの前で顔を合わせたルカ・カネシロに熱烈なハグをされ動くに動けなくなっていたのだ。
「POOOOOOG!!本物!?本物のヤミノ・シュウ!?」
「え、あ、うん。闇ノシュウです」
「POOOOOOOOOOOOG!!」
廊下に響き渡るほどの声で“ぽぐ”と叫ぶルカは、抱きしめる腕に力を籠める。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、あまりの力の強さに息ができずシュウはルカの背中を叩く。
「あ!ごめん。嬉しくてつい」
シュウの苦し気な表情に気が付いてルカは慌てて腕を解いた。それでも距離は相変わらず近く、彼の纏う若者らしいマリン系の香りが鼻孔をくすぐっている。
「オレ、ルカ・カネシロ。20年のコレクション見てずっと憧れてたんだ!絶対同じランウェイに立ちたくてオレ、オレェ…」
「え、泣かないでよ、ルカくん?どうしたっていうのさ」
突然泣き出したルカに今度はシュウが慌てる番だった。まさか初対面の後輩に泣かれる日が来るとは思わなかった。ポケットからハンカチを取り出して、溢れる涙を拭ってやる。
するとルカは、さらに声を上げて泣き出しシュウは何か悪いことでもしているかのような気分だった。
「お前たちは何をしているんだ?」
ふいにドアが開き、聞きなれたヴォックスの声が聞こえてきた。
まさに天の助けと言わんばかりのヴォックスの登場に、シュウまで泣き出しそうになった。
「ヴォックス、たすけて」
わんわんとシュウの手ごとハンカチを握りしめて泣くルカと、困惑したきりのシュウを交互に見たヴォックスは大体の事情を察することができたらしい。
「ルカ、シュウが困っているだろう。泣き止むんだ」
「だって…本物、シュウが、目の前にいるぅ~~~…」
「わかったわかった、嬉しかったんだな。わかるぞ。だが、その手を放して早く中に入りなさい。クライアントを待たせるつもりか?」
ヴォックスの言葉に、ルカは渋々シュウの手を放し借りたハンカチで目元を拭う。プロ精神で決して強く擦らず、そっと目元を抑える手つきが先ほどまでのルカの姿とあまりにかけ離れていた。
それが少しだけ可笑しくてシュウはバレないようにくすくすと笑った。
「もう大丈夫?」
ルカの顔を覗き込みながら、目が張れていないか指先で目元をなぞる。
少しだけ熱を持ってはいたけれど、すぐに納まるだろうと安堵したがヴォックスもルカも奇妙なものでも見るかのような目でシュウをみるものだから、シュウはいたたまれなくなってぱっと手を離してミーティングルームに逃げ込んだ。
中には既にアイクとミスタも揃っていて、興味深そうにシュウの入ってきた入口を見ていた。
「初めまして、闇ノシュウです。今日はよろしくね」
気まずい空気をどうにかしようと、なるべく何でもない風を装って挨拶をする。
なんとなく、アイクもミスタも泣いているルカよりもシュウに注目をしているような気がしていたたまれない。新人をいじめる酷い奴だとでも思われているのだろうか、とシュウは不安になった。
「ぁ、僕はアイク・イーヴラント。何度かシュウのショーを見てるんだ。会えてうれしいよ」
「ミスタ・リアス…。よろしく」
アイクは友好的に、ミスタは目線を反らし小さな声で応えた。
けれど、頬が僅かに赤く染まり照れているのが手に取るようにわかってしまう。嫌われているわけではないことがわかってシュウは胸を撫で下ろす。
一癖も二癖もあるメンバーたちとうまくやっていけそうだ。
「ルカはどうかしたの?」
「それが、話してたら急に泣き出しちゃって…。僕なにか悪いことしちゃったのかな」
「ない!そんなことない!絶対ないから、シュウは悪くない!」
アイクとシュウの会話が聞こえたのだろう。ルカが全力で否定する。それをヴォックスもミスタもわかるぞ、とでも言うかのように頷いた。
「オレが感極まって泣いちゃっただけなんだ。憧れのシュウに会えてうれしくて。ハンカチありがと。新しいの買って返すね」
