:envy 穏やかな夜だった。
それは今夜の空の天気の話でもあるし、街中の静けさの話でもあるし、この新横浜警察署吸血鬼対策課のヒヨシ隊の執務室の中の話でもあった。
時計の針は頂点をとっくに回った後だったが、最近立て続けに起きていた新横に住む妙な吸血鬼たちのお祭り騒ぎのような事件やそれに伴った通報も今夜はぴたりと止んだように無い。そういった緊急の出動が無いため、ある者は当番制の巡回に出かけたり、ある者は溜まった雑務を処理したり、ある者は監視対象の吸血鬼が同居している退治事務所へと赴いたり……、と各々に忙しくも緩やかに職務を全うしていた、そのときだった。
雑音程度だった室内の会話の中。己の部下の隊員たちの一際大きな声が上がり、相変わらずの騒がしさに俺は手元の書類へ落としていた視線を上げた。
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