私は好きよあなたのお顔じゃすこし厳つすぎるわ。
そういいながら俺の顔に遠慮なく触るのはこの女くらいしかいない。俺もそれを許すし、許すのもこの女くらいなものだ。
男の子だけど、どうかしら。
と差し出して来た写真には小さく分かれた五指が写っていた。
どうもこうもあるか、と絵子を抱えて持ち上げようとしたら古参全員に止められ、俺は渋々抱きしめるにとどめた。
「高さがあるとこういう時にいいわね。お腹が苦しくない。」
絵子の手は迷いなく俺の背に回って、細すぎる腕が俺を抱き返す。
次の王を身ごもった女だというのにこんなに細くて大丈夫なのかとすら思う。
絵子を抱きかかえて立ったまま丈一に向かってエコー写真を催促する。まだなにもわからないが、今腕の中にある体にはこの命が宿っているのだ。
「どっちに似るかな。男前ならいいが」
「男前にしてもあなたのお顔じゃすこし厳つすぎる。もう少し優しい顔の子になってほしい」
「ぐはあ。でもいい男ぶりだろ?悪くない。お前に似ても美男になるだろう」
「じゃあ顔は私。体はあなたね」
絵子の手が肩から首を撫で、それから頬を包む。
「あら、おひげが残ってる」
「もう六時だ、見逃してくれ」
最近目立つ目じりの皺、眉の毛の流れ、頬骨、耳裏の窪み、剃ってから半日も過ぎてざらつきはじめた顎、全部に触れられる。
「…ほんと、あなたのお顔じゃすこし厳つすぎるわ。」
「ダメか?」
「いいえ?きっとよく笑う子になる」
「名前はもう決まってる」
「もう、勝手に決めたのね」
「ダメか?」
「いいえ?まず、聞くだけ聞くわ」
「よし、刺繍の練習がてらにハンカチに刺してある。是非検討してくれ」
傍らに置いたままだった白杖を持ち、絵子は俺の腕に行き先を委ねる。
家の中ならもう杖がなくても歩けるのは知っている。でも、俺は絵子のこれが好きなのだ。