「え?あ、ううんハンカチなら沢山あるし、それはルカにあげるよ。泣き虫には必要でしょ?」
憧れというルカの言葉をうまく理解できずにさらりと流し、ハンカチをプレゼントすると伝えればルカは再びシュウを腕の中に閉じ込めようと突進してきた。
それを襟首を掴むことで留めたヴォックスには、頭が上がらない。
そんな話をしていると、ドアから今回のコレクションのデザイナーである男が控えめなノックと共に入ってきた。
黒いTシャツに着古したデニム、足元は動きやすいようにスニーカーを履いている。
「やあ、今日は集まってくれてありがとう」
人好きのする、けれどどこか控えめな笑みを浮かべた男はマイペースに好きな席に座り次のコレクションの事なんだけど、と話し出す。
シュウたちも席に着き、男の話に耳を傾ける。
「今回のコレクションはアーティストとのコラボを予定しているんだ。色盲のアーティストだ。彼の名前くらいはもしかしたら聞いたことがあるかもしれない」
テーブルの上に置かれたのは数枚の写真。どれもこれもモノクロで、彫刻、デッサン、日本の有名なアニメキャラクターの彫刻などが印刷されている。
「あ、僕この人知ってる。ポケモンとコラボしている展示会に行ったばかりなんだ」
「いい趣味をしているね、アイク。そう、今回は彼とコラボをするんだけれどストーリー仕立てにしたいと思って。君たちには空を演じて欲しいんだ」
「空?」
随分と抽象的な表現をするものだ。どういう意味かと考えあぐねていると、数人のスタッフが仮縫い状態だという衣装を人数分運び込んできた。
「……きれい」
はっと息を飲むような繊細な色使い、直線的なラインにたなびく帯のような装飾、どれも白を基調としたもので神々しさすら感じる。
「これはルカ、君の衣装だ。良く晴れた日の空、こっちはアイクの夏の空に浮かぶ入道雲、これはミスタの鮮やかな黄昏の夕日、そしてこれがシュウとヴォックスに着てもらいたい朝焼けと陽が沈む直前の一瞬の青だ」
男は楽し気に衣装を指さし語った。この衣装は全て彼が手ずからデザインしたのだという。オーディションを見て、絶対にこの五人に着せようと思ったのだと熱弁する。
「君たちはそれぞれ素晴らしい個性を持っていると思う。それは私のイメージする舞台にぴったりで、こんなにうつくしい人間がいるのかと目を疑ったんだ。…こんな言葉では心もとないかな、すまない僕は口下手なんだ」
はにかむ男の言葉は確かに抽象的ではあったものの、その作品たちから何を創り上げたいのかがわかった。ステージの装飾デザインや、音楽データ、ポートフォリオに至るまで今出せる全ての情報を渡してくれた。
それぞれ持ち帰り、自分たちなりの服の見せ方を模索することになった。いざ帰ろうと席を立とうとした時、急に皆そわそわと落ち着かない様子を見せ始めた。
「どうかしたの?」
「せっかくだから連絡先交換しない?同じ最終グループだし、お互いのウォーキングを共有しておいた方がリハでもやりやすいと思うし」
そう言いだしたのは意外ににもアイクだった。確かに、アイクの言う通り五人で一つの形を作るのならば、きっとその方がいいだろうとシュウはその提案に頷いた。
「ツールなにがいい?Discord?Slack?」
「Discordがいいな。多分一番籠ってることが多いし」
「ふーん、なんか以外。シュウってあんまし他のモデルとつるまないイメージあったわ」
「そういうわけじゃないけど、どっちかっていうと家でゲームしてたりする方が好きなんだよね」
「そうなんだ。ところでシュウ。このアイコンは一体何…?」
「ん?バナナのキャラクターだよ」
「そ、そう…個性的でかわいいね…」
最初のぎこちなさはどこかへ消え、同じ作品を作りあげる仲間として連帯感が生まれて初めていた。
「そういやサーバー名どうすんの?」
「それなんだが“Luxiem”はどうだろうか。造語なんだが、ラテン語で“光の王”になるんだ」
