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    ヒロ・ポン

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    ヒロ・ポン

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    ウキウキ隆臣とワクワク雄大

    秘密の花園「門倉さん、明日の勝負の事なんですけど」
    梶がなんでもないように私の手をとり、握った。
    感謝を述べる時、何かおねだりをする時、自分の挙動を止めようとする時、何かの感情を押しとどめたい時。
    唇を噛むのを咎め、親指の爪を噛むのを咎めたらこうなった。
    「明日の勝負、2つ目は門倉さんが来てくれるんですよね?」
    「ええ。御大方はお屋形様付と人材の収集ですし、最上立会人はご自身の専属の立会いとなりました」
    「よかった」
    ぎゅ、と己の手がの手に握りこまれる。自分はこれにめっぽう弱い。
    「明日は二連チャンですから気合い入れないとな。一個目は普通にトランプで、これはこの間のゼネコンのやつを賭けるから大したことないんですけど」
    手の甲に付いた鋲をくりくりと親指で潰しながら手を揉み込んでくるのは無意識だろうか。
    「その次はすごいですよ。三つの椅子の芸当っていって、ハズレの椅子を組み込んじゃったらその場で串刺しになるっていう…」
    きちんと耳は梶の話す内容に向けているが、正直手元を凝視していたい。
    「だから門倉さん、明日は期待しててください」
    「はい」

    ぎゅう、と強く手を握られた。思わず握り返すと照れくさそうに梶が笑って、また次も握り返してやろうと思った。
    梶が嘘喰いの元へ戻ってから自室で明日の資料を捲る。
    梶の言っていた通り、明日の二部のゲームは「三つの椅子の芸当」だ。
    まず10の椅子から相手が選んだ椅子が5つある。その中には”はずれ”の椅子があり、相手とやりとりをしながらそこから1つ選ぶ。
    頭を一つ、踵を一つ、それぞれ椅子の上に乗せ、腰の下にもひとつ椅子を置く。三点で支えた状態の身体のうち腰の下の椅子を抜き、その状態で保っていられれば成功だ。
    この時選んだ椅子がはずれの椅子であれば終了。挑戦者は椅子の下にある天に向かって立つ鋭利な刃物で串刺しか、運がよくて数十針の負傷を負う。それをどちらかの行動不能か、死か、椅子が無くなるまで続けるのだ。
    梶はこの死合を楽しみにしていろと言ったのだ。
    爆発や常時の流血、大掛かりな舞台装置などはない。しかし、シンプルながら己の身を重力と運そして才覚に任せる様は大層興奮させてくれる事だろう。
    親愛なる我が専属がこの勝負に「期待しろ」と言っているのである。これに応えず何が立会人か。
    クローゼットを開け、新しい靴下とワイシャツを出した。ネクタイはワインレッド、革靴はプレーントゥ、そしてクリーニングに出して戻って来たばかりの一張羅を出した。


    *
    「お待たせ致しました。賭郎弐號立会人、門倉雄大です。」
    既に待機用の椅子に座っていた僕たちの目の前の扉が観音開きになり、そこから堅く分厚いシルエットが部屋に入って来た。
    薄暗い室内に対して照明が多い廊下の明るさを肩に掛けながらやってきた門倉さんは、いつかのあの日のようないで立ちだった。
    遅れ毛も乱れもなく立てられた髪、純白の手袋、まっすぐに落ちるスーツのシルエット。
    それを見て僕は勝負前だというのにドキドキした。素直に、かっこいい。
    ルール説明がされ、幕で隔てられていた先に相手と同時に椅子を探し始めた。

    「僕はこれで」
    「お預かりします」
    全てデザインの違う椅子を集めるのには骨が折れただろうと思う。門倉さんは僕が引きずって来た椅子を軽々と持ち上げて決められた位置に置いた。
    その時ひらりと翻ったスーツの裾から模様が見えた。赤に、金の糸で、なんの絵だろう。
    最上さんの所の黒服の子たちや、門倉さんや南方さんの長丈、真鍋さんのたまご用ポケットなど改造が施されているスーツは珍しくない。
    けど、門倉さんのその裏地に細工が施してあるスーツを見るのは初めてだった。

    そんな疑問を持ちながら僕は3つの椅子の上に横たわる。まだ頭と脚には椅子とは別の支えがついていて、身体の下にある椅子がセーフの椅子かどうかはまだ分からない。
    「それでは、椅子を引き抜きます」
    この”それでは”がさよならの挨拶になるかもしれない。僕はしっかりと目を開いて、僕を見下ろしてくる僕の立会人の顔をしっかりと見ていた。


