おやすみひな鳥匠が眠っている。
こんな書き出し、小説なら最悪に下手な作家しかしないだろうな、と思うがそれ以外に表せないくらいぐうすかと眠っている。
空調が効いた室内であっても自分の上から毛布がはぎとられたことの心もとなさというものを感じ取りはたと目が覚めた。
エコロジーなどクソ喰らえであるという意識によりひんやりとした室内で毛布を被って眠る。匠はそれを気に入ったらしく、与えた居室ではなく度々俺のベッドにもぐりこんでくる。
書類上で見た時にはもう齢は40を超えていたか、と思い出す。それでこんなに可愛げのある生き物であるというのは何らかの手違いのように思えて仕方がない。
「匠、毛布返してくれよ」
つん、と毛布の角を引いてみたが、より強く巻き込まれた。
「たくみ~」
反対側を引いてみても、襟足をそよそよと揺らして見ても、頬の毛にふわふわと触れてみても反応はない。
毛布を足しに立つのも面倒になり空調の温度の方を上げ、わずかに見つけた隙間から手を入れて中の匠を抱き込んだ。
「お前、こんなに熟睡するんだなあ」
深く吸って、深く吐く。誰だって簡単にできるそれが、誰だって簡単に止まるのを俺たちは知っている。
だからよく食べ、よく眠り、よく笑うのだ。
室温がわずかに上がったのでも感じ取ったのか、毛布のみのむしは寝返りを打つのと同時に綻んだ。
「匠、こっち来い」
ころりと寝転がるその先に腕を出し、乗り上げて来た胴をそのまま引っ張って抱き寄せた。
今度こそ毛布を取り返し、男二人でも十分に覆えるそれに二人で収まった。空調を二度下げる。北風と太陽だ、と笑ったが、鼻で笑ってくれる男は熟睡している。