「かっこいい!ねぇみんなすごくいいと思わない!?」
ヴォックスの言葉にルカが瞳を輝かせる。皆、さほどルカと付き合いはなかったけれど、大型犬のような彼に好感を抱いていた。そんな天真爛漫な彼の同意と、知性の溢れるヴォックスの提案に異を唱える者は誰もいなかった。
「私の提案を受け入れてくれてありがとう」
「こっちこそ素敵な提案をありがとう。さすがヴォックスだね」
「実はこのメンバーが決まった時から考えていたんだ。気に入ってもらえてうれしく思う。短い間だが、よろしく頼む」
ヴォックスはそう言うとこれから撮影なんだと、足早に出て行ってしまった。それを皮切りに、皆それぞれ次の仕事へと向かっていく。絶対に連絡するからちゃんと返事してね!とルカは手を振りながら去っていった。アイクもミスタも連絡をするとどこか期待に瞳を輝かせていたような気がするけれど、シュウはその言葉の意味も、理由もよくわかっていなかった。
けれど、いい仲間に恵まれたと思いながら晴れ晴れとした表情で、シュウも次の仕事へと向かうのだった。
その日の夜、ぽこんという独特な通知音が鳴り、さっそく誰かがメッセージを送ってきたようだった。
送り主はルカで、どうやらレッスンの合間にショーをイメージしたウォーキングをしてみたらしい。
『まだ上手くイメージを掴み切れていないけれど』というメッセージと共に送られてきた動画に、シュウは目を見開いた。
ルカの衣装はかっちりとしたトレンチに濃い色の青の模様が描かれたクラシカルなデザインのものだった。よくステージで目にしていたルカのパワフルで、躍動感のあるウォーキングとはアンバランスな印象を受けていたのだが、動画の中のルカは驚くほど静かで、重厚感のあるウォーキングを披露していた。
すっと伸びた背筋とブレない体幹、足はコートの裾を意識してか僅かに大げさに動かして揺れを出すようにしている。
今までのルカと全く違うアプローチに、シュウは素直な賞賛の言葉を送った。
「すごいな、ルカくん…」
シュウはベッドに寝転びながら何度もルカの動画を見ながら、自分はどうあるべきかを考える。
あのヴォックスと対になる服を着てランウェイを歩くのだ。比べられないはずがない。
朝焼けの赤をヴォックスが、日が沈む直前の青をシュウが纏う。ヴォックスの得意とする重厚なウォーキングに合わせるべきだろうか、それともより対象的に見えるように軽やかなウォーキングにするべきだろうか、いろんなアイデアが浮かぶけれどどれも正解で、どれも不正解なような気がして自信が持てなかった。
シュウは明日、自分も動画を撮ってみようと思いながら目を閉じる。いろいろなことがあって酷く疲れてしまったから全ては明日、ゆっくり止んだ後に考えたほうが建設的だと自分に言い聞かせながら緩やかな眠りの淵に落ちていった。
翌日、シュウは目を覚まして真っ先にブラックコーヒーを飲み朝日を浴びながらスケジュールを確認する。午前中に雑誌の撮影、午後からはウォーキングとバレエのレッスンだ。
ファッション誌の特性上、もしかするとLuxiemの誰かと一緒になるかもしれないな、などと考える。コーヒーを飲みながら段々と、クリアになっていく思考でシュウは荷物をまとめた。ジャージに、ユニタード、バレエシューズ、タオルにデトックスウォーターの入ったボトル。後は昨日渡された音楽データの入ったウォークマンをカバンに詰める。
昨夜考えたウォーキングスタイルを、講師と相談をして、ヴォックスとも擦り合わせをしなければ、やることは山のようにあった。それらを効率よく片付けるために、シュウの思考は埋め尽くされていった。
午前の仕事を終わらせると、その足でウォーキングのレッスンへ顔を出す。
早く来ていた顔なじみの講師に次のショーでのウォーキングのスタイルを相談する。あれやこれやと話しているうちにじゃあ全部動画に撮ろうという流れになった。