    結果は、今こうしているのだから言うまでもない。
    相手はハズレが運よく脚にあたり今は自分の連れて来た側近に止血をされている。
    どうにか誰の命も失わずに勝負は終了した。僕ならあの傷くらいならまだ続行するが、相手にはもうその意思はないらしい。
    「お疲れ様でした。こちらには電波がございませんので独自回線で只今送金しております。ご確認は地上で」
    「ありがとうございます。あの、」
    「はい?」
    まだ一筋も乱れていないそのトサカをじっと見上げ、ちょっと離れてから門倉さんの全身を頭のてっぺんからつま先まで眺めてみる。
    「何か粗相がありましたでしょうか」
    「いや、バシっと決まってるな~と思って…いいっすね、へへ」
    僕の立会人、文句なしにカッコイイな、と思わず胸を張った。
    「梶様が”期待していろ”を仰られましたので、お応えせねばと思い少々気合いを入れて参りました」
    少々で済むカッコよさだろうか?ばっちりと決めた髪、どうしてか似合う眼帯、パリッとしたシャツに脚に沿って真っすぐに落ちるスラックス。一点の瑕疵もない革靴。
    身につけているその全てが門倉雄大の為に生まれて来たものであるかのように似合っている。

    「今日のジャケット、裏地になんか刺繍してますよね?なんの模様ですか?」
    先ほどからちらちらと見えているワインレッドの布地が気になり、我慢できずに聞いてみた。
    門倉さんは「ああ」となんでもないように一番下のボタンあたりから裾を少しめくり、覗こうとした僕の目からぱっと隠してしまった。
    「それはまた、お屋形様へのご報告を終えられた後にでも」
    うわ!と声が出る所だった。そんな事、もう殺し文句じゃないか!とこちらからは苦情の意の文句が出かけた。
    入金の確認通知が来て早々に車に移動し、そそくさと報告をして、ほら!見せてください!ほら!と門倉さんをせっついた。

    門倉さんは二人しかいない執務室でゆっくりとジャケットのボタンをはずし、最後の一つをボタンホールから抜きながらにこりと笑った。
    勿体つけるようにゆっくりと開かれた門倉さんの秘密の花園には、ネクタイと揃いのワインレッドの裏地に金の糸でそれはそれは見事な龍が刺繍されていた。
    細い糸で数千も万も刺されたそれのじろりとした目に射貫かれる。
    自分で言い出して見せてもらった物ではあるが。どう考えても気合いの入っている時にしか着ないでしょという様相のそれに、それを着て髪もばっちり決めて来てくれたという事に、僕はひどく悶える事となったのだった。

    こんなにかっこいい専属がついてしまってどうしよう。
    こんなふうに期待して装ってきてくれるのなら、命を張った勝負のやりがいも増してしまうじゃないか!



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    トーナ

    DONE初門梶SSですが、門倉さんあまり出ません。すいません…。

    裏ver書きたい。
    僕の秘密

     門倉さんに秘密にしていることがある。それは門倉さんがいない間に僕が彼のシャツを独り占めしてることだ。僕と門倉さんは恋人同士で今でもどうしてこの関係になったのかもわからない。きっかけはたぶん、プロトポロスでの出来事だろうと踏んでいる。お付き合いしてだいぶ経った頃に彼がある日仕事が長引いてなかなか会えなくて寂しくなった僕は洗濯物に混ざっているシャツを見つけた。シャツから香る門倉さんの匂い。たばこと体臭。最後に嗅いだのはいつだったか。そしてふと思いついて、実行すると寂しさが解消された。
     
     その日も僕はあることを始めた。洗濯せずに取っておいた門倉さんのシャツを抱きしめながら眠る。彼と一緒に暮らすようになって、いつしか彼の存在がそばにあるのが当たり前になっていた。だから、会えない間はそばにいないと僕は胸に穴が開いて落ち着けなくなってしまう。
    「…門倉さん」
    僕より大きいそのシャツから嗅ぎ慣れた匂いがした。その匂いがあるだけで門倉さんがいるんだと錯覚できる。だから、よく眠れるようになる。胸のあたりに顔を埋める。今は薄っぺらいシャツだけの感触しかないけど、ここには彼のたくましく厚い 1001

    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173