無職でどうでしょう「そろそろ何にするか決まった?表の仕事」
人をそんな、今はやりの無職の若者みたいに扱って、と言いたかったがすんでのところで飲み込んだ。実際、今は事実上無職だ。
警察の中にも賭郎の手の者は多数潜り込んでいる。しかし闇討ちや潜伏ではなくある種正規のそれにも近い手順で引っ張り込まれた身としては即時、警察組織に戻るというのは難しかった。
鷹さんは「別にどこでだってやっていくさ」と早々に賭郎の用意した場所で中華飯店を営み、数人の黒服を従業員としてデカ盛りとほかメニューの味で「店主が怖い」と書き添えられながらも食べログ3.4の店になっている。
さて、と居住まいを正した。現在の主人である青年のいう事も最もである。賭郎は人材の宝庫というが、それは裏社会一本の話ではない。みな表の世界のどこかに根を下ろし、その要の地下茎、果実、種子たるものが賭郎である。
自分には現在、その表の仕事というものがない。立会自体には賃金は発生しないが、組織としての賭郎の仕事をして細々と仕事量に対応した賃金を受け取っている。
警察時代よりも格段に良い収入にすっかり忘れていたが、指摘された以上は考えなくてはならない。一日九時間寝ている場合ではなかったな、と背を丸めて顎に手をついた。
密葬課に居た時は所属する場所自体の表も裏もなかった。警察という組織が表にあるといえばそうで、やっている事が裏と言われればそうだったからその境界はあいまいだった。
今こうして考えてみると自分には何ができるか、向いているものはなにか、と考えるのも新鮮に思える。その新鮮さから答えが出てくれればさらに良いのだが、物事はそううまくは転がってくれない。
「別にうちで家事手伝いでもいいけど、できるとは思ってないんだよね」
「うーん…それもまた…どうなのか…」
悩んだところでやはり大した選択肢は出てこない。そもそも、南方立会人のような引き込まれる前からの職業を続けている者以外の表の職業もよく知らない。
鷹さんの他には南方立会人は警察で、夜行立会人は喫茶店のオーナー、目の前にいるお屋形様こと切間創一は若手官僚という身分を持っている。はっきりと知っているのはそれくらいだ。
世間一般の人間が積んでくるようなアルバイトなどの非正規雇用や、パートタイムなどの勤務経験もなく、それらの主流職業とされるサービス業も通ったことがない。
書類社会に身を置いていたから多少の事務処理はした事があるが、すべて用意された形式にぽちぽちと決まった文言を貼り付けるのが主だった内容だった。
身の回りの事は適当にはできるが、それが職につながるとも思えない。
えり好みをする理由もないので聞かれるままにそんな事を返す。警察には身を置いていたが、あの組織も定時などあってないようなものだから定時を中心とした暮らしができるのかも疑問だった。
「…なんか、結構庶民的だよね。普通の会社員になろうとしてない?もっと浮世離れした事言ってよ」
「理不尽な…」