スタンダードな歩き、重厚感を前面に押し出した歩き、ポップな歩き、どんなウォーキングでもそつなくこなすシュウはどのウォーキングでも十分にその魅力を発揮する。
しかし、どれも無難という一言に尽きる出来栄えだった。
「どれも素晴らしい出来じゃないか」
講師はそう言うけれど、シュウはきっとあのメンバーの中では埋もれてしまうだろうと落胆する。
モデルは服を際立たせることが仕事だ。
だからこそ、クセを無くしなるべく無個性であることを望まれることが多い。けれど、今回はもっと内面を見せてくれとデザイナーから指示があったのだ。この仕事をしていて初めてのオーダーにシュウは戸惑っていた。
個性の塊のような四人に無個性のシュウが太刀打ちできるわけがないのだと勝手に悲観に暮れる。けれど、だって、まさかあのヴォックスと対のドレスを着ることになるだなんて夢にも思っていなかったのだ。
ヴォックスとはこれまで、何度か同じショーでランウェイを歩いたことがった。けれど、それは彼がファーストルックやトリを務め、シュウは特に重要なポジションではなかった。
しかし、今回は責任の重さが違う。このコレクションの肝であり、ヴォックスと共にトリを務めなければいけない。それだけではなく、昨日のルカのウォーキングは目の肥えたシュウですら息を飲むような存在感で圧倒された。その事実がシュウを追い込んでいったのだ。
「ありがとう、でも、これじゃあまだ足りないんです。もっと頑張らないと」
講師の言葉に弱々しく笑ってシュウは答えることしかできなかった。
そうしてシュウの苦悩の日々は幕を開けたのだった。
あれから暇さえあれば過去のショーの動画を見たいり、家でウォーキングの練習を重ねていた。Luxiemのグループチャットにはイメージを固めたメンバーから動画が届く。そのどれもがシュウにはないもので、デザイナーの意図する歩きを見せていた。
ついに、動画を送っていないのはヴォックスとシュウだけになってしまった。
『シュウ、少し話があるんだが会えないか?』
鬱鬱とした気分でチャットを見ていると、ヴォックスから個人あてにメッセージが届いた。方向性を決めあぐねていることへの不満が溜まっているのだろう。
シュウは、スケジュールの確認をしてオフの日をを使えた。するとすぐに返事が返ってきて、今週末にヴォックスと顔を合わせることになった。きりきりと痛む胃を見なかったことにして、シュウは今夜もウォーキングの練習の励む。
フローリングに敷き詰めたリノリウムの塗装が剥げ始めている。爪も割れ、マメだらけになった足を靴で隠して歩く。そうしてシュウの夜は明けていく。
どれが正解で、不正解かなどとうにわからなくなっていたシュウは歯を食いしばって歩くのだった。
あっという間に週末になった。
朝目を覚ますと、連日の無理が祟ったのか酷い顔色をしていた。
(自己管理ができていないって怒られちゃうかも)
鏡に映る自分の顔を見ながら諦めたように笑う。そう、シュウは疲弊していた。
目隠しをされたまま手探りで答えを探すには、あまりにシュウは若かったのだ。やはり、自分の抜擢は間違いだったのではないかと何度考えたことだろう。
それにすら答えるものはなく、ただただシュウは自身を消耗させることしかできなかった。
会いたくないわけではないけれど、自身を認め、仲間と認めてくれた相手に合わせる顔がない。シュウはそれでも、約束だからと自分に言い聞かせ支度をする。
黒のタートルネックに革ジャン、細身のスキニーを合わせれば誰もが振り返るうつくしい青年の出来上がりだ。
ばたばたとカバンを持って待ち合わせのカフェに向かう。
前にヴォックスに連れられて行ったことのある、しゃれたカフェに着けば店員がすぐに店の死角になるテーブル席へと案内してくれた。
まだヴォックスは来ていないようだ。先にコーヒーを頼んで一服することにする。
香りのいいコーヒーを半分くらい飲み干すころ、ヴォックスは現れた。
「Hiシュウ。久しぶりだな」
「久しぶりヴォックス」
ヴォックスのハグを受け止め、手渡されたバラの花束を大事に開いている席に置く。
「やっぱり、シュウには紫のバラが似合うと思ったんだ」
「僕女の子じゃないからこんなプレゼントまで用意しなくていいんだよ」
「いいや、ダメだ。私が渡したかったのだから、シュウはそれを受け取る義務があるんだ」
ヴォックスは何かとシュウに構おうとして、時折こうやってプレゼントを渡してきたり、食事に誘ってくる。
特に断る理由もないからシュウは予定がなければ、二つ返事でOKをしていた。
「ところで話したい事ってなに?」
「ああ、今度のショーの事でな」
やはりそうきたか、とシュウは胃がずんと重くなる感覚を感じて押し黙った。
「実はずっと思っていたんだが、私とシュウは対になったドレスを着るだろう?だから、少し設定を入れてみてはどうだろうか」
「…設定?」
「そう。例えば私が朝焼けならきっと一日の始まりだ。いままでのスタイルでは重すぎるからもっと軽いウォーキングをしようと思っているんだが、なにぶんそういった歩きをしたことがなくてね。色々と試したんだが、どれが正解かわからなくなってしまったんだ」
ヴォックスの言葉に、シュウは目を見開いた。いま彼はなんと言ったのだろうか。
正解がわからない。それはここ数日、シュウが抱えていた悩みと全く同じだった。神に愛されたモデルとして名を馳せているヴォックスでもあっても自分のような凡人と同じ悩みを持つのかと、内心で舌を巻いた。
「それで考えたんだ。演劇のように役に設定を付けて、その人物に成りきってみるというのはどうだろうか。私の朝焼けと、君の青をそれぞれ人間として表してそれをなぞるんだ。面白そうじゃないか?」
「あ、うん。すごくおもしろそう!すごいやヴォックス、僕そんな事想像すらできなかった」
「はは、いろんな角度から見たほうが楽しめるからな。クセのようなものだよ。さて、では設定について語り合おうじゃないか」
そう言ってヴォックスはノートと、ローラーボールを一本取り出し、テーブルに広げた。
朝焼けと青の関係性、どんなことが好きで嫌いか、どんな仕事をしているか、相手の事をどう思っているかなど思いついた端からノートに書き留めていく。
朧気にだが、自分の纏う服とその人物像が見えてきたような気がする。それはヴォックスも同じだったようで、
よかったら一度合わせて歩いてみないかという提案を快く受け入れ、シュウは近くのスタジオを予約した。
スタジオに着いた二人は早速準備に取り掛かった。
耳にタコができるほど聞き込んだ音楽に合わせて歩く。レッスンでもリハですらない試すだけのウォーキングだからと、どちらもリラックスした状態で挑むことができた。
シュウの演じる青は夜の始まりを告げ、太陽を眠らせ月を空に浮かべることを生業としている。穏やかで、全てを包み込むようなそんなさやしさに満ちた人物だ。
対するヴォックスの朝焼けは闇を払い空を明るく染め上げ、一日の始まりを告げる。苛烈な目を刺すような光とともに慈愛をもって世界を明るく照らす。二人は顔を合わせたことも、声を聞いたことすらないけれど互いを愛していた。
空に浮かぶ真っ白な雲も、晴れた日の穏やかな青空も、黄昏の沈む夕日も全て等しく愛している。
そんなことを考えながら歩く。
シュウの一歩は静かでたおやかだ。ヴォックスは力強いけれどシュウに合わせるように歩調を狭めている。
それぞれの役柄、それぞれの歩きで端から端まで歩き切った。
ヴォックスのスマホで撮った動画を確認する。小さな画面には、今までで一番素晴らしい出来だと言えるようなウォーキングが記録されていた。
「ヴォックス、すごいよ!今までで一番しっくりくる」
「ああ、思い付きだったんだが中々いいできだな。もう少し練習をしてもう一度撮ろう」
何度も動画を見返してあれやこれやと修正箇所をすり合わせる。実際に歩いて、時には意見がぶつかることもあったけれど互いに歩み寄り一度目よりもずっと良くなった。動画に撮り、Discordのチャットに張り付ける。するとすぐに反応が返ってきて皆いいね、と言ってくれた。
シュウとヴォックスは顔を見合わせて笑う。
やっとたどり着いた正解に、心からの笑みを浮かべることができたのだった。
それからは嘘のように仕事は順調に進み、気が付けば季節は秋になっていた。
八月が終わり、本番まであと一ヵ月を切った頃衣装合わせや、特別レッスン、リハ―サルにファッション業界は多忙を極めていた。
「シュウ、ちょっと痩せた?ウエストにシワができてる」
「うん、全体のバランスはよさそう。良く似合ってるわ、さすがね」
「アクセサリーはどうする?二番?それとも大胆に五番か?」
「靴はこれよ、サイズは?」
あちらこちらからスタッフの声がする。それに答えながら、シュウは衣装のサイズ直しが終わるのを待っていた。
最善の状態に持っていくために、ギリギリまでサイズの調整を行うのがこのブランドの特徴だった。あらかた直しておいて、最終調整は本番当日に行うのが常だ。
騒がしい室内にはLuxiemのメンバーが全員そろっている。皆それぞれスタッフに囲まれサイズ調整をしているようだった。
「今回のコレクションには特に力を注いでいるの。メンズのコレクションでこれだけドレッシーな衣装用意するのって珍しいでしょう」
こっそりとシュウに耳打ちしてくれたのはすっかり顔なじみになった女性のスタッフだった。
「そうなんだね」
「何でも、このショーで成績が奮わなければデザイナーの彼、解任だって」
「え?」
「まあ、でもうちは実力主義だからしょうがないわね」
そう言い残して女性スタッフはシュウから衣装をはぎ取り、早く着替えて出て行ってねと忙しそうに駆けて行った。
シュウの脳裏には、あのミーティングの日のブランドを愛し、自分の作品に自信を持つ控えめな男の笑顔が浮かんでいた。膨大な熱量で自身のプランを語った彼がそんな窮地に立たされているだなんて思いもよらなかった。
何かできるかとはないかと考える。モデルの自分にできることは服を際立たせることだけだ。誰よりも服を着こなし、観客にアピールすることしかできない。
シュウは、自分にできる最善を常に模索している。それがデザイナーの男を救うことになるとは、シュウ自身ですらまだ気が付いていなかった。
九月の終わりについにショーの本番、パリファッションウィークが開催される。
世界中から記者や、ファッション業界の重鎮たちがパリに押し寄せ、街を華やかに染め上げていた。そんななかシュウたちモデルは寝起きの寝ぐせの付いたままの髪に、よれよれのジャージ姿で車に揺られている。どうせ会場に着いたらパンツ一枚でいなければいけないし、スタイリストに髪をがちがちに固められるのだ。そのうえ、ごった返す楽屋で着てきた服が行方不明になるなんてよくあることだったから、できるだけ着古したもう捨ててもいいレベルの服を着て会場入りをするのが常だった。
会場に入ると徹夜をしているであろうスタッフたちが、目の下に隈を作って駆け回っている。
その間を縫ってシュウは用意されてる楽屋へと入っていく。既にアイクとルカは来ており、ミスタとヴォックスはあと少しで到着するらしい。
ルカのハグを受け止めながら、アイクの言葉を聞いて相槌を打つ。
「ねぇねぇ!あの動画のウォーキングすごいきれいだったよシュウ~!」
「ありがとう、ルカ。ちょっと苦しい、かな…」
「ルカ、放してあげなよ。シュウ潰れちゃいそうだよ」
アイクは上に来ていたトレーナーを脱ぎながらルカに声を掛ける。やはり、ルカは慌ててシュウから離れるけれど強い力と恵まれた体格のルカに圧し掛かられたシュウはぐったりとしていた。
「ごめんね~シュウ~!UNPOG~!!」
「いいんだ、大丈夫」
アイクが二人のやり取りを微笑ましそうに見ていると、ミスタとヴォックスが楽屋に入ってきた。
「おはよ…」
「やあ、おはよう。ミスタすごい顔だけど、何かあったの?」
「キンチョーで眠れなかっただけ」
ふらつくミスタは椅子に座ると、そのまま机に突っ伏してしまった。
目の下の濃い隈と、荒れた肌がミスタがどれだけ弱っているかを物語っていたけれど、もうすぐメイクの時間が差し迫っている。
「どうしよう、事情を説明してミスタだけ少し時間ずらしてもらう?」
「いいんじゃないか。少し休ませてやらないと可哀そうだ。見かけによらずミスタは繊細なんだな」
そう言ってヴォックスもトレーナーを脱ぎ捨てた。さすがと言うべきか均整の取れた身体に目を奪われる。
それこそ、近年では痩せすぎのモデルは採用されないからトレーニングと食事の管理を怠らなかったシュウでさえヴォックスとルカの肉体美には気後れしてしまう。
意を決してトレーナーを脱いでそれを肩に掛ける。身体を冷やさないようにするためだったけれど、なんとなく身体も隠せてよかったと息をつく。
「……君たちみたいにあんまり体格良くないから、あんまり見ないでくれる?」
「いや、十分立派だと思うよ、特に腕とか」
シュウはアイクの言葉にありがとうと曖昧に笑って準備が始まるのを待った。すぐにメイクアップアーティストが入ってきて化粧を施される。
髪はオールバックに撫でつけられ、メイクはそれぞれ衣装に使われている色をメインで使われる。血色を良く見せるためのチークに、目鼻立ちをはっきりとさせるシェーディング、目元に細く長く引かれたアイライン。鏡の中にはいつもよりもずっと華やいだ自分の顔が映っていた。
最後にミスタを起こし、メイクを終えたメイクアップアーティストはすぐに楽屋から出ていった。再びLuxiemの五人だけになった時、シュウは躊躇いがちに口を開く。
「あの、僕聞いちゃったんだけれどデザイナーの彼、このショーが成功しないと解任らしくて…」
「え!?そうなの?
「ほう、それは初耳だな」
「僕も知らなかったよ」
「…ふーん」
やはり誰もそれを知らなかったらしい、シュウはこの半年ずっとこのコレクションに向けて調整を重ねてきた。そうしていくうちにデザイナーと言葉を交わすことも増え、彼の人となりを理解しようと努めてきた。
シュウは彼の創り上げようとしているものに心を打たれ、彼の作品を愛するようになっていて、それがもしかすると今回限りになってしまうのではないかと不安だったのだ。
そんな不安を抱えたまま舞台に上がりたくなどなかった。もしかしたら、と以前にアドバイスをくれた時のように誰かが鮮やかに解決してくれることを願ったのかもしれない。
Luxiemの五人に知っておいて欲しかっただけかもしれないけれど、シュウは胸に秘めていた思いを口にする。
「あのさ、僕たちになにかできないかな」
一介のモデルにできることなど限られているけれど、それでも言わずにはいられなかった。
「なにか、とは?」
「うー、それが思いつかないんだよね…」
ヴォックスの問いにシュウはあはは、と笑って気まずげに目を反らす。やはりそう上手くはいかないかと自身の考えの甘さを思い知る。
「んー…あのさ、簡単に言えばこのショーが成功すればいいんだろ?」
「え、あ、うん」
「じゃあ、簡単じゃん。俺たちで伝説に残るくらい最高なショーにしちまえばいいんだよ」
「Wow!ミスタそれってすごいPOGだね!」
「だろう?俺たちが全力で観客を魅了して沸かせたら最っ高ってことじゃん。難しく考えないで自分の最高のパフォーマンスできるようにしたらいーんじゃね?」
半分眠りに落ちそうなミスタの言葉にはっとする。そうだ、シュウたちはモデルで、彼の作品を際立たせるためにここに居るのだと改めて実感する。
「そっか、そうだよね。うん、ありがとうミスタ」
「どーいたしまして。シュウが全力出したら俺たちなんか霞んじゃっておまけ扱いになるんだからさ、手加減してくれよな」
「んー、それはこっちのセリフかな?」
「「「「何をいってるんだ?」」」」
一瞬の気まずい沈黙が楽屋に降り注ぐ。その沈黙を破ったのはスタッフだった。
「すみません、最終調整をするのでこちらに着替えていただけませんか?」
運び込まれたのは五人の衣装で、試着補正やメイクの手直し、リハーサルに、他のモデルやクライアントへのあいさつ回りで忙しくそれ以上話しをすることはできなかった。
バタバタと時間は過ぎ、ついに本番がやってきた。
シュウたちLuxiemの順番はCグループだからもうすぐだ。舞台裏からスポットライトを浴びて歩くモデルたちを見ている。
ひび割れた雨空を模したようなトレーナーや、かっちりとしたジャケットに淡い色の帯を付けたデティールが凝ったもの、カジュアルなシャツ、様々な空の色たちがランウェイを闊歩する。
「準備おねがいします」
スタッフに呼ばれ五人は舞台袖に移動した。
聞きなれた音楽に変わり、トップバッターのルカが歩き出す。
白いトレンチコートによく晴れた日の青空の色を乗せて、ひざ丈のコートの裾をひらつかせながら歩く。今までのルカ・カネシロしか知らない観客は最初、それがルカであることに気が付かなかった。それほどまでに今日のルカのウォーキングは、普段の彼からかけ離れていたのだ。
二番手はアイクだ。夏の空に浮かぶ雲。ステンカラーコートに、ブランドロゴの入った透け感のシャツと、ハーフパンツ。足元はスニーカーだ。軽やかな足取りで、まるで体重を感じさせない。夏の空を泳いでいるかのようなウォーキングで観客を魅了する。
三番手のミスタは夕日のオレンジだ。上半身に動きを付けて、下半身は力強くミスタにしかできないウォーキングを見せる。オーガンジーのシャツにふんだんに飾られた複雑なフリルが揺れる。
そして、最後はシュウとヴォックスだ。ヴォックスは下手の舞台袖からこそりと反対側に立つシュウを見る。恐ろしいまでの集中力できっと彼はもうヴォックスも、観客も見えていないのかもしれない。今舞台袖に立っているのはモデルの闇ノシュウではなく、『青』だ。
ヴォックスはぞくぞくする。シュウはいわゆる憑依型というタイプのモデルだった。
いつも控えめなシュウは舞台の上で化けるのだ。なんども同じ舞台に立ってきたヴォックスは、今日はその中でも特別に素晴らしいものが見られると期待に胸を高鳴らせる。
ミスタが戻ってきた。照明が暗くなる。
徐々に明るくなるステージの上を二人は歩き出す。上質なシルクの生地で作られたジャケットが光を受けてやわらかく浮き上がった。
胸元の合わせから伸びるトレーンの帯。真っ白のそれは濃い青のグラデーションになっていて夕闇の青を思わせる。ヴォックスのそれは燃えるような赤だった。観客はすぐにそれが対なのだと気づく。
けれど、二人のアプローチの違いで全く別のドレスに見えた。
シュウのそれはたおやかで、全てをやさしく包み込むようなまるで一日の終わりを告げるあの一瞬の青の世界のうつくしさを表し、ヴォックスは夜の闇を払う力強さと朝を迎える穏やかな朝焼けの美しさを表していた。
正反対の表現のアプローチが新鮮で観客たちはランウェイを歩く二人に魅了されていく。
ステージの中央で、僅かに交差する視線。
互いを求めあう、そこにいるのに触れられない、交じり合えない、愛おしいものを見る瞳に息を飲む音が聞こえた。
そのまま視線は交じり合うことなく外され、また正面を向く。
そしてターンを決め、『朝焼け』と『青』は舞台袖にはけていった。
会場に明かりがつくと呆けていた観客たちは立ち上がり、割れんばかりの拍手を贈る。楽屋まで響く歓声と拍手に休んでいたモデルや、スタッフも舞台裏にどんどん集まってきた。
最後にヴォックスとシュウにエスコートされ、デザイナーが登場すると再び拍手喝采が巻き起こった。
あまりの反響にスタッフを含め、全員が驚いていた事を三人は知らない。
こうしてショーは無事に終わり、この五人を起用したショーはファッション業界で語り継がれる伝説のショーとなったのだった。